欲望と罪と世界

勝利とエイジの二人、月音は一人。
そんな形で二手に分かれ、勝利が帰還するための手がかりを探す。


「ま、簡単には見つからないよな…」


そう呟きながらも月音は歩く。
宛もなく歩くしかないため、途中から思考を始める。
昨日、夕飯を作る時に考えた『門矢士』について。
途中で思考を中断したが、それはそれで疑問があった。
勝利をこの世界に送り込むことによるメリットだ。
メリットなど何も無さそうに見える上に、意図が掴めない。
もしくは月音には分からないメリットがあるのか?


「……っ」


そこまで思考を巡らせていたが、すぐに中断させた。
自分の前に見慣れた、銀色のオーロラが現れたことに警戒する。
同時に周囲へと視線を投げて確認する。
誰もいないことを確認し、少し安堵しながら警戒度を上げるとオーロラから人が現れる。

黒のスーツとマゼンタのワイシャツを纏い、首にはトイカメラをかけている。
茶髪で長身の、整った顔立ちの男性。

思わず舌打ちしそうになったが、自重する。
現れたのはある意味で馴染みがある人物。
次元が違うものの、遺伝子の半分は同一の男。
────『門矢士』だ。

『士』は月音の姿を見て、静かに目を細める。
その動作すらも見逃さないように気をつけ、懐に忍ばせているディリンクドライバーに触れる。
彼の戦闘力については、詳しくは分からない。
けれど、視聴者だった頃の記憶である程度は分かっていることがある。
あの『士』が変身する、仮面ライダーディケイドには平成二期と称される仮面ライダー達……Wからビルドまでの力があるのだと。
警戒心を高めていく月音。
不意に、『士』がほんの僅かに口端を上げた。


「お前が俺の………か。面白い……少し遊ぼうか」


その言葉を聞いて。
ほぼ反射的に、月音は二つのオーロラを生み出した。
一つは『士』を、一つは月音を。
それぞれ捉え、別の場所に送ろうとする。
この場所で行うのは危険だと判断して。
どこに送られるか分からないのに、『士』は大人しくしている。
今の彼ほどとなれば、その気になったらオーロラを破壊するなり相殺するなり出来るはずなのに。

冷静なその姿は、月音の目には長く戦ってきた戦士としての余裕に満ちたものに見えた。
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