Scabiosa

*五月*
 気温が上がれば夏のような暑さになる。毎年恒例のバーベキュー。俺は焼いた肉を彼女のところに持っていった。
 髪をまとめ、普段よりもカジュアルな姿。清潔な輝きを放つ彼女は、今日も底抜けに可愛いな。

「食べてる?」
 彼女に聞けば、うん!と返事が返ってくる。

「肉ばっか食ってね?俺の焼いたコレ食え!」
 彼女の口に食べ物を放り込もうとすると、
「え、何これ?」
 と彼女。すんでのところで手首を掴まれた。触れられた手首が熱を帯びる。眉を寄せ彼女を見つめ返した。

「焼きおにぎり」
「形はね。中、何入ってる?」

「食ってみ〜」
「中身確認してから食べるかどうかは決める」
 慎重だな。いや俺が今まで彼女にしてきた数々いたずらを考えたら当然か。
「食べれるものしか入れてねぇ」
「当たり前でしょ。てかなんでこんな黒いの?」
「よく焼いたからだ!」
「藤真くんて、なんでバスケ意外そんなポンコツなの?さっきの準備もさ、枝振り回してただけで何もしてかなったよね」
 鋭い、とてつもななく鋭い。いや、でも待て。そんだけ彼女はいつも俺を見てるってこと。
「さすが!よく見てるよね。もしかして、俺のこと好きだったりする?」
 ふざけて彼女に聞いてみる。ふざけてしか聞けないのが俺の弱点だと自分でも思う。少しだけ彼女は悲しそうな顔をして呆れた。

 どこからともなく、フリースローしようぜーと声が上がる。ゴールのあるエリアへと移動が始まったので、俺は彼女を探しに行った。が、彼女の姿は見当たらない。聞けば、高野と2人どこかに行ったと言う。よりによって高野ってどういう趣味してんだよ。(☜失礼!)
 そう思うと悲しくなってきた。こんな気分の時は何か飲んで、気持ちを洗い流そう。俺は一番近くにあった缶に手を伸ばした。

「藤真、ひどいな。なんであんなフリースロー入らねの?」 
「酒飲んだみたいだぜ」
「弱いのか」
「ほろよいで激酔してる。間違って飲んだっぽい」
「バスケ以外ほんとポンコツ」
「ま、隙があるから、可愛いんじゃん」
「そこがまた、女心くすぐるんだろうな」
「でも本命には全然響いてないよな」

 遠くに花形たちの会話が掠れ掠れ聞こえる。酔い潰れた隙に俺をいじるな…。
 酒に酔ってしまった俺はそのまま寝てしまった。椅子から落ちそうになって目覚めると隣には彼女がいた。
「なんで飲んだの?」
「覚えてねー」
「フリースロー、最下位だったよ、藤真くん」
そ、それは監督のメンツ丸潰れだ。
「しかもあれ、朝のモップがけかけてやってみたいね…明日から一か月、頑張って」

「マジか、ダセェな」
「ホントにね。わたしも手伝うよ、明日から」
 じゃあねと去っていく彼女のキラキラとした残像が残る。
 1か月、毎朝彼女と一緒か。頭の痛みより嬉しさが上回る。結局高野とどこ行ってたのーとは聞けないまま。けど、このふわりと浮くような気持ちの揺らめきを、もう少しだけ楽しんでいたい。
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