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……考え緩すぎデショ
そんな事を考えた自分にハッとする
まさか僕がこんなことを思うなんて…
【続。昨日のケーキは幸せで甘くなる】
その日はレポートの提出期限が迫っていた為、遅くまで大学に残り、図書室でひとり資料を漁っていた
そこに男女のグループが数人で入ってきて
騒がしいソイツらは勉強とは名ばかりの態度
今度遊びに行こうやら、恋愛話やら
ホント、くだらない
他所でやってよね…
そんなことを思っていると
今度はバイトの話しをし始めた
聞きたくもないのに、その大きな声が勝手に耳に入ってくる
この前ギリギリの人数だったのに、更にひとり熱か何かで休む事になって、ホント迷惑
どんだけ忙しかったと思ってんだろうね、マジないわぁー
そう言って口々に愚痴を言い合い、賛同を集めて盛り上がるグループに
ふと、名前の顔が浮かんだ
彼女はこの連中とは正反対の人間だ
あの時も……
清水先輩が卒業して、谷地さんと2人になったマネージャー
そしてその谷地さんが酷い夏風邪で来れなくなった時だった
「谷地さん大丈夫かなぁ…」
心配そうに山口が言う横で日向も難しい顔をしている
「……よしっ!やっぱ元気付けにお見舞いに行っ「行けるわけないデショ、バカなの?」
嫌な予感は的中した
日向の声に被せるように言い放つと、ガーンッ!とでも言いたげに白目をむいている
『日向くん、大丈夫だよ。さっきやっちゃんにメールしたら病院で薬もらったから、その内熱は下がるって』
やっちゃんのこと、心配なんだよね!と笑う名前は両手にとてつもない量の荷物を持っている
「苗字さん、スゴい荷物じゃん持つよ」
『このぐらい大丈夫!ありがとう山口くん』
そう言って立ち去る彼女だったケド、その足取りは左右によろめいていた
素直に持って貰えばいいのに…
フラフラする後ろ姿を眺め、僕は踵を返して練習へ向かう
その後の彼女は更に酷かった
2人でしていた仕事を、一人でしなくてはならなくなった名前は、誰の目にも分かるぐらい、あちこちに走り回って
休んでいる谷地さんの穴を埋めるかの様に、過剰と言える程、無駄に動き回っていた
まるで僕たちと一緒に練習していたと思えるくらい、いつも汗だくだった
でも疲れた様子なんて微塵も感じさせない
だって彼女はいつも
笑顔で 元気で 強くて…
誰に対しても明るく振る舞っていたから
だから…誰も気付かなかったんだ
彼女の限界を……
唯ひとりを除いて
***
谷地さんがやっと戻って来れる日の前日
その話しをキャプテンから聞いて、名前がほっと息を吐き出しているのが見えた
ほっとするぐらいなら、そんなに気張んなきゃイイのに…
何故だろう、ここ最近の彼女の行動と言動に少しモヤモヤする
そして止めれば良いのに、そんな彼女を盗み見て余計に落ち着かなくなった
自分の心と行動が一致しない矛盾に
それが何故なのか
その時の自分にはまだ分からなかった
その日は学校は休みで昼までの練習だった
部活を終えた僕はさっさと体育館を後にする
山口はもう少しだけ練習をすると言っていたから、先に帰路へ着いた
『月島くんっ!!』
もう家の真ん前
そこで呼び止められた僕は、突然響いたその声量に肩がビクッと跳ねたまま、後ろを振り返った
声の主は荒い呼吸を繰り返しながら、項垂れている
そして額の汗を拭いながら顔を上げた
「苗字…さん?」
『月島くん、やっと…追いついたぁ…』
「は?…いや、追い付いたって言うか…もう家の前『はい!』
家の前なんだけど、と言いたかった僕の言葉を遮って、名前は黒い物を出してきた
『忘れ物!』
えっ、忘れ物って……コレっ…
彼女が出して来た物は僕のスポーツグラスだった
「……コレ、届ける為にわざわざここまで追いかけて来たの?」
『だって月島くん、コレお兄さんから貰った物で大切な物なんでしょ?だから渡さなきゃと思って持って来たの』
未だ肩で息をしている名前はニコッと笑った
……いや、普通にありえないデショ
どうせ、明日も部活あるのに
マネージャーが、そこまでする必要があるワケ…?
「…ありがとう」
口が滑りそうになったのを耐えてお礼を述べる
『良かった、月島くんそれ肌身離さず、いつも持ってたから大変だっ!…って』
気付いたら走って追いかけて来ちゃった、と苦笑いをする
取り繕うような笑みに、僕が心の中で毒づいていたのが彼女に伝わった様な気がして…
少しバツが悪い
それにあんなにキラキラしていた彼女の笑顔
それが明らかにやつれて見えて……とても痛々しく映り思わず視線を逸らした
名前はそんな僕に何かを察したのか『それじゃお疲れ様!』と早口に言うと身体を反転させた
瞬間
彼女の身体がふらりと傾いて
スローモーションの様に崩れて行く
「苗字さんっ!」
咄嗟に出た僕の身体は間一髪の所で彼女の身体を支えた
瞼を閉じたまま浅い呼吸をする名前の顔を覗き込む
「苗字さん?大丈夫…?」
『……ず…』
「え、何?」
『み、水……下さい』
**×
「……ぶっ倒れるまで水分とってないとか、ホント呆れる」
『だね…。ホントに……面目、ない…です』
彼女は熱中症になりかけだった
聞けばマネージャーの仕事に集中し過ぎて、ろくに水分も摂ってなかったらしい
「有り得ないデショ…」
取り敢えず僕の部屋のベッドで横になっている名前を見て呟く
…親が居ない時で良かった
先程持って来た氷枕を首の下に差し込んでみたが、真っ赤な顔をしている名前はまだ身体の中の熱は下がっていないのだろう
しんどそうにしている
……もっと賢い人だと思ってた
部活ではそれなりにテキパキ動いていたし
何かをミスする事も……そこまで無かった様に感じる
だからそんな彼女が、自分の事を疎かにしてまで
こんな体力勝負みたいな無茶な真似にでるなんて……
「…キミ、意外と影山や日向タイプなんだね」
家にあったスポドリを手に持ち、ベッド脇に近づく
名前は僕の言葉に反応して、額と瞼を覆っていた冷たいタオルを指先で摘んで持ち上げると、僕を見て、エヘヘ…と力無く笑った
その笑みに、胸の奥が痛むのを感じてグッと顔を歪める
なんで僕が悪いみたいに感じるわけ…?
どう考えても、彼女が勝手に自滅しただけだし…
なのにこのどうしようもない罪悪感は…何なんだ…?
それは最近ずっと感じていたような気がする
名前がひとり頑張っている姿を見る度に
僕のグラス片手に、此処まで走って来た彼女の微笑みが
胸の奥を締め付ける
「……ねぇ、なんでそんなに必死なの?」
『え…』
「谷地さんが休む事になって、責任感なのか何なのか分かんないケド、ひとりでバタバタし過ぎデショ」
側で胡座をかいて座る
キョトンとした顔で僕を見る名前は、気まずそうに頬を掻いた
『…そんなに私、バタバタしてた?』
「…そうだね、カラ回るぐらいには」
吐き捨てる様に言った言葉に、両眼を見開いて、動きを止めた彼女を見下ろす
どうしてこんなにも彼女に対して、辛辣な言葉を吐くのか
自分でも戸惑う
だけど、気付けば溢れ出したキモチが止まることは無くて
「そもそもキミ、今日だけじゃなくいつも自分の休憩もロクに取らずにずっと動いてたデショ、…目障りなぐらい」
ああ、
イライラする
「折角、山口とかが手を貸そうとしたのも断って、全て自分で片付けようとしてたしね。人の善意を踏みにじった挙句…こんなトコまで走って追い掛けて来て、人ん家の前で倒れるなんて……バカデショ、キミも」
このイライラは
苗字に対して…?
それとも……
すぅ、と息を吸って、ため息混じりに最後のセリフを吐き出す
「ホント…キミがこんなに呆れた人だとは思わなかった」
全て吐き尽くした僕は、当然名前の顔を見ることなんて出来る筈も無く
足元に置いてあったボールを意味もなく見つめた
外のセミがうるさいくらいに鳴いて、部屋に沈黙が流れる
苗字はどんな顔をしているだろうか
泣いているだろうか……
こんなにも容赦ない言葉を浴びせられて、心が折れてしまっただろうか
余りに酷い、数々の言動に僕自身が一番引いていた
苗字に対して偉そうに言えないのも、…僕が一番分かっている
でも止まらなかったんだ
どうしても……
言わずにはいられなかった
『……私はね』
沈黙を破って、か細く出された声に、ゆっくりと顔を上げる
『私は…清水先輩みたいにしっかりしてて要領が良いわけじゃないし、やっちゃんみたいに頭良くて癒しキャラでもない…』
天井をジッと見つめながら、ポツリポツリと言葉を紡ぐ名前
『2人の様には出来ないって分かってるから…だったらそれを補う為に私に出来る事って言ったら、周りやみんなを常に見て、人より二倍も三倍も動いて気配り上手にならないと……私のマネージャーとしての存在価値、あって無い様なモノだから…』
だからね、とまだ赤い顔をコチラに向け僕を見つめる
『必死過ぎて目障りなのはゴメン、でも…コレが私のやり方、そして……戦い方』
彼女の瞳には揺るぎない覚悟の様な強さが、灯っていて
思わず、身を引く程に圧倒された
見透かされそうな澄んだ瞳は遮りたくなる程、眩しい
その眩しさに……心臓の鼓動が速くなる
でも次の瞬間には、その表情が緩んで
慣れ親しんだ優しい笑みで僕を見る
『でもそれで倒れてたら、やっぱりダメだよね。ホント面目ないっす』
ヘラヘラと苦笑いをする名前のそのギャップに、落ち着かない心臓を悟られない内に、また視線を逸らした
***
「名前ちゃん、ホントにごめんねっ!」
『気にしないで、やっちゃんが良くなって本当に良かった』
次の日には名前も谷地さんも2人揃って部活に来ていた
皆で女子ふたりを囲んで、口々に見舞いの言葉を投げかけている
僕だけそっと、その場から離れた
昨日の事があってから、名前とどんな顔をして話せば良いのか
分からなかったからだ
ハッキリ言って
後悔しかない
一生懸命、自分なりに頑張っている彼女に向かって、弱っている所を狙い攻撃的な言い方をした自分が
まるでそうやって自分のキモチが嘘であって欲しいとでも言う様な、見え透いた自己防衛に
ホント 反吐が出そうで
イライラが止まらない
休憩時間も誰とも話したく無かった僕は、ひとり離れた場所で腰を降ろした
「えっ!つ、つつ月島くんの家で倒れたの?」
『ハハ、…ホント迷惑だよね』
その声に分かりやすく心臓がドキッとした
そっと、開いている扉の外を覗くと、名前と谷地さんが洗ったゼッケンを干している
「わ、私が風邪なんぞ引いてずっと一人で働かせてしまったばかりに……」
『違う違う、やっちゃんのせいじゃ無いよ。私が要領悪いだけ』
どうやら2人は昨日の話しをしているらしい
コレって多分……僕が吐いたあの話しも出るな
最低な男だと、彼女は谷地さんに零すのだろう
そんなの
聞きたくもない
でも僕の身体は立ち去りたい衝動とは反対に、石の様に動かない
その理由は分かってる
彼女の口から僕を否定する言葉が出れば
そうすれば
このキモチとも、サヨナラ出来るような気がするからだ
『月島くんにね、叱られちゃったよ。無理して人ん家の前で倒れるし、いつもウロウロしてて目障りだ!…って』
「そ、そんなこと月島くんが言ったの?」
『うん、スゴい言われ様だったんだよ、目もこんな吊り上げて』
谷地さんの驚嘆した声がする
そうなんだよ
それが、事実
彼女にありったけの歪な想いを浴びせた
小さい僕の言葉…
身を丸めて、自分の中で必死に否定して、納得しようとするキモチを弄んでいた時
でもね、と名前のあの時の様な落ち着いた声が響いた
『知ってるんだ、月島くんがいつも心配そうに私を見てくれてた事』
優しくそよぐ風の様に、心地良く耳に届いた言葉に
別の意味で全身が固まった
『面と向かってはいつも素っ気ない態度なのに、実はいつも私の事気に掛けてくれてて、それからふと、優しそうな瞳で私を見てくれる……』
私と一緒で不器用なんだけど、本当はとっても優しいんだよね、月島くん
真っ白な頭の中で
彼女の言葉だけが
クルクルと
澄んだ水が染み込む様に
ゆっくりと回転しながら僕の中に入り込んでいく
そして彼女の言葉で鎮まっていた心臓が
一気に暴れ出した
体温が上昇して熱い
多分、今の僕はこの前の名前と同じくらい顔が真っ赤なのだろう
首に掛けていたタオルを頭に掛け、隠す様に顔を覆う
そう、僕は……気づいてしまったんだ
彼女が心配で心配で……堪らなかった事に
人に頼らず、常に自分でなんとかしようとして
そしていつも感じていた罪悪感は
そんな彼女に気付かずに何もしなかった僕に対するモノだと
気付かなかった…?
いや、違う
気付かなかったんじゃない、気付いてたのに
彼女がいつも無理してたのを
知っていた
それでも何も手を貸さなかった自分に
今更凄く腹が立ってくる
イライラしてたのは
自分自身にだ
そして一番肝心な事に、やっと素直に気付く事が出来た
僕は彼女の事が………
「月島くんの事、良く見てるんだね」
谷地さんのセリフに名前は、当然だとでも言う様に、うん!と返事を返す
『そんな素直じゃない月島くんの優しさ……好きなんだ』
***
スマホのバイブが鳴ったのにハッとして、手に取る
メッセージの通知を知らせる画面の名前には名前の文字
“月島くん、お疲れ様!今日は肉じゃがだよっ”
メッセージの下には写真が貼り付けられている
開いてみると何故かどアップの影山
恐らく自分で剥いたのだろう、ガタガタのジャガイモを手に持ち、澄ました顔で写っていた
いや、なんでドヤ顔なの……
このジャガイモは必ず本人に食べてもらおう
“これから帰るよ。王様はジャガイモ剥かずに、そのドヤ顔剥いててよ”
そう返信して時計を見た
いつの間にか、結構な時間が経っている
あの騒がしい連中も居なくなっていて
ふぅ、とため息をついた
明日は確か休みだったな……名前
この前みたいにスムージーでも作ろうか
そしたら彼女はまた、コッチが恥ずかしくなるぐらい喜んで
それから嬉しそうにコップを受け取り
口いっぱいに手作りスムージーを啜って幸せそうな顔をするのだろう
そんな彼女を想像して
思わずフッと笑みが溢れた
さて、と
材料は何がいいかな
立ち上がって素早くスマホを操作しながら、足早に図書室を出る
不器用な彼女がまた電池切れになる前に
僕が気付いて
先回りしないとね