Scabiosa
*7月*文化祭
「誰?あれやったの?」
「藤真くん」
「なんであんなにセンスないの?」
「やり直す?」
「いやこのままで…時間ない」
聞・こ・え・て・い・る。俺の地獄耳舐めるなよ。
「でも藤真くん、協力的なわけだし。これだけ塗るの時間かかるんじゃない?しかもこんな明度の低い緑をあのカラフルなペンキから抽出できるなんて、すごいよ」
と彼女。彼女は今日も優しい。ん?優しいのか。最後の言葉は。褒めているのかいないのか??
「じゃあさ、とりあえず藤真くん連れて買い出し行って」
「これ以上謎オブジェ増やすわけにはいかないでしょ?」
謎オブジェ…。
まあいい。というわけで、彼女と買い出しだ。
不本意だが、結果オーライだ。
ホームセンターに着いてさっさとペンキを買う。緑のペンキ。まだ時間はありそうだ。併設するゲームセンターにシューティングマシーンがある。
「この余ったお金でやろうぜ」
「勝手にいいの?」
「大丈夫だろ」
「まあ、いいか。楽しそうだし」
彼女は意外とノリが良い。そこが良い。
ワンハンドでシュートを決める。
するとそのたびに、彼女の顔がぱあッと明るくなる。花が開花するような笑みを浮かべるのだ。俺はそれが見たくて、ひたすらシュートを打った。
「機械みたいに正確だね。ずっと見てたい」
彼女は言った。
「だったら来週試合あるから見に来たらいいよ」
俺は初めて女を試合に誘った…
が、来週末は楽しみにしているお笑いライブがあるとのこと。
ーちょっと何言ってるのかわからないー
お笑いに負けるとは。俺が身につけるべきは、バスケセンスでなくギャグセンスなのだろうか。
教えてくれ。
「入…ら、ないよ、藤真くん」
苦しそうな言い方が、何か別のシーンを彷彿させるのだが、ここは気にせず行こう。メンタル強化だ!
「そうだな、あ、あれだ!左手は添えるだけ」
「え?それ藤真くんのセリフじゃないじゃん。しかも左利きじゃん。左手は添えないほうでしょ」
「いいーんだよ。細かいことは。同じ漫画なんだから、ざっくり行こうぜ」
「こう…だな」
と俺は彼女の後ろに立って、ボールを支え、手の位置を示した。20cmくらい差があるのだろうか。腕を回して抱き寄せるにちょうど良さそうな身長差だ。いっそのこと抱きしめてしまおうか?
「どうしたの?」
彼女が振り返る。
「なんでも…」
シュートが入れば彼女は帰ると言い出すのだろうか?帰したくないな。放ったシュートが奇跡的に入った。全身で喜ぶ。全部を持ってかれるような笑顔だった。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだな」
可愛いな…とか、抱きしめたい…とか、帰したくないな…とか。
彼女といると今まで知らなかったいくつもの感情を知ることになる。この先もきっと。
灼熱の中に放置された彼女の自転車を引いてやりながら、俺はそう思った。
「誰?あれやったの?」
「藤真くん」
「なんであんなにセンスないの?」
「やり直す?」
「いやこのままで…時間ない」
聞・こ・え・て・い・る。俺の地獄耳舐めるなよ。
「でも藤真くん、協力的なわけだし。これだけ塗るの時間かかるんじゃない?しかもこんな明度の低い緑をあのカラフルなペンキから抽出できるなんて、すごいよ」
と彼女。彼女は今日も優しい。ん?優しいのか。最後の言葉は。褒めているのかいないのか??
「じゃあさ、とりあえず藤真くん連れて買い出し行って」
「これ以上謎オブジェ増やすわけにはいかないでしょ?」
謎オブジェ…。
まあいい。というわけで、彼女と買い出しだ。
不本意だが、結果オーライだ。
ホームセンターに着いてさっさとペンキを買う。緑のペンキ。まだ時間はありそうだ。併設するゲームセンターにシューティングマシーンがある。
「この余ったお金でやろうぜ」
「勝手にいいの?」
「大丈夫だろ」
「まあ、いいか。楽しそうだし」
彼女は意外とノリが良い。そこが良い。
ワンハンドでシュートを決める。
するとそのたびに、彼女の顔がぱあッと明るくなる。花が開花するような笑みを浮かべるのだ。俺はそれが見たくて、ひたすらシュートを打った。
「機械みたいに正確だね。ずっと見てたい」
彼女は言った。
「だったら来週試合あるから見に来たらいいよ」
俺は初めて女を試合に誘った…
が、来週末は楽しみにしているお笑いライブがあるとのこと。
ーちょっと何言ってるのかわからないー
お笑いに負けるとは。俺が身につけるべきは、バスケセンスでなくギャグセンスなのだろうか。
教えてくれ。
「入…ら、ないよ、藤真くん」
苦しそうな言い方が、何か別のシーンを彷彿させるのだが、ここは気にせず行こう。メンタル強化だ!
「そうだな、あ、あれだ!左手は添えるだけ」
「え?それ藤真くんのセリフじゃないじゃん。しかも左利きじゃん。左手は添えないほうでしょ」
「いいーんだよ。細かいことは。同じ漫画なんだから、ざっくり行こうぜ」
「こう…だな」
と俺は彼女の後ろに立って、ボールを支え、手の位置を示した。20cmくらい差があるのだろうか。腕を回して抱き寄せるにちょうど良さそうな身長差だ。いっそのこと抱きしめてしまおうか?
「どうしたの?」
彼女が振り返る。
「なんでも…」
シュートが入れば彼女は帰ると言い出すのだろうか?帰したくないな。放ったシュートが奇跡的に入った。全身で喜ぶ。全部を持ってかれるような笑顔だった。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだな」
可愛いな…とか、抱きしめたい…とか、帰したくないな…とか。
彼女といると今まで知らなかったいくつもの感情を知ることになる。この先もきっと。
灼熱の中に放置された彼女の自転車を引いてやりながら、俺はそう思った。