欲望と罪と世界

ゲンタロウの取材が終わり、「ささめゆき」も今日は早めに閉店し。
勝利と月音以外はいない店内で、二人は言葉を交わす。
勝利の服装はこの世界に来た時のものになってる。


「色々と世話になったな…」

「気にするな。ここ数日、うちの手伝いをしてくれたんだからそれでそういうのはチャラにしたいし…」


彼の言葉に彼女は少し苦笑した。

本当に不思議な少女だ、と、感想が浮かぶ。
幼い見た目に反してハスキーボイスで、落ち着いた雰囲気だ。
また、年齢はそれほど変わらないはずなのに既に喫茶店を経営している。
その過去は知らないが、本当に何者だろうか。
けれど仲間……いや、友人なのは変わらない。
そこは確かなはずなのだから。


「あ、そうだ。勝利が帰ってからの話なんだが……約束してほしい。私や、私の世界のことは誰にも言わないでくれ」

「え?誰にも?」

「ああ……ちょっと、色々あってな…頼む」


困ったような、切実なような表情で見上げ、手を合わせてくる。
何でだろうか?
疑問に思いはしたが頷くと、月音が安堵した表情を浮かべた。


「あ、そうだ。勝利、変身する時に使ってたカプセルがあっただろ?それの空っぽなタイプもあるか?あったら貸してくれ」

「空っぽ……ブランクカプセルか。ほい」


月音に問いかけられ、勝利は白に近いグレーのライダーカプセル……まだ何の力も宿していない、ブランクカプセルを渡す。
受け取った彼女はまじまじとブランクカプセルを見てから、手元に小さな銀のオーロラを生み出す。
そこからライダーカード……ヴァルツのサモンライドのそれを取り出し、ライダーカプセルに翳した。
カードとカプセルがイエローの光に包まれ、一つとなる。


「はい、返す」

「お、おう…」


自分が見てきたのとは少し違う継承光景に、ポカンとしていたが差し出された新たなライダーカプセルを受け取る。
白に近いグレーだったはずなのに鮮やかなイエローに染まり、ディリンクの絵柄が浮かんでる。
新たなライダーカプセル────ディリンクカプセルだ。


「私の力をそのカプセルに宿らせた。……多分だが、オーロラ程度なら生身でも使えるはずだ。あのオーロラは移動手段以外に、別の場所の物とか取るのにも使える」

「あ、それは助かる」


移動手段にはバイクがあるが、物に関しては別だ。
わざわざ取りに行ったり、運んだりする必要がある。
そういう意味では非常に便利だ。
物は試しとばかりに勝利はディリンクカプセルを起動させ、エクスライザーにスキャンさせる。


《ディリンク!バースト!》


すると勝利と月音の近くに銀のオーロラが現れた。
オーロラには、彼にとって見慣れた風景があった。


「あそこは……」


勝利が住む場所――――願葉がんば区。
その風景だ。
もう少しだけ、ここにいたいとも思ってしまう。
けれどあそこは自分の帰るべき場所だ。
仲間や……好きな女の子が、いる場所だ。


「月音」


前にいる少女の名前を呼ぶと、彼女はこちらを見た。


「本当に、ありがとう」

「……どういたしまして…」


柔らかく微笑んだ姿を見てから。
勝利はオーロラを潜り、自分がいるべき世界へと帰った。
オーロラは消え、月音だけがいる店内は彼女以外の人の気配が無くなった。


「勝利、お前のこれからの人生に……さちあるものを祈るよ」


静かに。
月音は小さく呟いた。
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