Motherland

リビングに戻れば、勝利が固まっていた。
何故か、涙を流して。


「な……椿、どうした!?不味かったか!?」


月音は慌てて勝利に近づき、ペットボトルをテーブルに置く。
泣くほど不味かったのかと思っていたが、我に返ったように勝利がこちらを見る。
………月音を通り越して、違う何かを見るような眼差しで。


「あ、いや……不味くないから。むしろめっちゃ美味い」

「けど泣いてるし…」

「え?あ、あー………涙が出るほど美味いってやつだよ」


指摘されて箸を持っていない方の手で涙を拭い、それに気づいた彼は誤魔化すように笑って言う。
その言葉に納得していないものの、教えてくれないだろうなと悟る。
無理矢理に落ち着くと、自分の席に戻って座る。


「そうか…。まだハンバーグは二つあるから、おかわりしたくなったら言えよ?」

「分かった」


コップに麦茶を注いでいきながらの月音の言葉に、勝利は頷く。
ただ、泣いた理由だけは言えない、言えるわけがなかった。
数少ない思い出の、今は亡き母が作ってくれた煮込みハンバーグ。
その記憶にあるものと、月音が作ったものは、味が一緒だったのだから…。
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