欲望と罪と世界

喫茶「ささめゆき」。
いくつかの椅子を並べた簡易ベッドにエイジを寝かせる。
出入り口であるドアには銀のオーロラが展開されている。
が、どこにも繋がっていないそれは壁となっていた。


「何でこうするんだ……」


だいぶ落ち着いてきているが、怒りを滲ませて勝利はエイジの手当てをする月音を睨む。
月音はちらりと一瞥してから、手当てを続行する。


「こうでもしないとお前は出ていきそうだからな。……聞きたいこともあるし」

「聞きたいことって」

「エイジさんの傷は、お前がやったんだな?」


何なんだよと言おうとする前に、言い当てられる。
思わず言葉に詰まる彼に、やっぱりかと呟く。
何を言われるのかと無意識に身構えると。


「どんな説明をされた?」


勝利の予想とは違うことを言われた。
ぽかんとしてると促された。
おずおずと、説明をした。
説明と手当てが終わり、無言で聞いていたがおもむろに。


「あんたのせいじゃないか」

「ちょっと!?」


ぐりぐりと、エイジの額に拳を当てた。
唸る彼を無視してぐりぐりと捻りながら当てていると、勝利がツッコミを入れる。
ちなみに中指の間接が他の指よりも突き出すように握ってるため、余計に痛みを与えることが出来る。
しばらくぐりぐりと捻りながら当て続けてから。


「とりあえずそこに座れ、今からお前が戦ったヤミーのちゃんとした説明をする」

「ちゃんとした…?」

「ああ……あのヤミーの宿主にされた人間は、まだ…………いや、絶対に助けることが出来る」


それを聞いて目を見開く。
助けることが出来る。
どういうことなのかと尋ねる前に、月音は厨房に行く。
見送ってしまっていると、ふわりといい香りが漂う。
コーヒーの香りだ。
少ししたらコーヒーの入った、黒のマグカップを持った彼女が戻ってきた。


「ほい。飲みながら聞いてくれると助かる」

「……分かった」


差し出されたマグカップを受け取り、勝利が一口飲んだのを見てから口を開く。


「まず、ヤミーってのはグリード……動物や昆虫などの欲望から生まれた怪人により、人間の欲望を使って生み出された怪人だ」

「欲望…」


ぽつりと呟いた言葉に頷く。


「ああ。ヤミーにも種類はあるが……あれは一緒にいた猫科のグリード…カザリが生み出した、猫科のヤミーだ」

「猫科?」


うん、と再び頷く。
カザリとは先ほどの喋っていた、黄色と黒に染まってた怪人だろう。


「猫科ヤミーの特徴は、宿主の人間に寄生することだ。宿主の人間を操り、抱いてる欲望のままに行動する。例えば「食べ物を食べたい」なら張り裂けそうになるまで食わせるし、「誰かを切りたい」……?「手術したい」……?とりあえず、「手術したい」なら勝手に外科手術をして欲望を満たす」

「欲望を…」

「欲望が満たされれば猫科ヤミーは宿主を取り込み、表に現れる。おはぎで例えるなら餅米部分が人間、あんこがヤミーだな」


一気に安っぽくなった。
内心で呟くも、静かに説明を聞く。


「で、ヤミーを宿主から引き離すには、まだ宿主が表に出てるなら拘束するなりして欲望を刺激させてヤミーが出るようにする。ヤミーが表にいるなら」


そこで言葉を切り、真剣な表情になる。


「素早く攻撃を続け、ヤミーの肉体であるセルメダルを掻き分けて……宿主が見えてきたら、引きずり出す。そうすればヤミーだけが残るし、人間は無事だから助けることが出来る」

「なるほど…」

「だから、椿。お前の力を貸してくれ」


まっすぐに、真剣に。
月音は勝利を見つめた。
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