Protea
ヒロインの名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
デリンジャーのカウンターで薺は牧を待つ。ライトが多方向からあたり、テーブル席とはまた違う雰囲気だ。カウンターの中のリキュールを眺めていると、店のドアが開く音がした。近づいてくる足音に薺は胸の高鳴りが抑えられない。何故だか牧の足音は振り返らなくとも良く分かる。
聞き慣れた声は店員にブランケットを用意するように言い伝えていた。
牧は薺に冷えるからと、店員用意してもらったフリースのブランケットを手渡す。今日はここ数日で1番気温が下がっている。薺は礼を言い、ブランケットを受け取った。
氷のような透明なキャンドルが手元のメニューを灯す。穏やかに揺れる火の明かりに少しずつ薺は冷静さを取り戻した。
が、ほっとしたのも束の間、牧の肘が薺の腕にに触れた。肘をつき直したときに当たったようだった。
牧は何事もなくキューバリブレをオーダーする。ラムとコーラの爽快な味、牧にぴったりのカクテルだと思う。ハイタンブラーに入ったカクテルがすぐテーブルに置かれた。触れた腕はそのままの、この距離感がなんとも面映い。
「わたしは、ミスサイゴンを」
マスターは無表情でシェイカーを振り始める。
「多国籍だな、俺たち」
「独立や解放を讃えるような感じ?どちらもイメージは遠からずですよ。でも、舞台のミスサイゴンの話は悲しいですよね」
氷が砕ける音が小気味よく響く。
「まあそうか」
牧は薺を覗き込んで目を細めた。牧の優しい眼差しに再び薺の鼓動は早く動き出し、頬がカッと赤くなった。
「どれくらいなら飲める?」
「3杯くらいですかね、それ以上飲むと無理、いつも同期の誰かタクシーに乗せてくて何とか帰ってる感じです」
追加でオーダーしたポークチョップバーガーが2人の間に置かれた。カリカリに焼かれた脂身の多い豚肉がバンズからはみ出している。アルコールが進みそうだと、薺は飲めないながらも思った。
「弱いのに飲むんだな」
「好きだから」
「飲むのが?」
キャンドルの影がゆらめく。透明度が高いクリスタルのグラスに注がれたカクテルが薺の前に差し出された。
「次で4杯目、どうする?」
試すような牧の言い方、揺さぶりをかけられているような気がするが、薺の気持ちは揺れる余地もなかった。好きな気持ちは確信になり、揺るぎない。薺はカクテルを口に運んだ。
飲んだ量よりも飲むピッチが早かった。背伸びして牧のペースに合わたせいか。頭がふわふわとして、牧の声が遠く聞こえる。
「出ようか?」
このままどうなるのかも分からないまま、薺は頷く。自分ではもう判断できないかもしれない。足元がふらつき、宙を蹴っているようだ。「わたしも話したいことがある」なんて言いながら、まだ何も言えていない。でもここで引き返すわけにはいかない。
「あの、牧さん」
薺は牧の手をひいた。けれども牧はびくともしない。振り返りもしてくれない。
「わたし、好きです。牧さんが、大好き」
酔いにまかせて告白。良くはない。
次の瞬間、先程薺がしたように、今度は牧が薺の手を引いた。一瞬で牧の胸に収まる。
秋の夜風と牧の体温に包まれた。涼しさと暖かさが混じり合い、心地良い。ネオンの渦が弾けるように点滅する。見慣れた街が遠くに浮かぶ。劇の中にいるような気分だ。薺は瞬きもせずに牧を見つめた。
聞き慣れた声は店員にブランケットを用意するように言い伝えていた。
牧は薺に冷えるからと、店員用意してもらったフリースのブランケットを手渡す。今日はここ数日で1番気温が下がっている。薺は礼を言い、ブランケットを受け取った。
氷のような透明なキャンドルが手元のメニューを灯す。穏やかに揺れる火の明かりに少しずつ薺は冷静さを取り戻した。
が、ほっとしたのも束の間、牧の肘が薺の腕にに触れた。肘をつき直したときに当たったようだった。
牧は何事もなくキューバリブレをオーダーする。ラムとコーラの爽快な味、牧にぴったりのカクテルだと思う。ハイタンブラーに入ったカクテルがすぐテーブルに置かれた。触れた腕はそのままの、この距離感がなんとも面映い。
「わたしは、ミスサイゴンを」
マスターは無表情でシェイカーを振り始める。
「多国籍だな、俺たち」
「独立や解放を讃えるような感じ?どちらもイメージは遠からずですよ。でも、舞台のミスサイゴンの話は悲しいですよね」
氷が砕ける音が小気味よく響く。
「まあそうか」
牧は薺を覗き込んで目を細めた。牧の優しい眼差しに再び薺の鼓動は早く動き出し、頬がカッと赤くなった。
「どれくらいなら飲める?」
「3杯くらいですかね、それ以上飲むと無理、いつも同期の誰かタクシーに乗せてくて何とか帰ってる感じです」
追加でオーダーしたポークチョップバーガーが2人の間に置かれた。カリカリに焼かれた脂身の多い豚肉がバンズからはみ出している。アルコールが進みそうだと、薺は飲めないながらも思った。
「弱いのに飲むんだな」
「好きだから」
「飲むのが?」
キャンドルの影がゆらめく。透明度が高いクリスタルのグラスに注がれたカクテルが薺の前に差し出された。
「次で4杯目、どうする?」
試すような牧の言い方、揺さぶりをかけられているような気がするが、薺の気持ちは揺れる余地もなかった。好きな気持ちは確信になり、揺るぎない。薺はカクテルを口に運んだ。
飲んだ量よりも飲むピッチが早かった。背伸びして牧のペースに合わたせいか。頭がふわふわとして、牧の声が遠く聞こえる。
「出ようか?」
このままどうなるのかも分からないまま、薺は頷く。自分ではもう判断できないかもしれない。足元がふらつき、宙を蹴っているようだ。「わたしも話したいことがある」なんて言いながら、まだ何も言えていない。でもここで引き返すわけにはいかない。
「あの、牧さん」
薺は牧の手をひいた。けれども牧はびくともしない。振り返りもしてくれない。
「わたし、好きです。牧さんが、大好き」
酔いにまかせて告白。良くはない。
次の瞬間、先程薺がしたように、今度は牧が薺の手を引いた。一瞬で牧の胸に収まる。
秋の夜風と牧の体温に包まれた。涼しさと暖かさが混じり合い、心地良い。ネオンの渦が弾けるように点滅する。見慣れた街が遠くに浮かぶ。劇の中にいるような気分だ。薺は瞬きもせずに牧を見つめた。