欲望と罪と世界

時刻は月音と勝利がエイジに会う少し前に遡る。
一人の少年が松葉杖を突きながら、ゆっくりと歩く。
よく見ると片足はギブスで固定され、浮いている。
松葉杖を動かしながら歩く少年の前を、ジャージを着た同年代の少年達が横切って走っていく。
少年の着る制服と、彼らのジャージには同じ校章の刺繍があるために同校なのだろう。
ジャージの少年達は彼に気づかず走り去っていくが…。


「……ちくしょう…っ」


少年は悔しそうにそれを見ていた。


「何で、こんな…っ…、ちくしょぉ…っ!」


彼は通っている高校の陸上部に所属していた。
けれど交通事故に遭い、片足を骨折してしまったのだ。
二年生として、レギュラーとして頑張ろうと思った矢先の事故。
マネージャーに転向して完治したら選手に戻ることも考えたが、全治半年だと医者に告げられている。
悔しい思いと陸上部の荷物にしかならないと考えて退部したが…。


「走りてぇよ……!!」


走るのが何よりも好きで、小学生や中学生の時には賞まで取った。
賞はいらないが、走りたい。
思う存分に、自分の心の赴くままに…!
だからだろうか?
ソレが、その欲望を嗅ぎ取ったのは。


「その欲望、解放しろ」


彼の背後に黄と黒に彩られた怪物が現れ。
後頭部に出現した、メダルの投入口へと銀に鈍く輝くメダルを投入した。
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