Casablanca
ヒロインの名前
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ピアノの音が漏れて聞こえる。聞いたことがある映画の音楽だ。ロマンチックな映画だったと思う。古い映画だから曲のタイトルまでは知らない。音色に誘われ、華は音楽室を覗き込んだ。
「あ、いた、三井くん。屋上探しちゃった」
「屋上は満員御礼。だから今日はここ。次々人来るから」
「なるほど…って、音楽室、勝手に入っていいんだっけ?」
「空いてるからいいんだろ」
「そういえば、三井くんてピアノ弾けるの?さっきの曲何?」
ピアノの椅子の僅かばかりのスペースに華が座ろうとすると、三井はしょうがねぇなという顔をしながら左に詰めた。
「As time goes by カサブランカの。習ってたんだよ。小学校の時」
「へぇ、意外だねー。映画の曲だよね。続き弾いて」
弾んだ声でリクエストすると、近い距離で三井と視線がぶつかった。
「あ、邪魔だよね。隣座ってたら。退いた方がいい?」
「退かなくていいよ」
力が入っているようには見えないが、音はぶれずにしっかり響く。三井は時々ぶつかりそうになる肩をうまく避けながらピアノを弾く。長い指から奏でられるメロディが心地よい。よく通る綺麗な音だった。
「上手だね。なんか音が優しい」
華が素直に感じたままの感想を言うと、三井は
「まあ、俺が“優しい”からな」
と優しいを強調して、自信たっぷりに笑みを作った。
「あのさ、チョコ、誰かからもらった?」
「もらってねー」
「なんで?誰からも貰えないくらいモテなかった?」
華は手持ち無沙汰な両手を鍵盤に置いた。少しだけ弾いてみたが、自分も鍵盤に触れるのは小学校以来のこと。残念ながら体が覚えていると言うわけではなかった。拙い音は不恰好に連なる。やっとその曲が「野ばら」と分かる程度。華は、こんなはずじゃ...と首をかしげた。
「違う。断った。好きな子いるから」
華のピアノを弾く手が止まる。
「そっか。それチョコなんだけど、じゃあ要らないよね」
華は小さな紙袋を指を刺した。
「もらう」
三井は立ち上がり、紙袋の持ち手に手をかけた。
「"優しいから"受け取ってくれるの?」
華は三井を見上げた。
「話きいてたか?"好きだから"だよ」
映画さながらの沈黙が流れる。
「義理、本命どっちだ?」
そう問う三井に、
「本命」
と、華は答えた。
「よし!」
三井は少しだけ華を引き寄せて、彼女の頭にポンと手を置いた。
「あ、いた、三井くん。屋上探しちゃった」
「屋上は満員御礼。だから今日はここ。次々人来るから」
「なるほど…って、音楽室、勝手に入っていいんだっけ?」
「空いてるからいいんだろ」
「そういえば、三井くんてピアノ弾けるの?さっきの曲何?」
ピアノの椅子の僅かばかりのスペースに華が座ろうとすると、三井はしょうがねぇなという顔をしながら左に詰めた。
「As time goes by カサブランカの。習ってたんだよ。小学校の時」
「へぇ、意外だねー。映画の曲だよね。続き弾いて」
弾んだ声でリクエストすると、近い距離で三井と視線がぶつかった。
「あ、邪魔だよね。隣座ってたら。退いた方がいい?」
「退かなくていいよ」
力が入っているようには見えないが、音はぶれずにしっかり響く。三井は時々ぶつかりそうになる肩をうまく避けながらピアノを弾く。長い指から奏でられるメロディが心地よい。よく通る綺麗な音だった。
「上手だね。なんか音が優しい」
華が素直に感じたままの感想を言うと、三井は
「まあ、俺が“優しい”からな」
と優しいを強調して、自信たっぷりに笑みを作った。
「あのさ、チョコ、誰かからもらった?」
「もらってねー」
「なんで?誰からも貰えないくらいモテなかった?」
華は手持ち無沙汰な両手を鍵盤に置いた。少しだけ弾いてみたが、自分も鍵盤に触れるのは小学校以来のこと。残念ながら体が覚えていると言うわけではなかった。拙い音は不恰好に連なる。やっとその曲が「野ばら」と分かる程度。華は、こんなはずじゃ...と首をかしげた。
「違う。断った。好きな子いるから」
華のピアノを弾く手が止まる。
「そっか。それチョコなんだけど、じゃあ要らないよね」
華は小さな紙袋を指を刺した。
「もらう」
三井は立ち上がり、紙袋の持ち手に手をかけた。
「"優しいから"受け取ってくれるの?」
華は三井を見上げた。
「話きいてたか?"好きだから"だよ」
映画さながらの沈黙が流れる。
「義理、本命どっちだ?」
そう問う三井に、
「本命」
と、華は答えた。
「よし!」
三井は少しだけ華を引き寄せて、彼女の頭にポンと手を置いた。
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