Scabiosa

*12月*
 季節はめぐり冬になる。クリスマスシーズンの到来だ。街中がきらめく季節だ。
 校内はイルミネーション点灯式が行われると、クリスマスムード一色になる。この日は点灯式を見るために多くの生徒が夕方まで残る日だ。高野に誘われ、最初は渋々だっただが、弓道部も残ると知り、俺も残ることにした。こういう時の自分は案外単純だ。

 校舎の外に出ると、たくさんの生徒たちが点灯式を見るために集まり始めていた。人の流れに逆らい彼女の姿を探す俺。彼女と一緒に点灯式を見られたらと淡い幻想を抱いていたが、…全然見当たらない。
 カウントダウンが始まっている。残念。ふっと力を抜いた瞬間彼女の後姿が見えた気がした。せめて帰り道、合流できたら…俺は綺麗にライトアップされた円錐型のツリーを見上げて思った。

 帰り道、正門の近くは混んでいた。その中に彼女があった。やっと見つけた。人の波に流されながら、なんとか近づき声をかける。名前を呼ぶと振り向いて辺りを見回す彼女。わざと声をかけたほうの反対側に回ってひょこっと登場してみせた。びっくりして目を丸くする表情が可愛い。

 駅まで一緒に帰ろう、と誘えば彼女は、良いよ、と答えた。この時期にこの雰囲気の中、彼女と歩いていると思うと、なんだかくすぐったい。普段通りーが出来なくなる。
 すっかり暗くなり、気温も下がってきた。首をすくめて彼女が寒そうにしているので、俺はマフラーを差し出した。てかなんで女っていつも薄着なんだろう。ただでさえ、足出していて寒そうなのに…。彼女の真っ直ぐで華奢な足に目をやった。

「いいよ。」
 と遠慮する彼女。

「いやしとけよ。」
 無理矢理にぐるぐるとマフラーを巻く。髪巻き込んだなと、髪をすくってマフラーから出そうとした瞬間、さすがに触れたらダメだろ、と思い直した。でも許されるなら、彼女のその髪に触れてみたい。

 ありがとうと恥ずかしそうに彼女が言うので、こっちも照れてしまう。その表情を見て、ああ、好きだな…と思った。
 
 少しの沈黙の後、彼女が口を開いた。

「藤真くん、クリスマスはバスケ部なんかやるの?また女装??」

 開いた口が塞がらない。彼女忘れてねぇ。いちばんほじくり返されたくないことを、いちばんほじくられたくない相手に言われてる。

「藤真くん女装するなら、見に行きたい。」

 もうこれ以上何も言わないで…。良い雰囲気のまま沈黙を通してくれたらどんなに良かったか。返す言葉もなく、俺は下を向いた。俺完全に恋愛対象じゃねぇな。本当もうイヤだ。
 いっそのこと、史上最高の仕上がりの女装姿をみせてやればいいのだろうか?
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