シェアハウス・・?始めちゃいました
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
しとしとしと
ザーザーザー
雨が降りしきる
【糸の雨】
改札を出て、駅の出入り口
ただ呆然と
その様子を見ていた
見上げた空は曇天
大粒の涙を零して、泣いている
でもなんでだろ
私は焦ってもいないし
ましてや失敗した、なんてことも思わない
『今日は……ふたりとも帰りは遅いって、言ってたなぁ…』
誰に向けたものでもない独り言を呟いて
『傘…持ってくるわけないやん』
エセ関西弁でツッコむ
だって朝の天気予報晴れやったやん
まぁ、いっか
急いで帰らなくても大丈夫だし
もう少し、小降りになったら走って帰ろ
そう思って
壁に寄りかかって、空から急に現れる雨粒を眺めていた
ゆっくりと時間が過ぎてゆく感覚
どのぐらいの時が経ったんだろう
ぼーっと
からっぽの頭
ーーおい
雨音が心地よく響く
「名前」
名前を呼ばれて、無意識に声の方へ
ゆっくりと顔を向けた
「……うす」
『…影、山…くん?』
目の前の居るはずのない、彼の姿に
思考を停止していた頭が、次第にクリアになって
驚きを隠せず、彼に駆け寄った
『ど、どうしたの?何でここに居るの?今日は遅くなるって…』
矢継ぎ早に言葉を発する私に
「迎えに来た」
と持っていた傘を持ち上げる
「突然降り出したから、持ってねぇと思って」
今の雨音の様に、落ち着いた静かな雰囲気で
彼は淡々と言う
『そ、そんな…バレーの練習は?今日遅くまでするって言ってたよ?』
影山くんの大好きなバレーを差し置いて、そんなの…
「心配すんな、そんなヤワじゃねーし。明日、今日の分も練習すりゃいいだけだ」
それよりも…、と私の頭に手を置いて
「お前の方が心配だった」
優しく髪を撫でられ、目を細めた彼に見つめられる
胸の奥が熱い
雨の冷気で冷えた身体が
影山くんに触れられている所から
温もりが全身に広がっていくようで・・・
その時に気がついた
私、不安だったんだ
泣いている空を見て
よく分からない哀しみと不安心が
心を掻き乱して
すぐにでも
ふたりに会いたいのに
会えない事実に
バカだな わたし
ずっと会えないワケじゃないのに…
『ありがとう、影山くん』
彼に心配かけないよう、精一杯の笑顔で応えた
「…ん、帰るぞ」
『うん、帰ろ』
私を促すように、踵を返そうとする影山くんの手元をもう一度見て
『あれ?』
と声を上げた
「どした?」
『影山くん、傘…ひとつ?』
影山くんが持っている傘は、黒い物ひとつしか見当たらない
「あ?ひとつじゃ足んねぇのか?」
ふたつもいらねぇだろ、と不思議そうに聞いてくる影山くんに
固まったまま、瞼をパチパチさせ瞬きした
ホント、そう言うところ…
くすぐったいその感情に、思わず笑いがこみ上げてきて
クスクスと笑ってしまった
「…なんだよ」
私とは正反対の面白くなさそうな影山くんに
笑いながら、ひと呼吸して
『ホント、そう言う影山くんらしいところ、私スキだなぁ』
と勝手に出た言葉に
ハッとした
私、なんでっ……!
軽々しくスキとか言うの、失礼だ
焦って、バッと影山くんの顔を見上げた
彼は少し驚いたように、目を見開いていて
でも次の瞬間
ふわっと笑った
見たことのない影山くんの優しい笑顔に
時が停まったように感じる
「オレも、お前のその顔、スッゲェ好き」
嬉しそうに続けて言われたセリフに
心臓が脈打つ
これって たぶん あれだ
スゴく 愛おしい
って感情
影山くんは私にとって
もう特別なひとなんだ
「おっ、ちょっと雨が弱くなってっから、今のうちに帰るぞ」
バサッと傘を広げて、私を入れてくれる
私は少し火照る顔を隠しながら、そっと寄り添って、歩き出した
「なぁ、名前」
マンションまであともうちょっと
影山くんが話しかけてくれた
『なに?』
私が濡れないように、傘を傾けて
自分の肩が濡れている
さっきそれを指摘したら
これでいい、と聞いてはくれない
「無理、すんなよ」
コッチを見ずに、ただ前を見据えてそう呟く
『…影山くんの方こそ、無理…してない?』
バレーを途中で中断して、迎えに来てくれて、雨に濡れて…
私……重荷に、なってない…?
「オレは…その無理っつーのが良くわかんねぇ。オレはただ、自分のしたい事してるだけだ」
前を見つめる横顔をジッと見上げた
「我慢もしてねぇし、…つーかそんなもん、ハナからしねぇし」
チラッと私と視線を合わせて
また前を見た
影山くん、気遣ってくれてる…?
心配…してくれてるんだね
自分の事、後回しにして
でも影山くんらしいその言葉に本音も混じってる
優しいな…
『……影山くん』
「ん?」
『今日、迎えに来てくれて…』
そっと、傘を持つ影山くんの横から顔をだして
『本当に嬉しかったよ、ありがとう』
その笑顔で その眼差しで
私の心を晴れやかにしてくれた影山くんに
精一杯の笑顔と心からの感謝を伝えた
そんな私を優しい瞳で見つめてくる影山くんは
足を止めて
そのまま、ゆっくり距離を詰めると
包み込むように 抱きしめられた
ーーしとしとしと
ザーザーザー……
温もりに包まれた私は
驚きを隠せず
彼の肩越しに見える雨粒を見ながら
さっきのように
思考を停止した
「……スキだ」
どくんっ
耳元で
少し苦しそうに呟いた声に
心臓が跳ねる音がする
何か言おうと口を開きかけたけど
その前に彼の身体が離れた
「帰るぞ」
何事もなかったかのように
また歩き始める影山くんに
少し早歩きで横に並ぶ
あ…、心臓が暴れてる
彼に悟られない様にギュッと胸許を掴んだ
影山くんのストレートなスキが
突き刺さって
くるしくて 暖かくて……
マンションが見えきた
入り口まであと数歩
その時、中から人影が勢いよく飛び出してきた
『月島くんっ』
腕時計を見ながら傘をさそうとしていた月島くんは、私の声に振り向いた
「名前?…と影山」
月島くんの待つ入り口まで着くと、私は傘から出て、影山くんにお礼を言った
『どうしたの月島くん、なんか急いでたみたいだけど…』
そこまで言って気がついた
月島くんも今日は帰りが遅いはず
なんで私たちより先にここに居るんだろ
『月島くんも今日は用事があって遅い、って言ってなかったっけ?』
忘れ物?
そんな事を考えてたら
「傘、持ってなかったデショ?」
『えっ』
「これから迎えに行こうとしてたんだケド」
チラッと影山くんを見る
「先、越されちゃったみたいだね」
彼もまた影山くんと同じ様に、手に持っている傘を持ち上げて
憮然とした表情をした
ウソ……
月島くんも…?
『な、なんで月島くんまでっ…!そんな雨が降ったぐらいで、私なんか…』
「名前、だからデショ」
『え……』
「キミが雨に濡れて帰って、誰も居ない部屋にひとり寂しく居るなんて…」
そんなこと、させたくないデショ
と肩を竦める
なに、それ…
なんでそんなに ふたりとも
優しいの
目頭が 熱くなる
「そんなに僕に会えて嬉しい?」
俯いた私の頭にポンッと手を乗せる
「ちげぇだろ、オレが迎えに来たのが嬉しかったんだよ」
月島くんの言葉に、影山くんが頭に乗せた手を振り払う
「少しだけ早く帰れたからって、調子に乗らないでくれる」
「少しじゃねぇし、お前の足が遅いのが悪ィんだよ」
「体力バカのキミと一緒だと思わないでよ」
「高校の時と変わらねぇな、バテ島」
「…そう言うところ変わらないよね、王様」
『プフっ…』
口から漏れた笑い声に
ふたりが振り向く
『…その呼び方、懐かしいね』
目尻から少しだけ溢れた涙を拭って
顔を上げた
「やっと笑った」
私の顔を見て安心したように笑う月島くん
「お前はやっぱその顔が似合うな」
影山くんも少しハニカんで、そう言ってくれた
『ありがとう…本当に』
陽だまりのような ふたりの存在
『ふたりのキモチ、本当に嬉しい…』
そう言って笑った瞬間
雲間から光が差して
いつの間にか、雨が止んでいた
次々と差し込む光に
雨粒がキラキラ光って
『……キレイ』
思わず呟いていた
雨の日の憂鬱は
この日の為にあったんだと思う
ずっと私の中で溢れていた、空からの冷たい涙は
ふたりの温もりによって、暖かいものに変わって
私の不安や色んな負の感情を消し去ってくれた
そして雨上がりの様な清々しさを
私に与えてくれるんだ