Snow Drop
ヒロインの名前
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のしかかる腕の重みで目覚める。隣を見ればすやすやと寝ている流川の姿。体を小さくまるめて、子どものように眠っている。
長いまつ毛が生き物のように動く。一度目を開いたが、眠気に負けたらしい。気が抜けたように再び瞼をふせた。
起こしてはいけないと菖はそっとベッドを降りた。白い窓には、いつもよりくっきりと自分の姿が映ってる。
氷が張ったような冷たい廊下を、つま先だちで歩いてトイレに向かった。体に残った温もりが足元から逃げてゆく。朝色に光り始めた部屋に戻ると、木蓮の香りが鼻をかすめた。朝ほど感覚が敏感になる。その香りを大きく吸い込み、流川の隣に潜り込んだ。布団の暖かさと流川の体温に体が熱を取り戻す。菖は流川の胸元に頭を寄せた。まどろみの中、流川は菖の腰のあたりを引き寄せてくる。その仕草が愛おしい。ぎゅっと身を寄せれば、この上ない幸せが込み上げてくる。そうしているうちに、菖の背中に流川の大きな手が入り込んできた。大きくて、安心する流川の瑞々しくて滑らかな手。探るように動く。背中にあった手はゆっくりと体を伝い、ついには胸元に。手を避けようとしても流川の力には敵わない。優しく刺激が与えられると、ため息混じりの吐息が漏れた。刺激にひどく敏感なのは朝のせい。吐く息は白く浮き消えていく。流川が家を出る時間が近づいてきている。
「行ってくる」
コート差し出すと、流川は袖を通して羽織った。
「あ、寝癖」
優しく袖を引っ張ると、流川は菖の背に合わせ屈んだ。流川の髪を撫でて寝癖をなおす。たまに見せる従順な姿が可愛い。寝癖が直っても、菖は流川の髪をよしよしと何度も撫でた。朝の光が、つややかな漆黒の髪をローズグレイに照らし、とても綺麗だった。
「行ってらっしゃい」
名残惜しさを振り切る。
「今日はずっといる?」
流川は菖の手の甲にそっと触れ、言う。
「たぶん」
と菖は答える。硬い表情を崩し流川は言う。
「すぐ帰るから…だから」
菖はこの無意識に少し甘くなる流川の声が好きだ。
「だから?」
菖が聞くと、流川は少し顔を赤らめ黙った。黙り込むのはいつものこと。
「気をつけて」
と流川の目を見つめ、声をかけた。ふっと笑う流川。昔に比べずいぶんと柔らかくなった。意外にもふわりと笑い、目尻が下がる。それも最近では見慣れない表情ではなくなった。
枝葉が揺れ、鳥がよく晴れた空を連なって飛んでいくのを見送って、菖は首元につけられたくちづけの跡に触れながら、リビングに戻った。
今日は試合。その間は流川はきっと、自分のことも、この朝の出来事も思い出さないだろう。少し悔しなと菖は思う。
でも先程の「だから」の言葉の続きを考えれば、ーだから、さっきの続きをしようーそういう意味な気がしてしまう。そうやって感情や欲がなさそうな流川が、自分を求めていると思うと、この上なく幸せを感じる。
ハーブティーの茶葉をスプーンですくい、ポットにお湯を入れる。騒がしいく沸くお湯の音が菖を現実に引き戻す。お湯を加えゆっくりと浮遊する茶葉を沈めると、心地の良い香りが部屋樹に広がった。カモミールとミントの香りだ。部屋の半分ほどにまで柔らかい光が差し込んできた。寒いとはいえ、もう3月も近い。日差しは春の気配を纏い、きらりとこぼれ落ちた。
カップから不規則に立ち登る湯気を見つめ、菖は口元に笑みを浮かべた。早く会いたい。すぐに会いたくなる癖が治らない。菖は木蓮の香りとともに、流川の温もりを思い出した。
長いまつ毛が生き物のように動く。一度目を開いたが、眠気に負けたらしい。気が抜けたように再び瞼をふせた。
起こしてはいけないと菖はそっとベッドを降りた。白い窓には、いつもよりくっきりと自分の姿が映ってる。
氷が張ったような冷たい廊下を、つま先だちで歩いてトイレに向かった。体に残った温もりが足元から逃げてゆく。朝色に光り始めた部屋に戻ると、木蓮の香りが鼻をかすめた。朝ほど感覚が敏感になる。その香りを大きく吸い込み、流川の隣に潜り込んだ。布団の暖かさと流川の体温に体が熱を取り戻す。菖は流川の胸元に頭を寄せた。まどろみの中、流川は菖の腰のあたりを引き寄せてくる。その仕草が愛おしい。ぎゅっと身を寄せれば、この上ない幸せが込み上げてくる。そうしているうちに、菖の背中に流川の大きな手が入り込んできた。大きくて、安心する流川の瑞々しくて滑らかな手。探るように動く。背中にあった手はゆっくりと体を伝い、ついには胸元に。手を避けようとしても流川の力には敵わない。優しく刺激が与えられると、ため息混じりの吐息が漏れた。刺激にひどく敏感なのは朝のせい。吐く息は白く浮き消えていく。流川が家を出る時間が近づいてきている。
「行ってくる」
コート差し出すと、流川は袖を通して羽織った。
「あ、寝癖」
優しく袖を引っ張ると、流川は菖の背に合わせ屈んだ。流川の髪を撫でて寝癖をなおす。たまに見せる従順な姿が可愛い。寝癖が直っても、菖は流川の髪をよしよしと何度も撫でた。朝の光が、つややかな漆黒の髪をローズグレイに照らし、とても綺麗だった。
「行ってらっしゃい」
名残惜しさを振り切る。
「今日はずっといる?」
流川は菖の手の甲にそっと触れ、言う。
「たぶん」
と菖は答える。硬い表情を崩し流川は言う。
「すぐ帰るから…だから」
菖はこの無意識に少し甘くなる流川の声が好きだ。
「だから?」
菖が聞くと、流川は少し顔を赤らめ黙った。黙り込むのはいつものこと。
「気をつけて」
と流川の目を見つめ、声をかけた。ふっと笑う流川。昔に比べずいぶんと柔らかくなった。意外にもふわりと笑い、目尻が下がる。それも最近では見慣れない表情ではなくなった。
枝葉が揺れ、鳥がよく晴れた空を連なって飛んでいくのを見送って、菖は首元につけられたくちづけの跡に触れながら、リビングに戻った。
今日は試合。その間は流川はきっと、自分のことも、この朝の出来事も思い出さないだろう。少し悔しなと菖は思う。
でも先程の「だから」の言葉の続きを考えれば、ーだから、さっきの続きをしようーそういう意味な気がしてしまう。そうやって感情や欲がなさそうな流川が、自分を求めていると思うと、この上なく幸せを感じる。
ハーブティーの茶葉をスプーンですくい、ポットにお湯を入れる。騒がしいく沸くお湯の音が菖を現実に引き戻す。お湯を加えゆっくりと浮遊する茶葉を沈めると、心地の良い香りが部屋樹に広がった。カモミールとミントの香りだ。部屋の半分ほどにまで柔らかい光が差し込んできた。寒いとはいえ、もう3月も近い。日差しは春の気配を纏い、きらりとこぼれ落ちた。
カップから不規則に立ち登る湯気を見つめ、菖は口元に笑みを浮かべた。早く会いたい。すぐに会いたくなる癖が治らない。菖は木蓮の香りとともに、流川の温もりを思い出した。
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