僕と彼女と時々兄
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彼女の腕を掴んで
僕の方へと引き寄せる
トンっと自分の胸に収まった名前は
驚いて僕を見上げている
その様子を感じながら僕は
兄を
ずっと 一緒に過ごしてきた
尊敬する 自分の兄を
今までにない 黒い感情で
睨みつけた
僕の腕の中で彼女は微動だにしない
恐らく、僕の表情を見て固まっているのだろう
そして兄は
僕と同じように冷たい瞳をこちらに投げかけてきた
「・・さっきの、なに」
静かに放った僕の言葉に
「さっきのって?」
分かってやってるクセに 知らないフリをする
「とぼけないでよ、ワザとデショっ」
「何のことかわかんないけど、蛍は俺に焦ってるってことかな」
「は?」
「さっき言っただろー、“俺は”気をつけるって」
薄く笑いながら
この期に及んで、そんなことを言ってくる
ならさっき、彼女の肩を抱いたのは何なんだ
「・・いい加減にしてよ」
兄の挑発のようなそのセリフに
奥歯が折れるぐらい噛み締めて
抑えられない感情のまま、踏み出そうとした
その時
『蛍くんっ!』
グイッと両手で胸ぐらを掴んで引っ張られ
体勢を崩した僕はそのまま下を向いた
瞬間 唇に柔らかい感触が触れる
一瞬なんのことかわからなかったケド
すぐ近くにある顔と香りに
名前のソレだと 気づいた
とても彼女の力だと思えない程
力強く でも少し震えるその手と唇は
名前の気持ちを表しているかのようで・・
ゆっくりと力が抜けて
彼女も離れていく
突然のことで目を見開く僕とは対照的に
名前は目を伏せて、哀しげな顔をしていた
蛍くん・・と掴んだ手はそのままに、彼女は口を開く
『ゴメンね・・私のせいだ』
吐き捨てるように言う名前に
その言葉の意味を理解出来ない僕は彼女に尋ねる
「なんで、名前が謝るの?悪いのは、」
『違うっ!私が悪いんだよっ・・明光くんは』
悪くない、と呟いて
今度は僕の袖をそっと握った
『蛍くんのね、見たかったんだ・・』
「見たいって・・なにを?」
『蛍くんの色んな顔』
哀しげな表情のまま、彼女は少し笑った
「・・それって、どう言う意味?」
『昔からいつもクールでポーカーフェイスな蛍くんの色んな表情、見たくて・・。好きになって、両想いになってからも、その気持ちが日に日に強くなって・・抑えられなくなっちゃった』
だから、と兄の方を振り返る
『誘ったの、一緒に行こうって。初デートなのに明光くん誘ったら、蛍くんはどんな反応するんだろう・・って』
名前の視線の先の兄ちゃんも、予想外の出来事にただ口を半開きにしている
『・・でも思った以上に悪ふざけしちゃった』
そう零しながらまた僕の方へ向き直った
『久しぶりに蛍くんと明光くん、3人で遊べて舞い上がったのもあると思う・・。でも蛍くんの・・明光くんのキモチも、蔑ろにしてた』
本当にゴメンなさい・・
そう言って 名前は頭を下げた
袖を握る手に ぎゅっと力がこもる
『明光くん・・あなたを利用するようなマネして・・ゴメンなさい』
もう一度振り向き、兄ちゃんにも頭を下げる
『だから・・、2人とも・・』
笑ってよ、と顔をあげ
精一杯の笑顔を してるケド・・
その笑顔は今までに見たことがないくらい、くしゃくしゃで
「・・自分が一番笑ってないクセに、なに言ってんの」
呆れたように吐いたセリフに、名前は言葉を失って僕を見た
今までにないぐらい 明らかに動揺している
空気が少しピンと張り詰めた
「はいはいはいっ!」
それを断ち切るように
パンパンパンっと手を鳴らしながら、兄ちゃんが明るい声で言う
「2人とも何神妙な顔してんの!なんか色々とすれ違いがあるみたいだけど、これはただの、」
兄・弟・喧・嘩っ!と僕たちを指差し腰に手を当てた
その様子に思わず呆気にとられ、何も言えずにいると、だから・・と兄ちゃんは続ける
「だから、名前も悪くないし・・蛍も・・最後の兄弟喧嘩だと思って、許してやってくれよ」
なっ!、そう言って
昔から知ってる、いつもの雰囲気で兄ちゃんは笑った
でも その笑顔は少し 寂しそうに見えて
「でもそうだな・・やっぱこのまま居るのはお邪魔みたいだし、俺はこれで失礼するよ」
じゃっ!仲良くね、おふたりさん
片手をヒラヒラとさせながら、兄ちゃんは去って行く
僕はそれを引き留めようか考えてたケド
兄ちゃんのその想いに
僕の横で小さくなってる彼女と
しっかり向き合わなくちゃな、とどこか冷静な頭で思った