Scabiosa
*3月*
膨らんだ花のつぼみ。開花まであと少し。せめて花が咲く頃まで。もう少しだけはしゃいでいたい。でも時は過ぎ、もう今日は卒業式だ。
身ぐるみ剥がされたとはまさにこのこと、式の後、廊下を10mほど歩いたところで、ボタンはおろか、細かい私物に重ね、果てはブレザーまで剥ぎ取られてしまった。卒業式で浮かれて上がった体温を以ってしても、3月の気温には対抗できない。
「高野のブレザー貸して!」
と駄々をこねて見るせる。
そこを通る彼女。友達と談笑をしている。髪を少し切り大人っぽくなっている。
「おや、藤真くん。寒そうだね。」
結局彼女とは進展がないまま卒業式を迎えた。最後くらいふたりで話したりしたいな。
「寒いよ」
「じゃあ、わたしのマフラー貸してあげる。いつかのお返し!」
彼女がマフラーを俺の首にかけようとする。少し首を傾け、見上げてくる顔がかわいい。届かないのだろう。俺も少し首を傾け、彼女に近づいた。3月らしく清々しくて、でもどこか切ない空気の中、彼女と向かいあう。その瞳に吸い込まれそうになる。もう今日で会えなくなる。何か言わなくてはと思っても言葉が見つからない。
「いや待てよ!なんでピンクのフリフリマフラーなんだよ?」
彼女の持つ空気と卒業式の雰囲気に惑わされている場合じゃない。首に巻かれたマフラーに手をかけて言う。
「え、藤真くん、ピンクもフリフリも似合うじゃん?誰よりも。」
「……」
彼女忘れてねぇ。彼女にとって俺は恋愛対象はおろか、男でもねぇ。ただの女装要因でしかねぇな…。
わたしが温めてあげる♡とかいうドラマ的展開はないわけね。目を伏せて振り返り去っていく彼女の姿が残像のように残る。輝きに満ちてとても綺麗だ。これからもっと綺麗になっていくんだろうな。
俺は身体が半分に折り曲がるほど項垂れた。
そして俺はこのままこの恋にそっと蓋をするのだった。
ー叶わぬ恋だったけど、きっといつかいい思い出になるー
そう信じて…。
膨らんだ花のつぼみ。開花まであと少し。せめて花が咲く頃まで。もう少しだけはしゃいでいたい。でも時は過ぎ、もう今日は卒業式だ。
身ぐるみ剥がされたとはまさにこのこと、式の後、廊下を10mほど歩いたところで、ボタンはおろか、細かい私物に重ね、果てはブレザーまで剥ぎ取られてしまった。卒業式で浮かれて上がった体温を以ってしても、3月の気温には対抗できない。
「高野のブレザー貸して!」
と駄々をこねて見るせる。
そこを通る彼女。友達と談笑をしている。髪を少し切り大人っぽくなっている。
「おや、藤真くん。寒そうだね。」
結局彼女とは進展がないまま卒業式を迎えた。最後くらいふたりで話したりしたいな。
「寒いよ」
「じゃあ、わたしのマフラー貸してあげる。いつかのお返し!」
彼女がマフラーを俺の首にかけようとする。少し首を傾け、見上げてくる顔がかわいい。届かないのだろう。俺も少し首を傾け、彼女に近づいた。3月らしく清々しくて、でもどこか切ない空気の中、彼女と向かいあう。その瞳に吸い込まれそうになる。もう今日で会えなくなる。何か言わなくてはと思っても言葉が見つからない。
「いや待てよ!なんでピンクのフリフリマフラーなんだよ?」
彼女の持つ空気と卒業式の雰囲気に惑わされている場合じゃない。首に巻かれたマフラーに手をかけて言う。
「え、藤真くん、ピンクもフリフリも似合うじゃん?誰よりも。」
「……」
彼女忘れてねぇ。彼女にとって俺は恋愛対象はおろか、男でもねぇ。ただの女装要因でしかねぇな…。
わたしが温めてあげる♡とかいうドラマ的展開はないわけね。目を伏せて振り返り去っていく彼女の姿が残像のように残る。輝きに満ちてとても綺麗だ。これからもっと綺麗になっていくんだろうな。
俺は身体が半分に折り曲がるほど項垂れた。
そして俺はこのままこの恋にそっと蓋をするのだった。
ー叶わぬ恋だったけど、きっといつかいい思い出になるー
そう信じて…。
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