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休憩に入りドリンクに口につけ、グイッと傾けた
その瞬間、ふと窓の外に目が行って
さっきまで晴れてたのに、いきなり曇りだしたな……
ゴクッと口の中の水分を飲み干し
そう言えば傘を持って来てないことに気づく
このままだと、降るか…
今日は先輩たちと残って練習をする約束をしている
帰る頃には結構な感じで降ってそうだ
前にも……こんなことがあったな
【続。糸の雨】影山side
日向と残って練習していた時
外がうるさいことに気がついた
「おー!めちゃくちゃ降ってるっ!」
開いている扉まで行って、外に向かって叫ぶ日向の向こう側を見て、オレも目を丸くした
「影山!お前傘持ってんのか!?」
「持ってねぇよ!さっきまで晴れてただろ」
ふたりで外を睨みつける
小雨どころの話しじゃない、外は大雨だ
『なに見てるの?』
不意に、肩越しに現れた顔と声に
「おわっ!」
日向が叫び声を上げる
そう言うオレも声は出さなかったが、体が跳ねた
『あ、ゴメン!あまりにも2人とも真剣そうに外を見てたから、何かあるのか気になって』
驚かせるつもりはなかったんだよー、と苦笑いする名前に
「ビックリしたぁー…なんで苗字さんここにいんの?」
と、もういつもの様に日向が聞く
『先生に渡す提出物が今日までだったの忘れてて…机の中漁ったりして探してたら、こんな時間になっちゃった』
テヘッと笑い
『それで帰ろうと思ったら、まだ灯りが点いてるのに気付いて、ここに来たの』
そう口にしながら外に目を向ける
『雨スゴいねぇ、ふたりとも傘持ってるの?』
「そうだった!今影山とその話してて、苗字さんも傘持ってねぇの?オレ、今日カッパも持ってくんの忘れたぁ!」
日向のセリフに名前はニヤッと笑って
『貸してあげようか?』
と、おもむろに手に持っていたモノを出してきた
「あっ!傘!しかも2本もあるっ!」
日向は興奮するように飛び跳ねて
「いいのか!?貸してくれ!」
両手を差し出した
『うん、いいよ』
日向の様子に笑いを堪えるような表情で、傘を渡す名前
「あざっす!ん…?でも2つしかねぇから、ひとつは苗字さんが使って……」
と指をゆっくりオレに差しながら、黒い笑顔を浮かべる
「残念だなぁ、影山!こう言うのは早いモン勝ちだから、お前は濡れて帰る覚悟決めろ」
「あ"っ?テメェが走って帰ればいいだろ!」
「何言ってんだよ、濡れて帰って風邪引いたらどうすんだよ!」
「それを言うならオレも同じだろーがっ!ボゲェ!つーか、バカは風邪引かねぇから、そのまま帰れっ!」
「なぁにぃー!!」
『ちょ、ちょっと!』
胸ぐらを掴んで罵声を浴びせ合うオレたちに、少し怒ったように名前は止めに入る
『あのねぇ、いつも君たちは…』
ハァ、とため息をついて首を振る
『ひとつは日向くんに貸す。そしてもう一本は…』
オレの方を振り向いて
『影山くん、一緒に帰ろ』
と首を少し傾げた
「えっ」
突然の申し出にオレは身体をビクッと揺らす
『だって日向くん、家反対方向でしょ?影山くんは確か同じ方角だったから』
あー、なるほど
そうしたら傘2本で足りるのか
「えー!苗字さん…影山と帰って大丈夫?」
何故か訝しげな顔でコッチを見る日向に
『なに疑ってるの、大丈夫だよ、ちゃんと送ってもらうから』
ふふ、と名前は笑いかける
『よし、じゃあ片付けして帰ろ』
名前は落ちているボールを拾い集めだした
『じゃあね、日向くん気をつけて』
「あざっす!苗字さんこそ影山には気をつけて!」
「うっせぇ日向ボゲェ!さっさと帰れ!」
くるっと背を向けた日向は、じゃーなっ!と手を振り走って雨の中に消えて行った
自転車は置いて帰るらしい
『相変わらず元気だね、日向くん』
その後ろ姿を見て名前は呟いた
『じゃ、私たちも帰ろっか』
オレを見て、傘を広げる
「あざっス」
『はい、影山くんの方が背が高いから持って』
「うっす」
渡された傘を持ち、歩き出した
トボトボと歩いて
他愛のない話しを繰り返しながら
帰り道を歩く
と言っても、話しかけるのは主に名前で
オレはまるで興味のない話に
ただ相づちを打っていた
『ねぇ、影山くん』
「なんスか」
『影山くんって、全く私に興味ないよね』
「そうっスね」
……ん?
今…なんつった?
『プフっ……』
不思議な声が聞こえて、名前の方を見る
『しょ、正直過ぎるでしょ、影山くんっ』
口許を押さえながら、何かを耐えている
「あ、いや…その、」
無意識とは言え、さすがに失礼過ぎたか?
『いやぁ、つまんなそうに返事してるなぁとは思ったけど、そこまでとは……』
涙を拭うしぐさをして、顔を上げたけど
堪えきれなかったのか、突然笑い出した
何がそんなに面白いんだ?
さすがにひとり楽しそうに笑っている彼女に、少し引いた
すると、そんなオレの視線に気付いたのか、ゴメンゴメン、と言いながら、オレを見上げて
『でもセッターとしてはイタダケナイんじゃない、その態度は』
と口許は笑っているが、真剣な目でオレに言ってくる
その目に
少し ドキッとした
「…どう言うことっスか」
『だってセッターって司令塔なんでしょ?もっと皆んなに興味持って、色んな事知っておかないと…支配者にはなれないよっ!…て菅原さんが言ってましたよ』
悪戯な笑みを浮かべながら、横目でオレを見る名前は楽しげだ
菅原さんの名前が出て、オレは口を噤む
菅原さんがそう言ってたなら、そう言うもんなのだろう
よくわかんねぇけど
思案するオレをよそに、じゃあ…と彼女はまた面白そうに口を開く
『練習として、私のことも興味もってみてよ』
「え"っ、」
『あ、今めんどくせぇっ、て思ったでしょ』
図星だ
『誰が傘貸してあげたんだっけなぁ〜?』
名前がスゲェ悪そうな顔をしている
「……よ、よろしく、お願いします」
歯向かえそうにないオレは少し頭を下げた
『なら最初に、私のフルネーム知ってる?』
「苗字、さん」
『うん、下の名前は?』
知らねぇ
『…知らないよね、やっぱり』
コクっと頷いて
つーか知ったところで、なんの…『得があるのかわからないよね』
「ーー〜っ!」
心を読まれたオレは驚いたまま名前の顔を見返した
彼女は目が合うとニコッと笑って
『そうだよね、影山くんには得なんてないね』
ゴメンね、こんな遊びに付き合わせちゃって、と今度は苦笑いしながら首を傾げる
『むしろ、得なのは私の方かー…少しでも自分のこと覚えてもらおうと思ったんだけど』
そう言って前を見据える
そこから 彼女は少し黙った
雨粒が傘に跳ねる音で、周りが支配されて
……なんで、イキナリ黙ったんだ
オレ、なんか悪いこと言ったか?
いや、そもそも苗字のこと興味ねぇなんて返したから、こうなって…
そうだ!名前っ、苗字の名前…、確か清水先輩が……
何故か、必死に名前の名前を思い出そうとしていたオレに
『……雨の日ってさ、』
雨音で聞こえるか聞こえないか、分からないぐらいの声量で、名前が口を開いた
「えっ」
思わず聞き返し、顔を見る
『雨の日ってさ、なんだか__になっちゃうんだ私…』
やはり、先ほどとは違う、少し弱々しい声で名前は言う
その声は聞き取りにくく、肝心な所が聞き取れない
表情も上からだとわからなかったオレは、腰を屈めて顔を寄せた
そこには今まで見た事のない、とても不安そうな顔をした名前がいて
不謹慎なのは分かっている
でもその憂いを帯びた横顔はスゲェ綺麗で…
思わず凝視してしまう
『だから…今日みたいな日に影山くんと一緒に帰れて…』
良かった、と曇っていた顔を僅かな笑顔に変えて
ゆっくり顔を上げた名前と
鼻先が触れる距離で視線が合い
「……っ!」
そのままオレの身体は後ろに飛び退いた
「あっ」
驚いた様にオレを見る名前に、どうしたらいいのか、分からず
「あ、そのっ…!」
視線を泳がして、グッと傘を握りしめた
今のっ、鼻当たったのか…?
つかこんな近ぇ距離で、女子の顔見たの初めてだ……
なんかワケ分かんねぇーけど…
…スゲェ良い匂いがした
そんな事を思っていると
パシャっと足音を立てて、真っ直ぐな瞳で名前が側に寄ってくる
その瞳に吸い込まれそうで
また身体が反射的に、後ろへ逃げようとした
けど
『待って、』
名前の細い指が、傘を持つ逃げ腰のオレの手に重なる
その柔らかい感触に身体がビクッと跳ねて、固まった
な、なんだっ…
なんでそんな寄ってくんだよっ…!
つーか、なんでこんなに動悸がすんだっ!
自分の心臓の動きを噛み殺す勢いでギリっと歯を食いしばり、上目遣いの彼女の顔を見下ろした
すると名前は雨に濡れた髪を耳にかけ……
あ…?
雨に…濡れた……?
『……影山くんっ、ビックリしたのは仕方ないとして…』
オレの手を握るその手に、力が籠る
『傘持ったまま、逃げないでよっ!』
キッとオレを睨んできた彼女の身体は、いつの間にか、びしょ濡れで
そうか、オレ……傘、持ってたんだった
「あっ……ス、スンマセンでしたっ!」
勢いよく頭を下げると、ガツッと傘に何かが当たった
あっ
またヤバい雰囲気を感じつつ、恐る恐る頭を上げると
傘の骨組みに名前が刺さっている
「ーー!?」
バッと傘を上げ
「だ、大丈夫かっ!?」
慌てて顔を覗き込む
名前は 無表情のまま
ニコッと口だけで笑った
その顔に
何故か背筋が ゾクっとして
「…わ、悪ぃ…マジで」
口の端が引きつるのを感じながら、謝った
めちゃくちゃ怒られて、そのまま傘も奪われて、ひとり帰って行くのだろうと、思っていたけど
名前は
『プフっ・・』
また不思議な笑い声を上げて
お腹を抱えて笑い出した
呆然とするオレに
『あー、ホント面白いね影山くん』
と、雨なのか涙なのかわからない雫を拭った
そしてオレをまっすぐに見る
『これで私のこと、少しでも興味持ってくれた?』
濡れた髪と濡れた瞳で微笑む彼女に
感じた事のない気持ちが
胸の奥で 騒つく
『濡れちゃったし、早く帰ろ』
名前に促され、動揺を隠せないオレはバツが悪そうに彼女の隣りに並んで歩き出した
『じゃあ影山くん、また明日ね』
傘はいつでもいいから、と玄関前で言う名前
「……あざっス」
『気をつけてね』
手を振る彼女を見て、ペコッと頭を下げて帰ろうかと思ったけど
一歩進んだ所で足を止め、振り返った
『どうしたの?何かあった?』
突然振り返ったオレに不思議そうにしている
オレもどう言っていいのか、しばらく考えていたけど
結局めんどくさくなって
息を吸い込んだ
「苗字、さん!」
『え、あっハイ!』
オレの声にビックリした様に返事をする名前
もう一度、息を吸って
「な、名前…」
『え、なに?』
「…名前っ!なんつーんスか!」
感情のまま叫ぶ様に聞いた
得なんてない、さっきはそう言ったけど
今は
知りたくて
覚えておきたくて
こんな感情初めてだ
名前は大きな瞳を瞬かせて
困ったように 嬉しそうに
笑った
『明日っ、学校で教えてあげる!』
その応えに
「うっす!」
また頭を下げて、走り出した
明日は何時に行こう
朝練は7時から
5時起きで早めに
苗字は……いつも何時に来てるっけ?
苗字はどんな顔で笑うっけ?
彼女の色々なことが、気になって
雨で足下が濡れるのも気にせず走った
早く明日が来るように
でも結局、次の日に名前を教えてもらう事は出来なかった
名前が熱を出して休んだからだ
……たぶん、オレが原因だ
アイツの傘を奪って、雨に濡れさせてしまった自分が悪い
数日後、学校に登校してきた名前に無事にその名を教えてもらったけど
名前以外にも、知りたい事が沢山出てきて
それが好きだっ、て言う感情なのだと
わかったのはまだ後の話だ
「影山ー!後もうちょっとで練習再開するぞー!」
先輩の声に振り向いた
他の奴らもバラバラと集まり出している
もう一度、窓の外を見た
さっきよりも更に黒い雲が空を覆い尽くして
少しだけ、遠くの方で雷の音がする
……やっぱ、放っておけねぇよな
「すんませんっ!」
先輩に駆け寄り、頭を直角に下げた
「オレ、どうしても行かなきゃいけない所があって…明日っまた死ぬ気で練習するんで、今日は帰らせてもらってもイイっスか?」
顔を上げた先の先輩は、少し驚いたように口を開け、「お、おう、わかった。帰っていいぞ」と片手を挙げた
「あざっス!」
再びお辞儀をすると、素早く振り返りダッシュで更衣室まで走った
また…ひとりであんな顔、してんじゃねーぞっ!
着替え終わったオレは、そのままマンションで自分の黒い傘を引ったくって
降り出した雨など気にする事なく
駅まで全速力で走った