Protea
ヒロインの名前
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「夏休みとった?」
エレベーターのボタンを押しながら、先に乗った牧が聞いてくる。仕立ての良さそうなシャツの袖からトゥールビヨンの大きな文字盤の時計が覗く。
「はい」
「どっか行ってた?」
「実家帰ってました」
「へぇ、実家はどこだった?」
「北鎌倉です」
別のフロアからも人が乗ってくるので、薺は隅に寄った。すると牧もまた薺のほうへ寄る。距離が近いほど、その体格に圧倒され見惚れる。
「俺も神奈川、大船だよ」
「近い!わたし高校が辻堂で、大船で乗り換えてましたよ」
「辻堂?どこ?」
牧が聞いたところで、エレベーターは1Fについた。薺の目的のフロアはB1だ。会話が途切れてしまう。もう少したわいもなく話していたい。
「あ、一階ついちゃった、どうしよ?わたし降りましょうか?」
薺は牧を見上げて言った。
「いいよ、また聞かせて」
薺は牧の広い背中を扉が閉まるまで見送った。
お土産に課の同僚からもらったコーヒーを淹れた。ブルーマウンテンブレンドの良い香りが広がった。ほっと一息をつく。
「で、高校は?」
首をくるくると回して、伸びをしたところだった。牧が前置きもなく聞いてくる。気を抜いた姿を見られたかもしれない。目が合えば牧がふっと笑みを浮かべた。やっぱり見られていたなと薺は恥ずかしくなった。
「海南です」
「マジで?俺もだよ」
「え、川瀬さんはいくつ?」
「今年で26です」
「俺一個上だ今年27だ」
「え?うそ?」
薺は牧は自分より7、8歳上と思っていた。落ち着き払った佇まいやひとつひとつの振る舞いが同年代とは思えない。
「しかも年もひとつしか変わらないなんてびっくりです」
「俺が老けてるとでも」
「自分で言わない!老けてるじゃなくて、あまりにも仕事が出来るから。一個の差でこんなに違うなんてって意味でびっくりしてるんです」
「上手だなフォローが」
牧は定時を超えると年相応のフランクな話し方になる。
「でもさ、疲れねー?そうやって気遣ってんの」
柔らかく笑みを浮かべ、仕事中とはまた雰囲気が変わる。それはまるで日が落ちて雰囲気がかわる街のようだった。目を細める優しい眼差しが素敵だなと薺は思った。
「俺には、そういう気遣いいらない」
それはどう言う意味で言ったのか。同じ高校の先輩後輩の間柄だから気を遣うなということなのか。大学もずっと強豪校で部活をやっていたというし、牧自身は上司に対しては常に礼儀正しくいる。誰よりも上下関係を重んじる牧が言った言葉にしては違和感が残る。だから上司部下という仕事上の立場ではなく、もっと個人的な意味で言っているのではないかと、それは自分だけに見せる寛容さだと、深読みしてしまう。都合のいい思い込みに過ぎなくとも、薺はそう思いたかった。
手にすっぽりと収まった缶コーヒーを牧は薺に手渡した。
「コーヒー飲んでるところに、またコーヒーで悪い」
「いいえ、とんでもない。ありがとうございます」
かすめる程度に指が触れる。指先が熱くなる。体は正直だ。それに気づいて頬まで熱くなる。
「牧さんとわたし、あの校舎ですれ違ってたかもしれないですね」
「そうかもな。共通の知り合いいるかも」
「でも、色々詮索はやめましょう!黒歴史出てきちゃったら恥ずかしい」
日が沈んだ後もなお、明るさを残した空。川の下流まで良く見える。川にかかる橋の形かひとつひとつ違っいる。歴史的な町並みの建物が少しずつライトアップされていく。
エレベーターのボタンを押しながら、先に乗った牧が聞いてくる。仕立ての良さそうなシャツの袖からトゥールビヨンの大きな文字盤の時計が覗く。
「はい」
「どっか行ってた?」
「実家帰ってました」
「へぇ、実家はどこだった?」
「北鎌倉です」
別のフロアからも人が乗ってくるので、薺は隅に寄った。すると牧もまた薺のほうへ寄る。距離が近いほど、その体格に圧倒され見惚れる。
「俺も神奈川、大船だよ」
「近い!わたし高校が辻堂で、大船で乗り換えてましたよ」
「辻堂?どこ?」
牧が聞いたところで、エレベーターは1Fについた。薺の目的のフロアはB1だ。会話が途切れてしまう。もう少したわいもなく話していたい。
「あ、一階ついちゃった、どうしよ?わたし降りましょうか?」
薺は牧を見上げて言った。
「いいよ、また聞かせて」
薺は牧の広い背中を扉が閉まるまで見送った。
お土産に課の同僚からもらったコーヒーを淹れた。ブルーマウンテンブレンドの良い香りが広がった。ほっと一息をつく。
「で、高校は?」
首をくるくると回して、伸びをしたところだった。牧が前置きもなく聞いてくる。気を抜いた姿を見られたかもしれない。目が合えば牧がふっと笑みを浮かべた。やっぱり見られていたなと薺は恥ずかしくなった。
「海南です」
「マジで?俺もだよ」
「え、川瀬さんはいくつ?」
「今年で26です」
「俺一個上だ今年27だ」
「え?うそ?」
薺は牧は自分より7、8歳上と思っていた。落ち着き払った佇まいやひとつひとつの振る舞いが同年代とは思えない。
「しかも年もひとつしか変わらないなんてびっくりです」
「俺が老けてるとでも」
「自分で言わない!老けてるじゃなくて、あまりにも仕事が出来るから。一個の差でこんなに違うなんてって意味でびっくりしてるんです」
「上手だなフォローが」
牧は定時を超えると年相応のフランクな話し方になる。
「でもさ、疲れねー?そうやって気遣ってんの」
柔らかく笑みを浮かべ、仕事中とはまた雰囲気が変わる。それはまるで日が落ちて雰囲気がかわる街のようだった。目を細める優しい眼差しが素敵だなと薺は思った。
「俺には、そういう気遣いいらない」
それはどう言う意味で言ったのか。同じ高校の先輩後輩の間柄だから気を遣うなということなのか。大学もずっと強豪校で部活をやっていたというし、牧自身は上司に対しては常に礼儀正しくいる。誰よりも上下関係を重んじる牧が言った言葉にしては違和感が残る。だから上司部下という仕事上の立場ではなく、もっと個人的な意味で言っているのではないかと、それは自分だけに見せる寛容さだと、深読みしてしまう。都合のいい思い込みに過ぎなくとも、薺はそう思いたかった。
手にすっぽりと収まった缶コーヒーを牧は薺に手渡した。
「コーヒー飲んでるところに、またコーヒーで悪い」
「いいえ、とんでもない。ありがとうございます」
かすめる程度に指が触れる。指先が熱くなる。体は正直だ。それに気づいて頬まで熱くなる。
「牧さんとわたし、あの校舎ですれ違ってたかもしれないですね」
「そうかもな。共通の知り合いいるかも」
「でも、色々詮索はやめましょう!黒歴史出てきちゃったら恥ずかしい」
日が沈んだ後もなお、明るさを残した空。川の下流まで良く見える。川にかかる橋の形かひとつひとつ違っいる。歴史的な町並みの建物が少しずつライトアップされていく。
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