Protea
ヒロインの名前
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アジアンタムの葉に隠れた看板。よくみると掠れた文字で Dillinger と書かれている。重く艶やかな観音扉を開くと決まってジャズ調にアレンジされたフライデーチャイナタウンが流れている。
エジソン電球が照らすテーブルは赤く艶やかで、後ろの棚には一面、何百種類ものリキュールが並んでいる。カウンターには胡蝶蘭。風に揺れても香りもしない花、ゆえにカクテルの香りの邪魔もしない。
クスクスの上に香ばしく焼き上げたチキンを乗せたアフリカンチン。スパイスの効いたピリ辛のソースにすりおろしたレモンの皮が爽やかに口の中で広がり、アルコールが進む。
「牧さんの課、近くで飲んでるみたい。デリンジャーに来るって」
エリカが携帯を覗いて言う。久しぶりに牧と話がしたい。少しアルコールの回った自分は素直だ。そろそろ切り上げようと思っていたが、牧が来るというので 薺は待ってみることにした。
体格の良い男たちが、身を屈めて店内に入ってきた。牧含め、この部の男たちはガタイが良い。テーブル席は彼らにしたら少々狭いということで、並ぶよりばらけて座ったほうが良さそうだという話になった。全員席を立ち、座り直すことにする。薺が角の席に座ると牧は当たり前のように隣に座り、キューバリブレを頼んだ。
「大丈夫?風邪は?」
流行りの風邪が社内で流行し、最後に風邪をもらった薺がいちばん症状が重かった。
「もうすっかり、ありがとうございます」
「久しぶりだな」
薺は口にグラスを近づける手を止める。胸がとくんと鳴るのが分かった。先週は薺が風邪で休んでしまい、今週は牧が出張で不在だったため、約半月ぶりに話をする。少し慣れないし、今までよりもドキドキしてしまう。
「マカオ、どうでした?」
「飲みっぱなし」
「仕事でいったんじゃ?」
薺が笑うと、牧もゆっくりと表情を崩した。
「そこ、2人だけで話さない!」
「牧、控えろ!職権濫用だ。なんの話してるわんだよ?」
冗談まじりに桐島が言う。
「人が居ると寝れない話。俺隣に誰かいると寝れない」
牧が言う。
「川瀬さんは特別なんだな。牧さん、そんな話してくれないもん。俺に」
「誰がそんな話おまえにするんだよ」
牧がピシャリと言うと、一斉に笑いが起きた。このいつもの流れが心地良い。
「確かに、特別かも?牧さんは薺に特に優しいですよね」
エリカが言う。牧が自分だけに優しいーそうかもしれない、そうであってほしいと、心で思っていたことを声にして言われると恥ずかしい。薺は真っ先に否定しようとした。だが否定をしようとするほど、牧への想いが確かなものになっていくことに気づく。抗えない。もう肯定するより他にない。
「そんなことないよ」
薺より先に牧が言う。牧は否定こそしたが、その声色は柔らかく、そこには少しも否定の要素がない。抑えきれない胸騒ぎがした。
店を変えようとというタイミングで、薺はひと足先に飲み会を後にすることにした。
「牧は?」
その問いに
「あ、俺も帰る」
と牧が続く。
「珍しいな、牧が、桐島さんについてかないの」
そんな声が聞こえた。確かに上司である桐島に付き合わない牧はめずらしい。
「川瀬!俺も帰るから、何線?」
「日比谷線です」
「オレ、日比谷線でも帰れる。行こう」
2人で抜け出したみたいになってしまった。アルコールの香りが体につきまとう。自分だけでなく、改札に向かう人がみんなそんな様子だった。
人の波に流されそうになると、ほらこっちと牧が薺の手を引いた。見上げると牧と目が合う。そうなればお互いに目を逸らすことが出来ない。駅のアナウンスが響いたタイミングで、「遅れてるみたいですね」と薺は不自然にならないようにそっと目を伏せた。
「牧、川瀬さんよく気にかけてるよね、やっぱり」
「川瀬さん、忙しいそうにしてるし、俺ら全然話しかける隙ないのに、牧さんばかりずるいですよ。俺もしゃべりたい」
「川瀬さんと俺の間に割って入ってきたもん。やっぱり好きなんだろうな〜」
「差し入れだって課を飛び越えて薺だし。近づきすぎない距離でがっちり守ってる感じだもんな」
「薺もまんざらでもなさそうだし」
「まっすく帰るかな?」
「俺は牧を信用してる」
残った者たちは、普段言わないような冗談を言い合い笑った。
エジソン電球が照らすテーブルは赤く艶やかで、後ろの棚には一面、何百種類ものリキュールが並んでいる。カウンターには胡蝶蘭。風に揺れても香りもしない花、ゆえにカクテルの香りの邪魔もしない。
クスクスの上に香ばしく焼き上げたチキンを乗せたアフリカンチン。スパイスの効いたピリ辛のソースにすりおろしたレモンの皮が爽やかに口の中で広がり、アルコールが進む。
「牧さんの課、近くで飲んでるみたい。デリンジャーに来るって」
エリカが携帯を覗いて言う。久しぶりに牧と話がしたい。少しアルコールの回った自分は素直だ。そろそろ切り上げようと思っていたが、牧が来るというので 薺は待ってみることにした。
体格の良い男たちが、身を屈めて店内に入ってきた。牧含め、この部の男たちはガタイが良い。テーブル席は彼らにしたら少々狭いということで、並ぶよりばらけて座ったほうが良さそうだという話になった。全員席を立ち、座り直すことにする。薺が角の席に座ると牧は当たり前のように隣に座り、キューバリブレを頼んだ。
「大丈夫?風邪は?」
流行りの風邪が社内で流行し、最後に風邪をもらった薺がいちばん症状が重かった。
「もうすっかり、ありがとうございます」
「久しぶりだな」
薺は口にグラスを近づける手を止める。胸がとくんと鳴るのが分かった。先週は薺が風邪で休んでしまい、今週は牧が出張で不在だったため、約半月ぶりに話をする。少し慣れないし、今までよりもドキドキしてしまう。
「マカオ、どうでした?」
「飲みっぱなし」
「仕事でいったんじゃ?」
薺が笑うと、牧もゆっくりと表情を崩した。
「そこ、2人だけで話さない!」
「牧、控えろ!職権濫用だ。なんの話してるわんだよ?」
冗談まじりに桐島が言う。
「人が居ると寝れない話。俺隣に誰かいると寝れない」
牧が言う。
「川瀬さんは特別なんだな。牧さん、そんな話してくれないもん。俺に」
「誰がそんな話おまえにするんだよ」
牧がピシャリと言うと、一斉に笑いが起きた。このいつもの流れが心地良い。
「確かに、特別かも?牧さんは薺に特に優しいですよね」
エリカが言う。牧が自分だけに優しいーそうかもしれない、そうであってほしいと、心で思っていたことを声にして言われると恥ずかしい。薺は真っ先に否定しようとした。だが否定をしようとするほど、牧への想いが確かなものになっていくことに気づく。抗えない。もう肯定するより他にない。
「そんなことないよ」
薺より先に牧が言う。牧は否定こそしたが、その声色は柔らかく、そこには少しも否定の要素がない。抑えきれない胸騒ぎがした。
店を変えようとというタイミングで、薺はひと足先に飲み会を後にすることにした。
「牧は?」
その問いに
「あ、俺も帰る」
と牧が続く。
「珍しいな、牧が、桐島さんについてかないの」
そんな声が聞こえた。確かに上司である桐島に付き合わない牧はめずらしい。
「川瀬!俺も帰るから、何線?」
「日比谷線です」
「オレ、日比谷線でも帰れる。行こう」
2人で抜け出したみたいになってしまった。アルコールの香りが体につきまとう。自分だけでなく、改札に向かう人がみんなそんな様子だった。
人の波に流されそうになると、ほらこっちと牧が薺の手を引いた。見上げると牧と目が合う。そうなればお互いに目を逸らすことが出来ない。駅のアナウンスが響いたタイミングで、「遅れてるみたいですね」と薺は不自然にならないようにそっと目を伏せた。
「牧、川瀬さんよく気にかけてるよね、やっぱり」
「川瀬さん、忙しいそうにしてるし、俺ら全然話しかける隙ないのに、牧さんばかりずるいですよ。俺もしゃべりたい」
「川瀬さんと俺の間に割って入ってきたもん。やっぱり好きなんだろうな〜」
「差し入れだって課を飛び越えて薺だし。近づきすぎない距離でがっちり守ってる感じだもんな」
「薺もまんざらでもなさそうだし」
「まっすく帰るかな?」
「俺は牧を信用してる」
残った者たちは、普段言わないような冗談を言い合い笑った。