僕と彼女と時々兄
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「蛍ー!たっだいまー!」
いつものテンションで弟の部屋の扉を開けた
案の定、弟は机に向かってなにやら勉強をしていたようで
手を止め、コチラを涼しげな瞳で見返してきた
でもヘッドフォンはいつもの耳にはなく
首にかけている
その様子に弟の気遣いを感じて苦笑いした
俺が帰ってくるの、母さんから聞いてたんだな・・
「・・おかえり」
「おう!なんだ?また勉強か?」
うん、と答える蛍に
「勉強に部活と大変だなぁ、お前も」
そう言いながら棚に置いてあったボールを手に取る
「兄ちゃんこそ、仕事の方は大丈夫なの?」
「大丈夫とは何だ、一応社会人として頑張ってはいる!」
ボールを小脇に抱えて胸を張った
「そっか・・」
そんな俺から視線を落として呟くように漏らす
いつもならもっと厳しい言葉が返ってくるのに
まだそんな気分にはならないか・・
ごめんな 蛍・・
「・・で、名前とはあの後仲直りしたのか?」
俺の言葉に驚いた様に顔を上げる弟
まさか俺からその話題を振ってくるとは、思わなかったのだろう
あの出来事の後、名前から電話があって
何度も電話口で謝られ
事の顛末も聞いていた
だから知ってる
2人が恋人として 続いているってことを・・
意を決したように蛍が口を開く
「・・・名前は耐えきれなくなって、離れようとしたケド、僕はそれを許さなかった」
「・・うん」
「彼女もそれを受け入れてくれて、無事・・仲直りしたよ」
弟は真っ直ぐに俺を見て、反応を確かめている様だった
「良かったなぁ、蛍」
本当に心からの笑顔で
弟の頭をポンポンと撫でた
その手を振り払うことなく、蛍はされるがままに
でも顔は不服そうにしている
「これから大変だな、勉強に部活に、そして彼女かー、身体ひとつじゃ足りないな」
俺の軽口に蛍は何も言わない
色々と俺に対して考えを巡らしているのだろう
そんな思い詰めた顔すんなよ・・
ひとつため息をついて
「・・・彼女のこと、大切にな」
優しく語りかけて 踵を返した
「兄ちゃんっ!」
ガタッとイスから立ち上がる音がして
ゆっくりと振り向く
「・・・兄ちゃん・・・名前のこと、好きなんデショ」
少しだけ、言い淀んで発せられた言葉は
俺の心臓を少しだけ 動かした
でも もう大丈夫
鋭い視線を投げる弟に 怯むことなんて ない
「・・・ああ、好きだったよ」
俺のセリフに蛍はぐっと唇を噛んだ
「じゃあ・・、」
「好き、だったんだけどね、名前の好きは他に向いてるの分かってたし」
ボリボリと後ろ頭を掻いて
「最後の意地悪してやろーと思ってさ」
弟に向き直った
「お前らのこと、傷つけるつもりは無かったんだけど、結果的にそうなった。スマン!蛍」
勢いよく直角に頭を下げて、すぐに顔を上げた
蛍は短くため息をついて
「兄ちゃんにはホント、振り回されたよ」
いつもの様な呆れた顔を向けてくる
そう いつもの蛍だ
「弟は兄に振り回される宿命なんだよ」
「なにそれ」
フッと困ったように笑う弟に
「ほらよっ」
ボールを投げて渡す
両手でそれを受け止めた蛍は
交互にボールと俺を見た
「じゃあな、これから名前と仲良くしていけよ」
格好つけたように笑って
「先、降りるぞー。今日はカレーだって母さん言ってたからな」
お先!と部屋の扉を閉める瞬間
「兄ちゃん!」
弟の声にまた呼び止められ、顔を見ると
少し哀しそうに
「・・・ありがとう」
と 呟いた
それに返事は返さず
俺も蛍と似たような笑みを浮かべ
扉を閉めた
さよなら 俺の初恋
おめでとう 初恋の人
そして幸せになれよ
蛍
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