文化祭

コスプレ衣装から私服に戻り、髪も下ろした月音はシンジの元に戻る。
恥ずかしそうに顔を赤くしながら、だ。
思わず口元に笑みが浮かんだ。


「おかえり」

「あの、シンジさ、さっきのは私の趣味じゃなくて……そのぉ…………っ!!」


声をかけると彼女は耳や首まで真っ赤にして、狼狽える。
苦笑していると、あることに気づいた。
その唇がまだ少し紅い。
スクリーンに映像を映す関係か、窓はカーテンが閉められてるせいで体育館内は暗い。
映像と出入り口が明かりの代わりとなり、二人は映像の光が届きやすい場所にいた。


「月音ちゃん、まだ口紅ついてるけど…」

「え?ちゃんと拭いたはずなのに…」


月音が丸めた手を口元に近づける。
どうやら擦りとる気だ。
すぐに分かったシンジは彼女の手を掴んで止める。
きょとんとしてるのが気配で分かるが、気にせずに出入り口から体育館に出る。
しばらく歩くと水のみ場に着いた。


「シンジさん?」


どうしてここまで来るのか?
そう思っていたが、何かを取り出したシンジに急に顎を持ち上げられ、上向かせられた。
じっと、真剣な表情で見つめられる。
心臓が高鳴り、再び顔を赤くしてしまうと。
唇に何か硬めのものが触れた。


「……?」


それが唇をなぞるように動く。
何度かなぞられていると、顎からシンジの手が離れた。


「コットンは無いから…ティッシュ使うか…」


シンジが何かを仕舞ってから次にポケットティッシュを取り出し、何枚かティッシュペーパーを出す。
水で濡らし、軽く絞ってからそれで唇に優しく触れられた。
ひんやりとした冷たい感覚がし、また唇をなぞるように動いた。
濡れたティッシュペーパーが離されると、じっと覗き込んできて。


「うん、綺麗に取れた」


満足そうに頷いた。


「えー、と…」

「あ、いきなりごめん……擦ったら口紅が広がるから、リップクリームを使ったんだ。リップクリームを使って口紅を落とす記事が前にあったからさ」


戸惑っていると、シンジが申し訳なさそうにする。
キスされるのかと思ってしまい、ときめいた自分が恥ずかしい。
穴があったら入りたいくらいに。


「ただ、このリップクリームって先に俺が何回か使ってたから……嫌な気持ちになってたら、ごめんね?」

「い、いえ!大丈夫、です……っ」


先にシンジが使っていた。
その事実にあることに気づいて心臓が強く脈打つ。
間接キスになっている、と。
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