純愛ぱらどっくす 〜after〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いや、どンだけ物分かり良いカノジョを演じてんのよ!」
ぷんッ、と頬を膨らませる彼女の顔を
だってぇ…、とただただ情け無い顔で見返すことしか私には出来なかった
【ウレシイの理由】
映画が終わって、夕暮れ時
面白かったねー、あそこはちょっとビックリしたわ
なんて感想を言い合いながら
そろそろ帰らないといけないなぁ、なんて考えてた時だった
突然隣を歩く友人から
なんで今日の休みも自分と一緒なのだ
カレシの影山はどうした
と、捲し立てられ
例の付き合った日から
実は会ってないと…
ポロリ零したのが引き金となり
散々問い詰められた
それで仕方なく今までの経緯を話すと
冒頭のように彼女は憤慨してしまったと言うことだ
あの日ーー
別れる前に連絡先を交換した
だからいつでも連絡は取れる
取れるん…だけど…
当然飛雄の方からは一度も連絡は無く
なるべく彼の邪魔をしたくない私も
今のところ初連絡は見送っている
そして飛雄にはもうひとつ伝えていることがある
小学生の時から昼休みの時間は体力回復の為に、って寝てばかりだった
だから朝練とかで疲れてるんなら昼休みは仮眠とりなよ…
と彼の身体を気遣い、昼休みの訪問を断れば
その言いつけ通りに
飛雄は私の教室に来なくなった
忠犬ハチ公ならぬ
忠犬トビウオ
だから飛雄とは
本当にあれ以来、話しもしていないし顔も見ていない
まぁ…こんな話しを聞かされれば、今の彼女みたいに呆れるのも無理はないか
でも…仕方ないじゃん…
飛雄の中でバレーは唯一無二の存在
止まったら死ぬマグロみたいに
バレーが出来なくなったら死んでしまうかもしれない彼に
いくら彼女だからって私がそれを邪魔する権利なんか…
当然ない
「あんたそんなんじゃ、バレーに負けるよっ!いいのっ!?」
『いや、もとからバレーに勝とうなんて思ってないんだけど…』
と言うかバレーは人じゃないんですよ
ムキーっ!と歯を見せて怒る友人
「そんなのまるで愛人のポジションじゃん!正妻になりたくないのっ!?今の日陰の存在で満足なの!?」
地団駄を踏みそうなくらい私より何故か怒る彼女に
嬉しいやら、申し訳ないやらで
なんと言うか逆に気持ちが落ち着く
「あーもうっ、いい?そんないい子ちゃんしてたら影山くんとデートすら出来ないよっ!寂しいよ…逢いたいな…(ハート)ぐらいメールでもなんでも伝えなよっ!」
分かった!?なんて一気に捲し立てる彼女に
『んー…分かった』
としぶしぶ返事を返した
そんな可愛いことスラスラと言えたらどんなにいいか…
今まで散々逃げることしかしてこなかった、不器用人間からしたらスゴく羨ましい
ヨシっと頷いた友人は最後に
それでは吉報を待っている、じゃあねっ、と
少しだけ鼻息荒く別れの言葉を言い、くるりと後ろを向いて帰って行った
その後ろ姿を見送りながら私も手を振る
私も…あれこれ考えずにもうちょっと大胆に行動出来たら良かったのにな
こんな小心者じゃ、飛雄に迷惑かかるって言い訳して何も出来ない…
せっかく今日は楽しかったのに…
そう思って肩を落としていると突然
「あのっ、すみません」
と背後から声をかけられた
振り向くとスーツを着た男性が立っている
「ここら辺にバス停ってありますか?探したんだけど見つからなくて…」
慌てているのか少しソワソワしながら聞いてくる男性に
『あ、それならあっちですよ。少し見えずらい場所にあるので…』
その方向を指差しながら頭の地図を説明し終えると
「すみません、ありがとうございましたっ」
と深々とお辞儀をして足早に去っていった
んー、今の説明の仕方で大丈夫だったかなぁ…
自分の案内の仕方であの男性が目的のバスに乗れるか乗れないかが決まってくるのだ
不安になりながらも、その後ろ姿を呆然と見つめていると
グイッと今度は腕を後ろから引っ張られた
結構強めのそれに
身体がぐらついて『わっ、』と声を上げる
片脚でなんとか踏ん張って
そのまま後ろを振り返って驚いた
『ーーッとび…お?』
そこには居るはずのない
長身で目つきの悪い
バレー馬鹿兼私のカレシが
何故か睨むように立っていた
え…なんでここに……え?
学校でもないこんな場所で彼の姿を目視して
これは現実なのだろうか…
寂しさを誤魔化していた私の深層心理が見せている幻覚なのかと
嬉しいよりも驚きが上回り若干パニックになってしまう
そんな声を出せずにいる私に向かって
「今の誰だ?」
と不機嫌そうな態度でジロリと睨んできた
『へ?い、今のって…?』
「今話してたヤツ」
『話してた……?と、友達だけど?』
なんのことを言ってるのか分からなかった私は
一緒に遊んでいた友人のことだと思い、そう答えた
だけどその答えにあからさまにイラッとした顔をする飛雄
チッ、と舌打ちをすると
「…お前、ダチにスーツ着るようなヤツいんのかよ」
と凄んでくる
そこでパニックになっていた私はやっと先程の男性のことを思い出した
『あ、さっきのスーツのひと…?』
「そう言ってんだろっ、ボケ」
いや、それにしてももうちょっと言い方があるんじゃないか
いやいや、それよりも久しぶりに会った彼女に対しての態度と第一声がそれですか?
そんな言葉を飲み込みながら
さっきあった出来事を説明した
「…んだよ、絡まれてたわけじゃねぇのかよ」
『だからそう言ってるじゃん』
ならさっさとそう言え、と偉そうにソッポを向いて腕を組む飛雄
はいはい、そうですね
言葉足らずの貴方のセリフを解読できなかった私が悪ぅごさいました
そう心の中で悪態をついて思い出した
『そうだ飛雄、なんでこんな所に居るの?練習は?』
「今日は対戦相手のガッコーで練習試合があったからその帰り」
『そうだったんだ…え、でもそれだったら他の部活の人は?一緒じゃないの?』
「場所が近ェから現地集合、現地解散」
あー、なるほど
だからここを通って帰ってたんだ
それで私を見つけて、声を掛けてくれて
しかも絡まれてたって…
一応、心配…してくれたんだ
偉そうにふんぞり返る飛雄の横顔を見て
じんわりと胸が熱くなる
それぐらいのことで
気持ちが舞いあがりそうになる
『そうだったんだ…お疲れ様』
「おう、つうかお前は何してたんだよ」
『私は友達と遊んでたの。で、ちょうど今から帰ろうかと思って』
私の返事にフーン、と答えた飛雄は
「…なら帰んぞ」
とこれまたぶっきらぼうに言い放ったかと思ったら
私の返事なんて聞かずに、行くぞ、と歩き出す
『あ、ちょっ…待ってよっ』
慌てて隣に並んで私も歩く
こうやって肩を並べて歩くのこの前以来だなぁ
…って言ってもそもそも一緒に帰るのも2回目なんだけど…
それでもやっぱり…
意識して力を入れてないと
顔が緩むのを抑えられないくらい
嬉しい…
ドキドキする私とは違い
久しぶりに会えた飛雄は変わらない
飛雄は楽しそうに今日あった練習試合のことを話してくれる
今日も今日とて
とっても充実したバレーが出来たんだろうな
とこっちも顔が綻ぶ
その会話は変わらなさすぎて
恋人って言うより
昔と同じ気の置けない幼なじみとしての感覚が蘇って
懐かしさを感じたくらい
それでも
「…なんだよ」
ニヤニヤする私に訝しんだ飛雄がふと眉根を寄せた
イケナイ、顔に力入れるの忘れてた
だってあまりにも飛雄が嬉しそうで
久しぶりに会えた彼はなんにも変わってなくて
やっぱり好きだな、っていう自分のキモチも
全然変わんなくて
『ううん、飛雄バレーの話ししてる時スゴく嬉しそうで、昔と変わんないなぁって』
そうしみじみと思ってたんだよ
そのいつも上がっている目尻が
心なしか少しだけ緩やかに下がって
キラキラした顔をしている横顔を見て…
なのに飛雄は
は?と予想に反して顔を顰める
…え?私なにか変なこと言った?
一瞬で崩れた表情と
まさかの反応に私も顔を固めた
そんな私に少しだけヤベッと言うように口を曲げた飛雄は視線を逸らして頬を掻いた
そしてさっきまでのテンションはどこへやら
ぼそぼそ小さく喋り出す
「久しぶりに…つーか練習終わりの眠てぇ時にこんなとこで偶然、お前に会えたんだ。…ウレシイにきまってんだろ」
………ん?
スンとした表情で横目でそれだけ言うと
また前を見て、ブロックがどうのと今日の出来事を話し出す飛雄
でも
わたしの耳はもう
そんな話しの内容なんてほとんど入ってこない
そっか…
嬉しそうにしてたのは
そっちだったのか
バレーの話ももちろんだけど
飛雄も
私と久しぶりに逢えたことが
そんなに嬉しかったなんて…
だからあの時変な反応したんだ
思い返せば今日は飛雄に会ってから
的外れなことばかり言っているような気がする
でもそれはたぶん自分でも気がつかないくらい
キモチが舞い上がってるんだ
「どした?」
今度は黙る私に飛雄が声をかけてくる
『なんでもねぇです…』
たぶん飛雄は首を傾げているだろう
さっきと同じ表情で
でも私はどうしても
飛雄の顔を見ることが出来ない
だってたぶん
火傷しそうなほど真っ赤になった顔で
キモチワルイほどニヤニヤしているから
こんな顔見られた日には
フツーに、…オマエ顔変だぞっ、と言われかねない
せっかくの気分が台無しにならないように
心の中で呟いた
仕方がない
今はこのくらいで勘弁しといてあげるか
1/1ページ