このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

抵抗の果ての出会い

あたしは、いつの日か学校の授業を「体調が悪い」などと嘘をついて毎日サボるようになっていた。
一言で言うと不良だ。
だが自分でもそれをしっかり理解した上で、堂々とサボるという選択をしている。
それには家庭の事情というしっかりとした理由もあるのだが、今はそれについて話している場合ではない。
それよりも、今は目の前の問題の方が重要である。

「えっ………なんで!?」


今日も保健室に行って、あたしは具合が悪いフリでもして授業をサボろうとしていた。
だが、保健室には鍵がかかっており、余程急ぎの会議だったのかドアにかかっている小さなホワイトボードには『会議につき不在』の文字が乱雑に書き殴ってあった。

「あーもう!これじゃサボれないじゃん!」

愚痴をこぼしながら、あたしは他にサボれる場所を探すか、このまま家に帰ってしまおうかと悩んだ。
いや、家に帰るのは絶対に駄目だ。どうせ優しく諭されて、また学校へと逆戻りになるだろう。
そして挙げ句の果てに専属カウンセラーなんか付けられて、自分の生活は息苦しくなるだけだ。


これからどうしようか保健室の前でぐるぐる回りながら考えていると、ふと、廊下の窓から外にある旧校舎が目に入った。
この学校には、ずっと昔から使われていない古びた旧校舎があり、そのうち取り壊して違う建物にするという話を最近耳にしたような気がする。
今まで行く機会なんてものも特になく全く気にも留めていなかったが、あそこなら誰も近づかないだろうしサボるのに丁度いい場所だと考え、すぐに行動に移した。
やけに時代を感じさせる今にも崩れそうな外観は、あたしの心を不思議と惹き付ける。まるで誘われているようだ。
あたしは教師に見つからないようにと上履きのまま中庭に出て、土を踏むのも気にせず足早に旧校舎に向かって行った。



重々しい扉をゆっくりと押し開けると、旧校舎の中は想像通りとても埃っぽく、何の手入れもされていない状態だった。
所々に苔や植物が生えている始末だ。
だが、漫画で見るような壁に落書きがされていたり不良の溜まり場と化しているわけでもなく、ただただ空虚がそこに広がっているだけである。
それを見て、少しの期待で胸を踊らせていたあたしはすぐにがっくりと肩を落とした。


中学3年生の頃。どこの高校に入学するかを決める時、せめてもの抵抗に不良学校を選んだ。けれど今まであたしの意見に笑顔で首を縦に振るだけだった両親が、初めて反対をしてきた。
何故かと質問したら、あたしの家の人間は代々同じ高校に入学する事が決められていると返された。
それだけは、決して譲れないらしい。


不服だったあたしは、その学校について調べた。なぜそんなにもそこに拘るのだと。そして納得のいく理由を見つけてしまった。
『 天界と現世を繋ぐ扉がある』
学校の評価等が書き込まれているサイトで、特に注目されていない書き込みが目に入った。
そんな、信じた方が馬鹿だと言われるような書き込みを、あたしも信じたくはなかった。でも、信じざるをおえなかった。


(儀式の為か……本当に、面倒くさい家に産まれたもんだ)


結局この学校に入学して数ヶ月、そんな噂は全く聞かないし、扉を見つけることも当然なかった。


「………あーっと、誰かいますかー?」

小声で言ったつもりが、無駄に広い校舎だと思ったよりも声が響く。
この旧校舎に誰かがいるとしたら、それはあたしと同じように授業を受けずにサボっているということだ。
素行の悪い人など絶対にいないこの進学校では、当然ありえない事だろう。
あたしだけが、例外なだけである。

「ま、ちょっと汚いけどサボるにはうってつけの場所だな。よし、今日から此処があたしのサボり場改めひみつ基地だ!」

大声で叫ぶと、自分の声が建物に反射して耳に入ってくる。だが、耳に入ってきたのは自分の声だけじゃなかった。


ガジャーーン!!ガタタタ!!

「なっ!……うるさっ!!…なに?」

突然聞こえてきたピアノの鍵盤を思いっきり叩いたような不協和音と、何かが倒れたような音に、あたしは驚いて思わず声を上げて辺りを見渡す。

「誰もいないよね?……二階かな?」

不審に思い、恐る恐る二階への階段をゆっくりと上る。
(ピアノの音が聞こえたって事は、音楽室?)

「んーっと、……あった、音楽室。」

埃かぶったプレートをじっと見つめて5秒間。あたしの頭は理由も分からない不安で埋め尽くされていった。
もし霊的なものがいたら自分は逃げ切れるのか。いや、霊ならまだいい。不審者だった場合、腕力で勝てる可能性は0に等しいだろう。
だとしたら入らない方がいいのだろうかとうだうだと音楽室の前で迷っていると、ドアが勢いよく開いた。

「ーーーーッ!!」

「うわぁあ!!!」



あたしは叫びながら頭を抱え咄嗟に屈んだ。
1/1ページ
    スキ