Kind of Blue
ヒロインの名前
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憂鬱な足取りで屋上への階段を登る彼女を見かけた。いつもは跳ねるような足運びの薺が珍しい。
なんだかひどく嫌な予感がする。耳を撃ち抜くように心臓の音が響き渡っている。
埃っぽい階段を駆けあがり、屋上に上がると、彼女の姿があった。と、もうひとり、クラスメイトの男の姿。どう見ても告白だ。完全に早とちりをしていたようだ。
男はじゃあ、と薺に言い、牧にもちらりと冷たい視線をよこした。
「もしかして邪魔した?」
薺は首を横に振る。
「すごく暗い顔で階段登る姿見えたから、飛び降りるんじゃないかと思ったよ」
牧が言えば薺の口元が綻んだ。それからひとつ間を置いて息を吸い込んだかと思えば、顔いっぱいにしわを寄せて笑った。
「牧くん、時々天然だよね。飛び降りると思ったの?まさか、やだ、おかしい…」
なかなか笑いはおさまらない薺。牧はだんだん恥ずかしくなってきた。
「心配したよ」
牧に突然抱きしめられた。動揺しながらも、牧の逞しい腕に包まれ、ひどく安心している自分がいる。
「つきあうのか?」
先程よりも低く、真剣な声に気づかされる。
「つきあわないよ」
薺は事実だけを短く返した。
「そっか俺とは?」
「俺とはって何の話?」
「告白だよ」
牧の抱きしめる手が強くなる。
「返事は?どう思ってるか聞かせてほしい。俺はさっきみたいに早とちりしたり、冷静さを失ったりするくらいには薺が好きだ」
一片の雲もない澄んだ空の下では何も隠せやしない。想いに身を任せれば、その言葉は自然と連なり落ちていった。
「わたしも、好き...」
そう告げると牧はよしゃ!と小さなガッツポーズをして喜びを表現した。失礼な言い方かもしれないが、それがとても可愛らしかった。
「どうした?」
試合の時とは違い、目尻を下げて話す牧の優しい表情が薺は好きだ。それをこうやって下から見上げるのも。
牧を好きになったのは、こういうオンオフのギャップを見てしまったからかもしれない。
「いや、背大きいなと思って」
「今更だな」
「改めて並んだら、そう思っただけ」
「そこに乗ったらちょうどいいよ」
「ちょうどいいって何に?」
「キスするのに」
段差に登るよう促される。牧は賑やかな喋り声と足音が通り過ぎるのを待って、金網に手をついた。午後の緩やかな空気が一瞬のうちに凛とする。歪なフェンスの影が揺れ、牧の肩越しに、澄んだ光がキラキラと輝いた。風に乗って踏切の音が聞こえる。
なんだかひどく嫌な予感がする。耳を撃ち抜くように心臓の音が響き渡っている。
埃っぽい階段を駆けあがり、屋上に上がると、彼女の姿があった。と、もうひとり、クラスメイトの男の姿。どう見ても告白だ。完全に早とちりをしていたようだ。
男はじゃあ、と薺に言い、牧にもちらりと冷たい視線をよこした。
「もしかして邪魔した?」
薺は首を横に振る。
「すごく暗い顔で階段登る姿見えたから、飛び降りるんじゃないかと思ったよ」
牧が言えば薺の口元が綻んだ。それからひとつ間を置いて息を吸い込んだかと思えば、顔いっぱいにしわを寄せて笑った。
「牧くん、時々天然だよね。飛び降りると思ったの?まさか、やだ、おかしい…」
なかなか笑いはおさまらない薺。牧はだんだん恥ずかしくなってきた。
「心配したよ」
牧に突然抱きしめられた。動揺しながらも、牧の逞しい腕に包まれ、ひどく安心している自分がいる。
「つきあうのか?」
先程よりも低く、真剣な声に気づかされる。
「つきあわないよ」
薺は事実だけを短く返した。
「そっか俺とは?」
「俺とはって何の話?」
「告白だよ」
牧の抱きしめる手が強くなる。
「返事は?どう思ってるか聞かせてほしい。俺はさっきみたいに早とちりしたり、冷静さを失ったりするくらいには薺が好きだ」
一片の雲もない澄んだ空の下では何も隠せやしない。想いに身を任せれば、その言葉は自然と連なり落ちていった。
「わたしも、好き...」
そう告げると牧はよしゃ!と小さなガッツポーズをして喜びを表現した。失礼な言い方かもしれないが、それがとても可愛らしかった。
「どうした?」
試合の時とは違い、目尻を下げて話す牧の優しい表情が薺は好きだ。それをこうやって下から見上げるのも。
牧を好きになったのは、こういうオンオフのギャップを見てしまったからかもしれない。
「いや、背大きいなと思って」
「今更だな」
「改めて並んだら、そう思っただけ」
「そこに乗ったらちょうどいいよ」
「ちょうどいいって何に?」
「キスするのに」
段差に登るよう促される。牧は賑やかな喋り声と足音が通り過ぎるのを待って、金網に手をついた。午後の緩やかな空気が一瞬のうちに凛とする。歪なフェンスの影が揺れ、牧の肩越しに、澄んだ光がキラキラと輝いた。風に乗って踏切の音が聞こえる。
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