ウィザードの世界

目が覚めれば、見慣れた天井だった。
しばらくぼんやりとしていた月音は、気絶する前の記憶を巡らせ……勢いよく起き上がった。


「あぁ、起きたかい?」

「……聖さん…」

「はい、リンゴジュース」


聖から差し出されたコップを受け取った月音は小さく礼を言って中身を飲み干す。
軽くため息を吐き出したのを見てから、聖は話しかけた。


「落ち着いたなら喫茶店の方に来てくれるかい?」

「喫茶店に?分かりました」


コップをテーブルに起き、ソファーから降りる。
自宅スペースのリビングから勤務スペースである喫茶店へと移動する。
そこにいた二人──正確にはそのうちの一人──を見て、月音の表情が暗くなった。
その一人も彼女を見て罰が悪そうな表情をしている。


「………何でウィザードとそのパートナーらしき女性がうちにいるんですか」

「俺が呼んだんだよ、気絶した君を運んでもらうのもあってね」

「どうやって呼んだんです」

「君の携帯に電話をかけせてもらったよ」


ああ、だからかと納得する月音をよそに、席に着いてる二人へ聖は近づく。
その手には紅茶用のポット。
さっきまで手ぶらだったよな、どこに持ってたんだと内心でツッコミを入れつつ彼女もとりあえず近づく。


「紅茶のおかわりはどうかな?おかわりは基本的に無料だよ」

「あ、はい…」

「いただきます…」

「正確にはこの店ではコーヒー、紅茶、麦茶のおかわりが無料でジュース、緑茶は三杯目のおかわりからが無料ですよ。それとお客さまに対してタメ口はダメじゃないですか……絞めるぞ」

「……すみません、店長。だから真顔をやめてください」


真顔の月音に思わず敬語で謝る聖に驚きながらも、ウィザードに変身していた男性が彼女に声をかける。


「その…さっきは悪かった…。攻撃して…」

「私からもごめんなさい。ハルトがいきなり…」

「あー…別に気にしてないですけど…」

「でも、本当にごめんな…」


何やらすごく落ち込んでいる男性にもしかしてと、気絶する直前に聞いた言葉を思い出し、尋ねる。


「私が女だからですか?」


ぴくっ、と男性の体が反応する。
やっぱりかと察した彼女は再びため息を吐き出した。


「初めて変身する前後で色々ありましたが、私は自分で戦うと決めたので本当に気にしてないです」

「………そうか」

「そうですよ。私の名前は月音、星宮月音です」


微笑みながら自己紹介する。
そんな男女は顔を見合わせてから、彼女に向かって自分達も自己紹介をする。


「俺はハルト、希導きどうハルト、指輪の魔法使いで仮面ライダーウィザードと呼ばれてる。こっちは双子の妹の…」

「希導こよみっていうの。よろしくね」

「ハルトさんと、こよみさんですね。こちらこそよろしくお願いします」

「俺は聖…」

「仕事」

「はい…」


聖も混ざろうとしていたが、ぎろりと睨みつけてくる月音の視線に負ける。
月音は知らないが今は貸し切りという札を出しているので、他の客が出入りすることはない。
が、希導双子がいるので仕事をさせる気らしい。
おそらく店長をしてるらしき学生くらいの若い女の子が、店員の大人の男性を働かせてる。
シュールな光景に感じるそれにハルトとこよみは苦笑した。
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