05
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「予想外の拾い物だな……」
置かれた立場を理解したのなら一人にしても問題無いだろう。静かに貸し部屋を後にして、仲間の眠る部屋へと移動する。
島に忽然と現れたその少女は、ただ只管に、びくびくと終始怯えていて。色々なおれの心配は杞憂で終わりそうだが、しかし油断はできない。その素性は未だよくわからないままなのだ。
*
おれたちがこの小さな島を訪れた理由は一つ。隣の島で出会った、とある爺さんの言葉が世迷言か否かの、答え合わせをするためだった。
とは言え航海に危険が伴うことは百も承知。何も、単なる遊戯感覚でわざわざ海に繰り出したわけでは無くて。ただ旅の寄り道に棚ぼたが得られるのならば、見知らぬ年寄りの戯言に付き合ってやるのも悪くないかと、そう思ったが故だ。
爺さんとは、おれたちが立ち寄った近隣の島の飯屋で偶然にも相席になって知り合った。相席と言っても、特に互いを気にせずに済む距離感の6人掛けテーブル。彼に声を掛けられるまで、おれはその顔や服装すらよく認識していなかった。
確かその時のおれたちは、町でかき集めた賞金首の情報を互いに報告し合っていた。しかし、海賊として旗揚げしたばかりの身では戦える力もまだまだ知れたもの。となれば狙える賞金首も限られてきて、この日集めた情報の殆どが無駄になる始末。だから今の実力で、もう少し効率よく金を稼げる方法は無いかと話していた。
それが耳に入ったのだろう。お前さんたちにいい事を教えてやる、と隣から唐突に、爺さんは話を持ちかけて来たのだった。
「ここより南東に位置する無人島に、悪魔の実が在る。食って力を得るも良し、売って金にするも良し」
どちらにも困っておるのじゃろう?、抑揚もなく無表情でそう告げた爺さんに、おれが抱いたのは言わずもがな不信感。そんな事がなぜわかるのかと一応問うてみれば、自分には悪魔の声が聞こえるからだと言う。やはり信憑性のかけらもない理由だった。
爺さんの言葉にあいつらは素直に食いついていたが、おれは相手にする気も起きず。適当にあしらって席を立ってしまおうと考えていると、しかしなぜかこちらに声を掛けてきて。
その体に悪魔を宿しておるのじゃな、と一言。おれは思わず爺さんをまじまじと見た。
島に着いてから一度も能力を使っていないおれが能力者であることは、誰にもバレるはずが無く。また、ハッタリだと言おうにも、見た目もまだ子どものおれが能力者である可能性は、世間一般からすれば限りなく低く。それを言い当てようとしたこの爺さんは、つまり決しておれたちを揶揄っているわけではないのだと感じた。
「おれたちに情報を与えた理由は何だ」
「……悪魔の声は昔から様々聞いてきたが、どれも耳障りで嫌になる。だから遠ざけてもらいたい。わしはただここで平穏に暮らしたいのじゃよ」
「何の根拠も無いお前の言葉を信じるとでも?」
「信じないのであれば、再び他を当たるだけじゃ。お前さんたちに期待はしとらんよ」
変わらず表情無く言った爺さんに、卑しい打算などまるで無く、本当に現状に弱っているだけなのだろうとおれは悟った。
あんた何者だと尋ねれば、ただのジジイじゃ、と返ってきたので鼻で嗤って。手を貸してほしいと言う割にはえらく非協力的なその様が可笑しくて、逆に好感が持てた。
面倒ごとがとことん嫌いらしい彼に、気が向いたらその島に寄ってやるよ、そう言い残しておれは飯屋を出た。
「いやまじで見つかんねえ……」
「もしかして、誰かに先を越されちゃったのかなあ」
「無駄足か。残念だが諦めるしかなさそうだな」
どのみち針路は東へ向かう予定だったため、少し南へ傾けたところで然程支障は無く。メリットの大きさを考えても、おれたちは満場一致で爺さんの言っていた島へ向かうことに決めたのだった。
しかしながら、そこには何も無かった。雪の積もる森林と小高い山、そして狭い海岸。かつて人の居た残骸は残っていたものの、何の変哲も無い小さな無人島だ。4人で手分けして探して、約二週間という充分な時間を費やしても尚、悪魔の実なんてものは見つからなかった。
「仕方ねえ。明日には針路を戻すぞ」
あの爺さんが嘘をついていたとは思わないが、これだけ探しても出てこないのであれば、それが結果だ。在れば僥倖、端からその程度の期待だったのだ。
早々に引き上げて元の航路へ進もう、そう考えながら寝所にしている小屋へと戻ろうとしていた、雪のちらつく夜分。
刹那、何かが動く気配がした。
「……?」
それはどうやら崖の上から感じたようで。微かに聞こえる、雪の踏みしめる音。森の獣の歩き方ではなく、敢えて言うのであれば雪道になど慣れていない、この島には相応しくない音。何だ。立ち止まったおれに仲間は気づかず進んでいたが、声を掛けるよりもまず、見上げた先の正体を知ることの方が先決だった。
暫く注視していた少し離れた崖の上で、何かの影が見えた。暗くて見えづらいものの、それは明らかに道の無い方へと進んでいて。落ちる、そう思った時、おれはようやくそこで影の正体が人である事を認識した。
しかし、おれは動かなかった。何せ、ここは先程まで人っ子一人居ない島だったのだ。唐突に姿を現した人間に警戒心を抱かなくてどうする。その人間がおれたちよりも先に例の悪魔の実を手に入れ、何らかの能力者になっている可能性もある。容易に手を出すべきではないと判断したおれは、無防備に落ちていくその様をじっと見ていた。
「!」
――少女だ。
そう気がついた途端、揺さぶられる意識。薄く頼りないその形貌に、彷彿とさせるのは兄妹の記憶。
白雪と共に雪崩れていくそいつの体にちらりと赤が染まっているように見えれば、そのコントラストはどうにも放っておけないものとなって。
落下音のした方向へ自然と足が動いて、おれは当初の目当ての品とは全く異なる拾い物をしたのだった。