ウィザードの世界

 

「………九つの世界を、一つに戻すために」


月音の言葉にハルトが少し腰を浮かす。
が、少し気になることがあるのか、こよみが彼の袖を掴んで引いた。


「今、私の世界は滅ぼうとしてる。それで彼……聖さんからディリンクの力を渡され、旅をすることになったんです。元々、ウィザード…希導さんや、他のライダー達の世界は一つだったんですが九つの世界に分かれてしまったらしくて。だからその世界達を戻すため、ですね」


目を伏せ、顔を俯かせる。
気づかれないように小さく、なるべく静かにため息を吐き出しながら。
自分を落ち着かせようとして。

話を聞いた二人は、困ったように互いを見た。
自分達を含めた、九つの世界を一つに戻す。
あまりにも唐突過ぎる上にスケールが大きすぎる。
信じにくい、が…。
ちらりと月音を見る。
背も低く、女だと分かる程度には中性的でありながら幼い顔立ちの少女。
彼女の雰囲気や表情から、嘘だと思うことが出来ない。
というよりは、本当だと伝わってくる。
もしも嘘であり、演技ならば将来は女優となれるだろうほどに。

しばらく黙り、考える二人。
信じてもらえないよな、と月音が諦めた時。


「………分かった、信じてみる」


その言葉を聞いて、思わず顔を上げた。
言葉の主であるハルトと目が合った。


「多分だけど、君は嘘をついてないと思う。だから、信じてみる」


真剣な表情でそう言われ、月音の目が見開かれる。
けれど、すぐに弛められた。


「ありがとう、ございます…」


嬉しそうな、助かるような声。
女性にしては低めの、いわゆるハスキーボイスのそれを聞いてハルトは微笑んだ。
信じてみようと思って良かったと、思いながら。
不意にこよみがあっ、と声を漏らした。
どうしたのかとそちらを見れば、彼女を何かを見ていた。
視線の先を辿ると時計であり、六時を少し過ぎた時間であることを指している。


「もう六時過ぎちゃってる…」


少し苦い表情をするこよみ。
見ればハルトもだ。
それだけ自分は長く気絶してたのかと考えた月音は立ち上がり、コップなどを持つ。


「今から夕飯を作りますから、食べていってください」


どれくらいここにいたのかは知らないが、ただで帰すのも何だかなぁと思ってしまう。
それに自分が起きるまで、おそらく待っていたのだろうし。
驚いた表情でこよみとハルトが月音を見る。
そして声を揃えて疑問を口にした。


「え、いいの?」

「はい。私の話を信じてくれましたし…」


頷き、そう返す。
信じてくれないだろうと思っていたのに、信じてくれた。
それだけでも胸の中にある、重い何かが僅かに軽くなった気がしたのだ。


「それに今から帰ってから夕飯を作るっていうのは疲れると思いますからね。簡単なもので良ければ、になりますが…」

「それでも確かに助かるけど…」

「気絶してた私が起きるのを待ってたのもあるでしょうから、そのお詫びも兼ねたいので…」

「……分かった」


そこまで言われてしまえば、断るのも難しくなってくる。


「あ、二人はアレルギーとかで食べれないものはありますか?それによって作るものも変わりますが…」

「俺もこよみも食物アレルギーは無いよ」

「そうですか……分かりました。あ、聖さん、ご飯はまだあります?」

「あるよ。四人で食べるなら少し多いくらいかな」


なるほどと呟き、月音は厨房に向かう。
そこに普段から置いてある、黒いエプロンを着けてポケットから三つのヘアゴムを取り出し、手首に巻く。
前髪も巻き込むように上げてからハーフアップにし、項の辺りでも一つに束ねる。
さらに束ねた髪の真ん中辺りも束ね、広がらないようにした。
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