僕と彼女と時々兄
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『ありがとうー蛍くん!』
ペンギンのぬいぐるみを抱いて嬉しそうにする名前に
思わず笑みが溢れた
あの後、ショップに寄って約束のぬいぐるみを買ってあげた
喜ぶ彼女の横で、良かったなー!と前と同じ様に頭をポンポン撫でる兄ちゃんは
僕の言葉を本気にしてないのか
幼なじみに触れることを気にしてないのか
それとも・・
「喜んでくれて良かったな、蛍」
普段と変わらない様子で話しかけてくる兄ちゃんに
「・・そうだね」
ふいっと顔を逸らしてしまう
何が大人になった僕を見てもらいたい、だ
今とてつもなく大人気ない自分自身にイライラする
でもやっぱり・・嫌なものは嫌だ
「そんなつまんなそうな顔してると、名前に愛想尽かされるぞー」
近くに寄ってきて、ボソッともっともな事を言う
誰のせいで機嫌悪くなってるのか
でも兄ちゃんも案外天然だし、そんな事を言うってことはやはり素、なのだろうか
吹っ切るように、大事そうにぬいぐるみを抱いている名前を見た
「・・でもまさか、一番大きいのにするとは思わなかった」
『だってこれぐらいないと全然サイズ感違うし、て言うかまだ大きいの欲しかったんだけどなぁ』
「いや、普通に邪魔デショ。なんでそんな大きいの欲しいわけ?」
『だって、蛍くんのサイズに全然追いついてないじゃん』
「僕・・?」
『うん、抱き枕にするのに蛍くんのサイズが欲しい』
そう言って名前は真剣な顔してぬいぐるみを眺める
そんな理由で、ぬいぐるみを欲しがってたなんて・・
真剣なその目で 普通のテンションで
そう言うこと言わないでよ
思わず顔を背けて口元を隠した
『どしたの、蛍くん』
「・・何でもない」
「蛍は照れてるんだよ、名前が可愛いこと言うから」
え、と面白そうにコチラを見る名前に兄ちゃんを睨みつける
「なんだよー、ウソは言ってないぞ」
『照れてるの?照れてるの?蛍くんっ』
顔見せて!と覗き込もうとする名前から必死に顔を隠す
「照れて、ないからっ・・!」
僕の周りをグルグル回って、隙をつこうとする名前に今度は空を仰いだ
『あっ、ズルい!そんなことしたら絶対見れないじゃん!』
上を見てるから表情はわからないケド
たぶん声色から、口をへの字にしている彼女の顔が思い浮かぶ
もぉーっと言う声が聞こえたかと思ったら
今度は あっ!と何かに反応した声が下で発せられた
あまりにも自然に発せられたその声に
反応して下を向く
そこには僕を待ち構えていた視線とぶつかって
してやったりとでも言う様に彼女が
『ホントだー、顔赤い』
楽しそうに笑っていた
やられたっ・・!
僕は余計に顔が熱くなるのを感じて
再びソッポを向くがもう遅い
『蛍くんの照れ顔、いただきー!』
ルンルンと跳ねる名前に何も言えず
その向こう側にいる兄ちゃんに視線が移った
さっきはニコニコ笑ってたはずなのに
一瞬だけど
僕たちのことを冷たい目で見ていたように感じた
なんか、嫌な予感がする
「あ、そうだ。寄りたいとこあるんだけど、いい?」
またさっきと同じように笑みを浮かべながら聞いてくる
「・・別に大丈夫だケド」
『私もいいよ』
「じゃあゲーセンに行こー!」
『ゲーセン!行く行くー!』
片手を挙げてヤッター!と兄ちゃんに着いて行く名前
あれは 見間違いなんだろうか
兄ちゃんのあんな顔
あれは・・ウソであって欲しい
そう思いながら、2人の後をついて行った
***
『来たよ!来たよ!明光くん、援護して!』
「おうよ!任せとけ!」
オモチャの銃を一生懸命に撃ちまくって居る2人を尻目に
僕はベンチに座ってそれを眺めた
兄ちゃんの横で楽しそうに画面に向かって銃を撃つ名前
最後のボスが現れたのか、気合いを入れている
『あ!逃げたよ!真ん中真ん中!』
必死に敵を倒そうとする その肩に
兄ちゃんの体が当たる
「ほらほら!名前もっと撃って!」
どちらもやましい感じはしない
少なくとも僕以外はそんな目で見てないと思う
モヤモヤする・・
終わったー、とコチラを振り向いて手を振る彼女
『わっ、久しぶりにしたから腕がパンパン』
「大丈夫?」
『うん、明光くんは大丈夫なの?』
「俺は大丈夫、そんなヤワじゃないよ」
ほれっ、と腕を曲げる兄ちゃんに、なんの躊躇もなく両手でその腕を触った
『おおっ、固い』
「現役の時よりは痩せたけど、ある方だと思うよ」
得意気な顔をして名前を見る兄に、心の中で辛辣な言葉が出かかる
『あ、今度はクレーンゲームしようよ!』
「いいよ、俺の腕前見せてあげる」
そんな軽口を言いながら名前と2人して僕の方を振り向いた
『蛍くん、』「蛍、」
『「行こ」』
その顔にさえ 一度芽生えた感情が止まらない
不貞腐れたように、ゆっくりと腰を上げた
『ああー、やっぱりコレ苦手だー』
クレーンの掴み部分から滑り落ちたマスコットを見て嘆く名前
「ダメだったね、名前はホント昔からコレだけは上達しないな」
『むー・・、そう言う明光くんはどうなの?』
「俺を誰だと思ってんの」
ニヤッと笑ってゲーム機に向き直る
コインを入れ慣れた手付きで素早くレバーを動かし、一発でマスコットを掴んで落とした
『す、すごーい!』
拍手をしながら瞳を輝かす彼女に、はいとマスコットを渡す兄ちゃんを見て
意外だな、と思った
兄ちゃんこんなの得意だったっけ
「こう言うのはコツがいるんだよ」
『コツ?それ教えてよ』
「いいよ、じゃあもう一回」
兄ちゃんが再びコインを入れて、名前にレバーを持たせた
その後ろから 覆い被さるように
彼女の手に自分のを重ねて
名前と密着する
心臓が 今までに無いくらい
跳ねて 落ちる
ぐっ、と拳を握りしめて
駆け寄ってどうにかしそうな体を、なんとか抑えた
兄ちゃん、何でっ・・
「そうそう、ここを良く見て少し手前に」
『あ、掴めた!』
「よし!」
マスコットが落ちる音がして、名前は出口の扉を押し中の物を取り出した
『初めて自分で取れた!』
「おめでとう!」
感動している彼女の頭をグシャっと撫で、それから兄ちゃんは
名前の 肩を抱いた
信じられない光景に 息が詰まる
その向こうで
笑い合うふたり
まるで・・そっちが恋人みたいじゃん
もう
限界だった
これ以上 抑えることなんて
出来ない