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『 監督生の事が好きなんだ、出来ればきっかけが欲しい』
かなりざっくりと割愛したが、そういった内容の相談を受けたのが一時間前。
どうしたものか、と、珍しくアズールは頭を抱えていた。
率直に言ってしまえば、この手の依頼は初めてではない。学生時代にもそういった悩みをいくつか聞いては叶えてきたし、卒業後はそれ以上に恋愛関連の相談を受けていた。そして言わずもがな、漏れなく全て良い方向へと導いている。
道徳的に反する事は論外だが。それを除けば、アズールに叶えられない事なんて殆どと言っていい程ない。
ただいつもと違う事と言えば、相談主とその悩みの種である相手がどちらもよく知る人物だという事だった。
依頼を持ち掛けてきたのはかつての同寮で、尚且つ同級生だった男だ。
言うまでもなくジェイドやフロイド程ではないが、寮生の中では比較的信頼のおける数少ない人物。反感を持たれる事の多かったアズールの事を理解し、慕い、時には意見すら述べてくれるような。あの学園ではごく珍しい貴重な好青年であった。
そんな彼の悩みの種──もとい監督生は、卒業してからもたまに近況報告をし合うような仲だった。
そして、明け透けに言ってしまうならアズール自身が想いを寄せている相手である。学生時代からこの感情に対しての自認はあったけれど、彼は勝算のない行動は絶対にしない。つまりは、そういう事である。
卒業後に親から継いだ、自身の経営するリストランテの閉店作業をしながら、ジェイドへと今回の依頼内容を打ち明ける。依頼の内容によってはフロイドへ先に声を掛けるけれど、今回は彼に相談するのが妥当だと判断した。
「力を貸してくれますね、ジェイド」
「……ええ、勿論」
揶揄うような声色や、探るような眼差しなどはなく。例の如く、唇はにんまりと緩やかに弧を描いた。それに少しだけ救われる。
やはり彼は有能だ、と、改めて感じた。
だからアズールは、彼を副寮長に推薦したのだ。
今は懐かしさすら覚えるあの頃を、そっと脳裏に描く。
普段は至って凡人を気取るくせに、自業自得で痛い目を見た友人のことを放っておけなくて。首を突っ込んだとしてデメリットしかないであろうことにも、なんだかんだと言いながら救いの手を差し伸べる。自分は間接的にあの子のせいで最も大切にしていたものたちを失ったが、直接的に心を救われたのも事実。
何気ない仕草からあどけない年相応の表情まで、久しく会っていないが、今でも鮮明にはっきりと思い浮かぶ。浮かび上がる表情たちはどれも楽しそうで、でも、時たま諦めたような表情をする、あの子の事を本当に大切に想っていた。
あの子の傍で、無邪気にふざけ合える同級生の彼らが心底羨ましかった。
度々開かれるお茶会ではしゃぎ合えるハーツラビュル寮生たちが羨ましかった。
気軽に茶化しに行けるフロイドの事が、羨ましかった。
──まったく、彼女を選んだ彼はとても見る目がある。
アズールは、彼女のことを想って相談にくる人物の来訪を今か今かと、ずっと。待ちわびていたのだ。
自分の見込んだこの二人なら、きっとどうにかできるだろう。まだジェイドには伝えなかったが、プランはとっくに出来上がっていた。次会った時にでも、分かりやすく纏めてからしっかりと伝えよう。
対象のプロフィールがファイリングされている資料へ、視線を落とす。見慣れた彼女の写真に、どうしようもなく心が締め付けられる。
嗚呼、泡になってしまいたい。
めでたしめでたし……?
──なんていうのは、大衆に好まれる綺麗事だらけでつまらない童話の中の話だ。
どんな手を使ってでも欲しいものは必ず手に入れる。アズールは元よりそういう質だった。相手が誰であろうと譲ってやる気など更々ない。
彼は散々アズールのことを尊敬していると言っておきながら、頼る人物を間違えた。少しでもアズールと関わっていたのなら薄々勘づく程度には、周りへと優しな牽制もしていた。まあ、そもそもこうしてひとに頼る時点でその程度の気持ちなのだろう、と冷めた思考を閉じていく。
とっくのとうに描き終えている、近い内に必ず迎えるハッピーエンドを浮かべ。
絶対的に報われない、ひとりの『 ヴィラン』を憐れみ。アズールはひと知れず口許を歪めた。
どんな手を使ってでも欲しいものは必ず手に入れる。アズールは元よりそういう質だった。相手が誰であろうと譲ってやる気など更々ない。
彼は散々アズールのことを尊敬していると言っておきながら、頼る人物を間違えた。少しでもアズールと関わっていたのなら薄々勘づく程度には、周りへと優しな牽制もしていた。まあ、そもそもこうしてひとに頼る時点でその程度の気持ちなのだろう、と冷めた思考を閉じていく。
とっくのとうに描き終えている、近い内に必ず迎えるハッピーエンドを浮かべ。
絶対的に報われない、ひとりの『 ヴィラン』を憐れみ。アズールはひと知れず口許を歪めた。
23/07/16
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