欲望と罪と世界

カザリのスピードになんとか対応するため、集中する二人。
だが、集中するだけでも疲れてくるのが人間だ。
それは彼らも例外ではなかった。


「ぐぁっ!!」

「椿!」


集中力が切れてしまったのか、ヴァルツが攻撃を受けて吹っ飛ばされてしまう。
吹っ飛ばされ、地面にうつ伏せに倒れてしまう。
そんな彼の腰と右腕をカザリは両足で踏み、乗ることで体重をかけて動きを封じた。


「動くな」


ガンモードに組み立て直したライドブッカーの銃口を向けてきたディリンクに、カザリが命令した。
カザリはしゃがみ、ヴァルツの首に爪を突きつける。
下手に動けないディリンクは、ライドブッカーを下ろすが奴を睨む。


「そうそう、おとなしくしてなよ…」


満足げな声を出し、カザリは笑う。


「それにしても……分からないなぁ」


本当に分からないというように、首を傾げる。
五感の全てが鈍くて視覚では色の認識が出来ず、聴覚では聴こえる音が濁っているグリードの彼らでもある程度の情報が得られる。


「君、僕が生み出したヤミーを中にいたモノごと倒そうとしたよね?それも、説明を聞いてから」


さらっとエイジの説明を変だと評価してから、カザリはヴァルツに問いかける。
殺そうとしたと、遠回しに告げながら。
ヴァルツは───勝利はマスクの下で目を見開き、強く瞑った。
聞きたくないというように。


「オーズの説明があまりにも変だったけど……あれを聞いたら、普通はもう少し躊躇ったりするはずなのにさ。躊躇いは無かったどころか、むしろさらにやる気に見えたよ」


少し楽しそうにカザリは言葉を紡ぐ。
強く唇を噛む勝利。
歯が食い込み、皮が裂けて血が流れて顎へと伝う。

エイジの変な説明もあったが、憎しみを抱えている相手でもあるアンゲロスを連想した。
いや、憎しみだけじゃない。
彼には、アンゲロスに対して他にも思いがあった。
そのためにも、彼は今まで、その手を……。


「あぁ、もしかして…ふふ…慣れてるとか?命を奪うことに…」


嘲笑い、カザリがそう言った瞬間。
数発の銃声が響いた。
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