欲望と罪と世界

ディリンク───月音が、ヴァルツ───勝利へと視線を向けて手を差し出す。


「椿……いや、勝利。苦痛などがあっても進むか?苦痛などを味わずに立ち止まるか?お前の答えを、聞かせてくれ」

「……確かに立ち止まれば苦しいこともなくなるんだろうな。きっとその方が楽なんだと………思う。でもな………今更そんな選択肢を選ぶと思うか………?」


勝利は俯き、言葉を紡ぐ。
思い出すのは、様々な“声”。


「どんなお題目を並べても、どんな綺麗事を並べても………暴力を選んだ時点で俺はただの罪人。コイツらと同じだよ。だから、報われるつもりなんてない……。 それでも、俺はこの苦しみも………痛みも、罪も全部背負って………前に進む。………心配しなくても、最初からこの猫野郎の言うことなんか、聞く耳なんか持っちゃいねぇよ」


月音を見上げ、差し出された手を掴む。
力強く引っ張られ、立ち上がって。


「『夢』だとか『希望』だとか、そんな薄っぺらい言葉を並べるつもりはねぇ。だけど、半端な覚悟でこの拳を握ってる訳でもないんだわ………。お前ごときが俺の信念を打ち砕けると思うなよ、猫野郎………!」


隣に並び、カザリを睨みつけ。
凛、と言い切った。

月音────ディリンクは一瞬……ほんの一瞬だけ。
勝利────ヴァルツに、他の姿が重なったように見えた。
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