シェアハウス・・?始めちゃいました
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『ただいま…』
そっとドアを開け、中に入ると玄関で佇んだ
中は真っ暗だ
物音もしない
おかえりって…出迎えてくれる人も もちろんいない
ホントに、誰も居ないんだな…
いつもと同じはずなのに、いつもと違う雰囲気の部屋が冷たく私を迎えてくれた
【憂い隠し、ひとり静かにキミ想う】
『遠征?』
ロールキャベツを飲み込んで聞き返した私に、影山くんは頷いた
『いつから?』
「今週の土曜から1ヶ月」
影山くん用に大きいサイズのロールキャベツを4つも作っていたが、彼はその最後のロールキャベツに箸を入れながら、応えた
そっか、プロのバレー選手なんだからそう言う事も普通にあるんだ
『影山くん、大変だね』
「何がだ?」
『一緒に住む前にも遠征で何処か行くっていってたし、色々な所行かなくちゃいけないの、大変だなって』
「…別にバレーが出来るなら、何処でもいい」
ぶっきらぼうに言う影山くんに彼らしいなと、思ったのと同時に、なんだか……寂しい
「なら、その間僕は実家に帰ってるよ」
『へ、えっ!?』
月島くんの思いもよらぬ突然のセリフに素っ頓狂な声が出てしまった
え、帰るって…な、なんで…!
固まったままの私に、月島くんはまだ半分以上残っているロールキャベツを少し摘んで頬張った
「月島…お前…」
「なに?気持ち悪いから、礼ならいらないよ」
「お前……、そのままずっと帰ってていいぞ」
「は?」
「オレが帰って来ても、別にお前は実家に居ればいいじゃねーか」
何故か勝ち誇った様な顔をしている影山くんに、月島くんはあからさまにイラッとした顔をして
「……前言撤回。そこはまず、感謝ぐらいする所じゃないの」
「礼はいらねぇっつったの、お前だろ」
「だから前言撤回って言ったじゃん」
お茶を飲み干した月島くんは影山くんに黒い笑顔を向けた
「あ、そう。なら僕は名前と仲良くしてるよ、“二人っきり”で」
月島くんの挑発に影山くんが顔を歪める
そんな2人を見ながら、私は月島くんの言葉に衝撃を受けたまま口を半開きにしていた
『な、なんで?月島くんまで家に帰るの?』
立ち上がり両手をテーブルにつきながら、月島くんに詰め寄る。そんな私の圧に、2人は目を見開きながらこちらを見た
一瞬の間の後月島くんが、フっと息を吐いて目を細める
「……フェアじゃないデショ」
視線を逸らし瞳を閉じながら出た言葉は、まるで仕方の無い事だと、自分に言い聞かせているかの様
『それって…つまり』
「僕だけ、1カ月も名前と二人っきりって言うのは、やっぱり違う気がするからね」
月島くん…影山くんの事、気遣ってるんだ……
普段は影山くんに厳しいのに、こう言うケジメみたいな所はホント真面目なんだから……
「まぁ、要らぬお節介みたいだけど」
ため息混じりにそう呟く月島くんに影山くんは
そんな事より、とご飯を掬おうとしていた箸を止め、私の顔を見据えたまま口を曲げた
あ、コレは何かに納得していないか、残念な事があった時の影山くんの表情だ
「…名前は大丈夫なのか?」
『えっ』
「オレが1ヶ月も家に居ねぇの」
ジッと心を探る様に、私の顔を見つめる彼に返事を迷っていると
「大丈夫に決まってるデショ」
呆れたように言った後、ご飯を口に入れる月島くん
「一緒に住み出してから、こんな長いこと離れるの初めてだろ。……寂しいか?」
いつもの様に月島くんを躱して、私に聞いてくる影山くんに、そう言えば……と思い返してみた
休みの日が中々合わない日が続いて、すれ違うことは今まで何度もあった
けど、ご飯はなるべく一緒に食べてたし、1日の中で顔を見なかったことはホントに数回ぐらいしかない
私、本当にふたりとずっと一緒に居たんだなぁ…
ぼんやりと、色々な事を思い返して
唇が勝手に動いた
『……うん、寂しいよね』
何日も会えなくなるのは、やっぱり寂しい
「…そっか、悪ぃな名前」
申し訳無さそうに呟いた影山くんに、ハッとして視線を戻した
『あ、いや…ゴメン、違うのっ』
何でこんな返事をしたんだろう、これじゃ影山くんの事を責めているみたいだ
『影山くん、ゴメンね。寂しいのはホントだけど、決して行って欲しくないとか、影山くんを悪く言ってるわけじゃないから」
えっと、えっと…と言い訳みたいな事を慌てて言ってみたけど、結局は
『気をつけて、行ってきてね』
そう言って笑うしかなかった
「…ナニその今生の別れみたいな雰囲気」
いつの間にか空になったお茶碗を置いた月島くんが、私たちの会話に横目で何やってんだか、とでも言いたげな視線を投げてくる
「たった1か月デショ。そんなの、影山に数学の問題解かせるより早いよ」
「あ?何言ってんだ、お前にスタミナつけさせるよりは早ぇーよ」
バチバチバチと音が出そうな視線を飛ばしながら、お互いを睨むふたり
また始まった、と息が漏れ困った様に笑ってしまう
この言い合いも、暫くは聞けないんだなぁ…
ずっと一緒に居て、ふたりのやり取りに慣れてしまった私はそんな事を思った
そしてそう思うと余計に今のこの時が、尊く感じる
でも…ふたりには2人の生きる道があるんだから、邪魔だけは、してはいけない
『……影山くん、もっとバレー強くなって、それから元気で帰ってきてね』
今度は心から彼に見送りの言葉を伝えた
「…おう」
彼もハニカんで応えてくれる
きっと、影山くんはもっともっと強くなる
私も…もっと強くならなくちゃ…
月島くんも居なくなって、頼れる人はいない。本当に親許を離れてから初めてのひとり暮らし…自分も月島くんの様に大人にならないと‥‥
寂しがってる場合じゃない
ふたりが帰って来た時に、ちゃんとこの家を守って、おかえりって出迎えてあげなきゃ
そう決意して、残りのご飯を口に入れようとしていた時
御馳走様、とご飯を食べ終えた月島くんが箸を揃えた
あれ?さっきまで残ってたロールキャベツ、全部食べてる
『月島くん、あんまりロールキャベツ好きじゃなかった?』
「なんで?」
『最後まで残ってたみたいだったから…苦手だったかなって』
「……見てたの?」
月島くんが珍しく慌てた顔をしている
「……すぐ食べたら勿体ないデショ、折角好きなロールキャベツ……名前が作ってくれたんだし」
彼の耳が赤く染まるのを見ながら、私も何も言えず照れてしまった
***
それから早くも、土曜日を迎えた朝
『影山くん、忘れ物ない?』
「うっす」
『月島くんも、ご両親によろしくね』
「うん」
じゃあ…、と2人の顔を交互に見て
『気をつけて、いってらっしゃい!』
と笑えば
「おう!」
「行ってきます」
2人とも元気に笑って返事を返してくれた
次に会えるのは、1カ月後
それまで本当の一人暮らし…
不安だけど、頑張って乗り切ってみせる
………………はず
んー……でもやっぱり不安だ