Protea
ヒロインの名前
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幕を下ろすように、ひとつまたひとつと街の灯りが消えていく。思ったよりも夜は更けていた。
「まさか先に言われるとは思わなかった。速攻だな」
「ごめんなさい…てか速攻て?」
薺は牧を見た。
ゆるやかな坂道に並んでいるタクシーのライトは星が浮かんだように見える。揺れる低木の葉にその光が反射して綺麗だ。
「スポーツ、あ、バスケに例えて。俺高校の時、バスケ部だったの。知らないか?」
牧は言う。
「あまり他の学年の人知らなくて…。でも、バスケ部、強かった!そっか、牧さんバスケ部だったんですね。すごいなー。インハイ行ってましたよね?どの部も強かったけど、バスケ部はもうダントツ!強かった!すごいなあ」
薺は何度も繰り返した。記憶が蘇る。海南バスケ部は負け無しの時代で、薺の代は神がキャプテンを勤めていた。神とは同じクラスで話すこともよくあった。どこかで牧の話が出ていたのかもしれない。でももう10年近く前のことだ。残念ながら覚えていない。でも何とか思い出せることがないだろうか。
「俺のほうこそ、速攻で薺を好きになった。高校一緒が決め手、案外単純だろ?」
牧の大きな手が薺の頬に触れる。緊張が解かれ、やっと体に血が通ったような心地がしてきた。
「薺……、すっげー好き… あの頃の話じゃなくて今の話がしたい」
「そんな言い方するの意外すぎて、ずるい」
「酔ってますか?」
「ちょっと、な。でも川瀬ほどは酔ってはないよ」
ランチの時のエリカの言葉を思い出す。
ーあの牧さんが、好きな人にだけ見せる意外な一面ーーこれがそうなのかも。
「今日は俺がタクシーに乗せてやるから。でも次はない。次は返さなくていい?」
薺は手を牧のネクタイにそっと手を当てた。それが返事だというように。タクシーが目の前に止まる直前、牧の唇が落ちてきた。
肩に掛かった牧の手が離れていく。薺は名残惜しく見送った。
「外でこんなことするなんて。初めてだな」
牧は薺の唇を指でなぞり、ぼそりと独り言のように言った。初めて見る眼差しと初めて聞く声色に薺はますます心を溶かされていく。
「それから…飲めるのは3杯までは、誰にも言うな」
「あと、敬語も無しな!」
「意外に要望多いですね?」
「あ、悪い」
「いいですよ。牧さんなら」
薺は牧がいつもするように、覗き込み目を細めて微笑んだ。
「俺多分、薺を独り占めしたい」
そう言って牧は再び薺を抱きしめた。
抱きしめられた感覚がいつまでも残る。余韻から逃れられないほど…。ふわりと抱きしめられたように思えたが、思ったよりも強く牧に抱きしめられていたのもしれない。溢れる想いにどうしようもなくやりようもなく、薺は夜の空に向かってまっすぐため息をついた。
乗り込んだタクシーの中で窓に頭をこつんと傾ける。流れる景色を見つめながら、牧とのことをひとつひとつ大事に思い出す。そして改めて牧が好きだなと思う。
優しくて強くて、いつも薺を気にかけてくれる。薺は牧といると自分が女の子らしく可愛いくいられるような、そんな気になる。もう‘可愛い’ とか ‘女の子’とかいう年齢でもなく、実際はそれと真逆であるような気もするが…。
星の群れは銀色に輝きを放って、微かに揺れる。夜のとばりがすべてを優しく包んでいる。こんなにも心地よく、かつ胸が騒ぐ夜は初めてだ。薺はしゃんとした姿勢でタクシーを降りた。牧のように彼の仕草を真似するように堂々と。酔いはもうすっかり覚めている。
「まさか先に言われるとは思わなかった。速攻だな」
「ごめんなさい…てか速攻て?」
薺は牧を見た。
ゆるやかな坂道に並んでいるタクシーのライトは星が浮かんだように見える。揺れる低木の葉にその光が反射して綺麗だ。
「スポーツ、あ、バスケに例えて。俺高校の時、バスケ部だったの。知らないか?」
牧は言う。
「あまり他の学年の人知らなくて…。でも、バスケ部、強かった!そっか、牧さんバスケ部だったんですね。すごいなー。インハイ行ってましたよね?どの部も強かったけど、バスケ部はもうダントツ!強かった!すごいなあ」
薺は何度も繰り返した。記憶が蘇る。海南バスケ部は負け無しの時代で、薺の代は神がキャプテンを勤めていた。神とは同じクラスで話すこともよくあった。どこかで牧の話が出ていたのかもしれない。でももう10年近く前のことだ。残念ながら覚えていない。でも何とか思い出せることがないだろうか。
「俺のほうこそ、速攻で薺を好きになった。高校一緒が決め手、案外単純だろ?」
牧の大きな手が薺の頬に触れる。緊張が解かれ、やっと体に血が通ったような心地がしてきた。
「薺……、すっげー好き… あの頃の話じゃなくて今の話がしたい」
「そんな言い方するの意外すぎて、ずるい」
「酔ってますか?」
「ちょっと、な。でも川瀬ほどは酔ってはないよ」
ランチの時のエリカの言葉を思い出す。
ーあの牧さんが、好きな人にだけ見せる意外な一面ーーこれがそうなのかも。
「今日は俺がタクシーに乗せてやるから。でも次はない。次は返さなくていい?」
薺は手を牧のネクタイにそっと手を当てた。それが返事だというように。タクシーが目の前に止まる直前、牧の唇が落ちてきた。
肩に掛かった牧の手が離れていく。薺は名残惜しく見送った。
「外でこんなことするなんて。初めてだな」
牧は薺の唇を指でなぞり、ぼそりと独り言のように言った。初めて見る眼差しと初めて聞く声色に薺はますます心を溶かされていく。
「それから…飲めるのは3杯までは、誰にも言うな」
「あと、敬語も無しな!」
「意外に要望多いですね?」
「あ、悪い」
「いいですよ。牧さんなら」
薺は牧がいつもするように、覗き込み目を細めて微笑んだ。
「俺多分、薺を独り占めしたい」
そう言って牧は再び薺を抱きしめた。
抱きしめられた感覚がいつまでも残る。余韻から逃れられないほど…。ふわりと抱きしめられたように思えたが、思ったよりも強く牧に抱きしめられていたのもしれない。溢れる想いにどうしようもなくやりようもなく、薺は夜の空に向かってまっすぐため息をついた。
乗り込んだタクシーの中で窓に頭をこつんと傾ける。流れる景色を見つめながら、牧とのことをひとつひとつ大事に思い出す。そして改めて牧が好きだなと思う。
優しくて強くて、いつも薺を気にかけてくれる。薺は牧といると自分が女の子らしく可愛いくいられるような、そんな気になる。もう‘可愛い’ とか ‘女の子’とかいう年齢でもなく、実際はそれと真逆であるような気もするが…。
星の群れは銀色に輝きを放って、微かに揺れる。夜のとばりがすべてを優しく包んでいる。こんなにも心地よく、かつ胸が騒ぐ夜は初めてだ。薺はしゃんとした姿勢でタクシーを降りた。牧のように彼の仕草を真似するように堂々と。酔いはもうすっかり覚めている。
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