あんスタ
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ほんの少し身じろいだことでシーツが擦れて、そこまで広くない室内にかさりと微かな音が響く。
久しぶりに揃った休日に、ふたりきりの夜。そんなの、意識しない方が難しい。
静寂に耐えきれなくて先に声をあげたのは私の方だった。
「そ、そういえば。鼻が詰まった時は詰まっている方を上にして横になると治るよ。その、これは私の経験談なんだけど」
文脈がちぐはぐなことに気がついたのは悲しくも全て言い終えてからだった。
誰がどう見てもおかしな私の様子を見た友也くんは一瞬きょとんとしてから小さく吹き出して、それから伸びてきた片腕に閉じ込められる。ただでさえ緊張のあまりドキドキしているのに、それがもっと早まって、大変なことになっている。
「えへへ。……あんずさん、俺の事意識してくれてるんですね」
「だ、だって……!」
「だって?」
いつもはとびきり優しくて可愛らしい瞳が珍しく意地悪げに細められる。その表情に、どきりと一度大きく心臓が跳ねた。だって、こんなのときめかずにはいられないだろう。心臓が、強く限界を訴えている。
未だ質問への答えを返せないままの私を吐息だけで笑って、出会った時よりも少し大きくなった身体に包み込まれる。
この様子からするに、どうやら私の言葉の続きを待つつもりのようで。いよいよ観念して、彼の背に腕を回し返しながら瞼を伏せた。
「それは、当たり前だよ」
「……どうしてですか?」
「……そんなの、わかってるでしょ?」
「はい。でも、できれば」
片腕が外され、私の頬を彼の片手が覆う。少し指先が動いたかと思えば唇にそっと親指が当てられ、やさしくそこをなぞった。
「あんずさんの口から、ちゃんと聞きたいです」
ありえないくらい、心臓が高鳴っている。彼にもこれが聞こえているんじゃないだろうか、というくらい鼓動が騒いでいる。もちろん恥ずかしくてたまらないけれど、直接伝えたかったからまっすぐと目を見据える。
「友也くんのことが好きだからだよ」
「っ……先輩、ほんと、ずるい……というか、潔いですよね」
口を真一文字にして恨めしそうにしたかと思えば、一瞬で頬がほころんだ。くるくると変わる表情にみとれてしまう。
「そういうところも、好きです」
耳心地の良い声色が甘やかに囁きかけて。それから少しだけ視線が揺れて、外れる。
「その……昔、俺が倒れてしまった時のこと、覚えてますか」
「あ、うん……」
以前、まだ私たちが夢ノ咲学院の生徒であった頃。友也くんが疲労により倒れてしまったことがあった。
「あの時。俺には、一生懸命頑張ってるあんずさんがまぶしくて……羨ましいなって、思ったんです」
「えっ、そうなの……?」
「はい。本人にこんなことを伝えるのもなんなんですけど、……自分と比べて情けなくなって」
「ううん、情けなくなんて絶対にない」
「あはは、ありがとうございます。……あと、それとはべつに」
「うん?」
中途半端に言い淀む彼にそれとなく先を促す。視線が気まずげに揺れて、それから私のものと交わる。
「……純粋に、……あんずさんとああしていられて幸せだな、って。思ってしまって」
私たちの間に、どことなく甘酸っぱい空気が漂う。
少し落ち着き始めたはずの鼓動が再び訴え始めたのをどうにか無視して、彼の話に耳を傾けた。
「抱き枕で……ううん、現状で妥協しないで、対等な存在になりたい。……あんずさんに、男として見てもらいたいって、思ったんです」
腕の力がわずかに強まって、離れていく。それにほんの少しだけ寂しさを覚えながら彼の顔を見れば、慈愛の滲んだ眼差しが向けられる。
「だから……今こうしてあなたの隣にいられることが、たまらなく嬉しいんです」
ただでさえうるさい心臓がさらにばくばくと跳ねる。なんだか我ながらずっとドキドキしているな、と、改めて思う。この音はきっと全部友也くんにも聞こえているんだろうけれど、くっついているそこから伝わる鼓動も同じくらい激しい。そんな悠長なことを考えている間にもすぐそばからぎしり、僅かな音が立つ。視線を横へやると彼の腕が着かれていて、再び正面を向いた時にはもう遅い。彼越しに見える天井が、心做しかいつもよりも遠く見えた。
「その、……いい、ですか」
返事をしようにも、言葉が出ていかない。やっとの思いで頷くと、待っていましたと言わんばかりにそっと唇が重なった。
24/04/26
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