Mimosa
ヒロインの名前
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病院の待合室。5月の柔らかな日差しが、白い床に長い影を落としている。床にできる影は少しだけ色味を帯び趣を異にする。
三井は一人、膝の検査結果を待っていた。
「もう異常はありません。ただ、無理は禁物ですよ、癖になり繰り返すこともある。」
医師の言葉は簡潔だった。身体は自由になったはずなのに、心にはまだ、癒えなかさぶたが張り付いている。
長い待ち時間に思い出すのは華のことだ。
「……会いたいな」
不意に漏れた独り言が、冷たい廊下の空気に溶けていった。
バスケ部への復帰、そしてインターハイを目指すと言う新しい挑戦。勝手な行動のあとにこれだ。周囲が自分をどう見ているのか、本当に自分は受け入れられたのか、三井には確かめる勇気はなかった。
一人になり、かつての「守られていた場所」を失った今、自分の未熟さが刺すような日差しの下で、白日のもとに晒されているような気がした。
華にも、噂は届いているだろうか。
正解のわからない沼に、ゆっくりと沈んでいくような感覚。色づいた5月の風の中、三井の足取りだけが妙に重い。
教室ドアの前に立つ。
ただ「普通に」開ければいいだけなのに、指先に力が入らない。
……その時だった。
カタン、と小さな音を立てて、ドアが内側から開いた。
目の前には、華がいた。
「……!」
よりによって、なぜ 今、なんだ。
華は驚いたように三井を見上げた。何かを言いたげに、けれど言葉を選んでいるような、そんな沈黙が流れる。
「……ちょっと、来て」
三井は絞り出すように言った。連れ出してどうするのか、何を話せばいいのか。謝るべき相手ではない。けれど、このままではいられない。
渡り廊下に出ると、風が2人の間を吹き抜けた。
沈黙を破ったのは、華の穏やかな、けれどどこか瑞々しい声だった。
「……髪、切った?」
その柔らかな口調に、三井の肩からふっと力が抜ける。
「ああ」
「短いのも、素敵。よく似合ってるね」
華は、変わらない。
あの柔らかで凛としたオーラを纏いながら、三井に対して一人の人間としての温かい視線を向けてくれる。
「俺……どうしたらいい?」
不意に、情けない言葉が口を突いて出た。
華は三井の顔を見ず、遠くの景色に目を細めながら
「……バスケは好き?」
と質問を投げてきた。彼女が、三井が抱えている葛藤のすべてを知っていることを悟った。
「……好きだよ。好きだ」
「じゃあ、それでいいんじゃない?好きなことに、真っ直ぐ取り組める人。夢中になれる人……そんなにいないから」
「でも、周りは俺のこと、色々言ってるだろうし……」
「そんなこと、ない」
彼女は、食い気味に言った。珍しく見せた「芯」の強さ。周囲のノイズなどシャットアウトしてしまえーそう言わんばかりの、揺るぎない肯定だった。
光を受けた彼女の瞳は宝石のようにきらきらと輝いていた。遠くで、午後の開始を告げるチャイムが鳴りわたる。
「…ごめんな」
三井は華に向かって言った。何に対しての謝罪か自分でもわからない。華は、いつもの穏やかな微笑みに戻って、
「お役に立てたなら、嬉しいです」
と、素直な言葉を並べた。ごめんなを彼女はありがとうと受け取ったようだった。
三井は一人、膝の検査結果を待っていた。
「もう異常はありません。ただ、無理は禁物ですよ、癖になり繰り返すこともある。」
医師の言葉は簡潔だった。身体は自由になったはずなのに、心にはまだ、癒えなかさぶたが張り付いている。
長い待ち時間に思い出すのは華のことだ。
「……会いたいな」
不意に漏れた独り言が、冷たい廊下の空気に溶けていった。
バスケ部への復帰、そしてインターハイを目指すと言う新しい挑戦。勝手な行動のあとにこれだ。周囲が自分をどう見ているのか、本当に自分は受け入れられたのか、三井には確かめる勇気はなかった。
一人になり、かつての「守られていた場所」を失った今、自分の未熟さが刺すような日差しの下で、白日のもとに晒されているような気がした。
華にも、噂は届いているだろうか。
正解のわからない沼に、ゆっくりと沈んでいくような感覚。色づいた5月の風の中、三井の足取りだけが妙に重い。
教室ドアの前に立つ。
ただ「普通に」開ければいいだけなのに、指先に力が入らない。
……その時だった。
カタン、と小さな音を立てて、ドアが内側から開いた。
目の前には、華がいた。
「……!」
よりによって、なぜ 今、なんだ。
華は驚いたように三井を見上げた。何かを言いたげに、けれど言葉を選んでいるような、そんな沈黙が流れる。
「……ちょっと、来て」
三井は絞り出すように言った。連れ出してどうするのか、何を話せばいいのか。謝るべき相手ではない。けれど、このままではいられない。
渡り廊下に出ると、風が2人の間を吹き抜けた。
沈黙を破ったのは、華の穏やかな、けれどどこか瑞々しい声だった。
「……髪、切った?」
その柔らかな口調に、三井の肩からふっと力が抜ける。
「ああ」
「短いのも、素敵。よく似合ってるね」
華は、変わらない。
あの柔らかで凛としたオーラを纏いながら、三井に対して一人の人間としての温かい視線を向けてくれる。
「俺……どうしたらいい?」
不意に、情けない言葉が口を突いて出た。
華は三井の顔を見ず、遠くの景色に目を細めながら
「……バスケは好き?」
と質問を投げてきた。彼女が、三井が抱えている葛藤のすべてを知っていることを悟った。
「……好きだよ。好きだ」
「じゃあ、それでいいんじゃない?好きなことに、真っ直ぐ取り組める人。夢中になれる人……そんなにいないから」
「でも、周りは俺のこと、色々言ってるだろうし……」
「そんなこと、ない」
彼女は、食い気味に言った。珍しく見せた「芯」の強さ。周囲のノイズなどシャットアウトしてしまえーそう言わんばかりの、揺るぎない肯定だった。
光を受けた彼女の瞳は宝石のようにきらきらと輝いていた。遠くで、午後の開始を告げるチャイムが鳴りわたる。
「…ごめんな」
三井は華に向かって言った。何に対しての謝罪か自分でもわからない。華は、いつもの穏やかな微笑みに戻って、
「お役に立てたなら、嬉しいです」
と、素直な言葉を並べた。ごめんなを彼女はありがとうと受け取ったようだった。
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