Mimosa
ヒロインの名前
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話す表情に固さが抜けてきた華を三井は可愛いなと思うようになっていた。誰にでも愛想はいいが自分の前では本音を言い、気の抜けた顔で笑うようになってきた。これは自惚れではないと三井は確信していた。
「この前は本当ごめん」
「別に」
そっけない返事の声にわずかな優しさが滲む。その響きが自分らしくなくて、少し恥ずかしい。華もまた少しはにかんだ様子だ。
「あのあと本当に…」
華が続けた。あのあと2人して警察に補導されてしまったのだ。三井が華をどうにかしようとしているように見えたらしくどれだけ華が否定しても信じてもらえなかった。ようやく解放されたのが11時過ぎ。三井よりも華が疲労困憊で、最後には一言も話せないほどであった。
「あの日さ、三井くんだけなら逃げれたのに。走るのめちゃくちゃ遅くて」
「いや、俺膝やってるからそんな走れねーし」
「膝?何して?」
「バスケで」
思わず、三井は自分の過去に触れる言葉を口にする。
「あ、なんだ、てっきり暴力的な何かかと」
華が笑う。
「お前なあ」
「てことは三井くん走るの早いんだ?いいね」
その一言を聞いた瞬間、三井は驚いた。あれほど心の底に沈め、戻らないと思っていた過去が、何の抵抗もなく口から出たことに。
ゆっくりと緩やかに三井の心はほどけていく。だが人が変わるには、良くも悪くも、それなりにインパクトのある「きっかけ」となる出来事が必要だ。三井の気持ちには多少の変化がありつつも、生活が一変するようなことはなかった。華との関係も大きな変化もないままらあっという間に、ただいたずらに季節が過ぎていく。
寒さに身をかがめ、いつも以上に悪い姿勢で三井は教室に戻った。外はまだかすかに明るいが、街灯はもう点り始めている。目に飛び込んだのは華の姿。机に突っ伏して静か寝ている。誰か声かけてやれよと三井は思った。そして華の前の席に腰をおろした。
外はどんより曇っていて、雨の気配を孕んでいる。一層冷え込んでいくだろう。
雨が降ったら雪に変わるのか。窓の外鈍色の景色を眺めながら、華の髪にゆっくりと手を伸ばした。顔を覗き込んだ所で華は目を覚ました。ゆれた瞳が三井を捉えた。驚きとも困惑ともつかない表情。理解が追いつかないというように目を見開き、たち上がり、ゆっくりとやけに優雅に教室を出て行った。
そこには言葉はなく、目の前から消えていく姿は幻のようで現実味がなく、三井は華をただ目で追うしかなかった。華が去ったあとで、雨が一気に振り出した。その雨に打たれていないだろうかーそんな思いがぼんやりと三井の胸を掠めた。
お互いに距離が遠くなっても困ることがあるわけではない。約束ができる関係にもない。そこがまた胸を締め付ける。何をしてしまったんだと、自分に無性に腹がたった。暮れて行く空に向かって、ふうとため息をついた。いつもいつもため息ばかりだ。
あたりはすっかり暗くなっていた。雨はまだ雪には変わらない。
「この前は本当ごめん」
「別に」
そっけない返事の声にわずかな優しさが滲む。その響きが自分らしくなくて、少し恥ずかしい。華もまた少しはにかんだ様子だ。
「あのあと本当に…」
華が続けた。あのあと2人して警察に補導されてしまったのだ。三井が華をどうにかしようとしているように見えたらしくどれだけ華が否定しても信じてもらえなかった。ようやく解放されたのが11時過ぎ。三井よりも華が疲労困憊で、最後には一言も話せないほどであった。
「あの日さ、三井くんだけなら逃げれたのに。走るのめちゃくちゃ遅くて」
「いや、俺膝やってるからそんな走れねーし」
「膝?何して?」
「バスケで」
思わず、三井は自分の過去に触れる言葉を口にする。
「あ、なんだ、てっきり暴力的な何かかと」
華が笑う。
「お前なあ」
「てことは三井くん走るの早いんだ?いいね」
その一言を聞いた瞬間、三井は驚いた。あれほど心の底に沈め、戻らないと思っていた過去が、何の抵抗もなく口から出たことに。
ゆっくりと緩やかに三井の心はほどけていく。だが人が変わるには、良くも悪くも、それなりにインパクトのある「きっかけ」となる出来事が必要だ。三井の気持ちには多少の変化がありつつも、生活が一変するようなことはなかった。華との関係も大きな変化もないままらあっという間に、ただいたずらに季節が過ぎていく。
寒さに身をかがめ、いつも以上に悪い姿勢で三井は教室に戻った。外はまだかすかに明るいが、街灯はもう点り始めている。目に飛び込んだのは華の姿。机に突っ伏して静か寝ている。誰か声かけてやれよと三井は思った。そして華の前の席に腰をおろした。
外はどんより曇っていて、雨の気配を孕んでいる。一層冷え込んでいくだろう。
雨が降ったら雪に変わるのか。窓の外鈍色の景色を眺めながら、華の髪にゆっくりと手を伸ばした。顔を覗き込んだ所で華は目を覚ました。ゆれた瞳が三井を捉えた。驚きとも困惑ともつかない表情。理解が追いつかないというように目を見開き、たち上がり、ゆっくりとやけに優雅に教室を出て行った。
そこには言葉はなく、目の前から消えていく姿は幻のようで現実味がなく、三井は華をただ目で追うしかなかった。華が去ったあとで、雨が一気に振り出した。その雨に打たれていないだろうかーそんな思いがぼんやりと三井の胸を掠めた。
お互いに距離が遠くなっても困ることがあるわけではない。約束ができる関係にもない。そこがまた胸を締め付ける。何をしてしまったんだと、自分に無性に腹がたった。暮れて行く空に向かって、ふうとため息をついた。いつもいつもため息ばかりだ。
あたりはすっかり暗くなっていた。雨はまだ雪には変わらない。