僕と彼女と時々兄
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『見て見て!すっごくカワイイこの魚!』
ノースリーブのワンピースを翻して名前は笑う
いつもの制服やTシャツと違って
ちゃんとオシャレな女子の格好をした彼女に
不覚にもドキっとして
照れ隠しに無意識に眼鏡を直した
「コラコラー、ちゃんと前向いて歩かないとぶつかるぞー!」
僕の隣りで兄ちゃんが叫ぶ
ったく、と苦笑いをするその顔はとても嬉しそうで
3人で来て良かったと思うのと同時に
その表情に、なにかが 僕の中で引っかかる
「どした?蛍」
ジッと見ていたら気付いた兄ちゃんが不思議そうに聞いてきた
「・・別に」
そのなにかが分からなくて
視線を逸らす
『あ!あっちにペンギン居るって!行こう!』
早く早く!と手を振る名前にゆっくりと足を踏み出した
ペンギンを見て イルカのショーを観て
ずっとはしゃいでいる名前はホントに昔と変わらない
眩しいくらいに・・
昔は良く3人で
・・あ、山口も居たような気がする
バレーしたり遊びに行ったりしてたケド
いつしか・・・・いや、あの日からだ
兄ちゃんに余計なウソをつかせて、バレた日から
僕と名前の距離も遠くなった気がする
でも今は、すぐそばで彼女の声が 笑顔が
手の届くところにあって
兄ちゃんより
僕を選んでくれた、その事実に
どうしても心が浮き足立ってしまう
『はい、蛍くん!』
突然差し出された飲み物に、ハッとして
カップと名前の顔を交互に見た
「え、いつの間に買って来たの」
『お手洗い行った後に、明光くんに買ってもらったの』
蛍くんはオレンジジュースだよね、とニコッと笑う
僕はその言葉に驚いて、もう一度彼女の顔を見返した
「・・良く覚えてるよね」
『そりゃー、ずっと一緒に居ましたから』
ちゅーっとストローを吸う彼女の横顔を見ながら
こう言う可愛いことをサラッとやってのける名前に
体中に嬉しさがこみ上げてきて、くすぐったい
オレンジジュースなんて子供っぽい飲み物
ひとに指摘されることが恥ずかしくて
いつしか飲まなくなった
ホントは好きなくせに
そんなこと自分でも忘れていたのに
名前は覚えてた・・
「名前、」
僕の声に ん?と顔を上げた彼女に
触れるだけの キスを落とした
***
驚いた
あの蛍が
いくら人通りを避けた場所だと言っても
公共の場で
キスだなんて・・
トイレに行った後、カフェの前で難しい顔をして屈む名前を見つけて声をかけた
「なにしてるの?」
『明光くん!ノド乾いたから飲み物買おうと思って』
えーっと、と看板のメニューを見る
「あるよ、ほらアップルジュース」
真剣な表情に可愛いなぁ・・なんて思いながら
彼女の好きな飲み物を指差す
でも彼女はキョトンとした顔をして言った
『違うよ、オレンジジュースを探してるの』
「オレンジジュース?」
あれ?名前って確か、アップルジュースばっかり飲んでた気がするけど
そう思いながら首を傾げていると
『蛍くんはオレンジジュースが好きなんだよ』
得意気に ふわっと笑いながら
俺を見た
その顔に心臓が強く跳ねて
同時に痛みが走る
「・・そうなんだ、知らなかったなぁー蛍がそんな子供っぽい物好きだなんて」
『明光くんがそんなこと言うから、飲まなくなったんだよ蛍くん』
チラッと少し責めるような視線をよこして
『明光くんは・・コーヒー飲む?』
とまた看板に視線を戻した
「・・そうだな、俺はコーヒーにしよっかな」
取り繕うように笑う
ヤバイなぁ・・今の視線
ちょっと 傷つく
『じゃあ買ってくる』
そう言って店の中に入って行く名前の跡を
少し遅れて追った
会計を済ませようとする名前の横から
レジに映し出されていた数字のお金を素早くカウンターに置く
驚いた顔をする彼女に
「ここは年長者が出さないと、カッコつかないからね」
それに働いてるし、と言う俺に
『そんなこと・・気にしなくていいのに」
少し困ったように笑う名前
『明光くんは、やっぱり優しいね』
その言葉に 俺の中で複雑な感情が渦巻いて
昔から 嫌と言うほど聞かされてる
そのフレーズ
優しいから 何なんだよ
お待たせしましたー、と女性の店員さんが2つのカップを渡してきた
それからコーヒーはもう少し時間がかかると言われて
「先に蛍のとこ持ってってやってよ。たぶん一人で俺らの帰り待ってるだろうからさ」
俺の言葉に 分かった、と頷き
『ありがとう、いただきます』
ご丁寧に頭を下げ、少し足早に去って行った
相変わらず、ああ言う所だけ丁寧なのは変わらないな
後ろ姿を見ながらそんなことを思った
程なくしてコーヒーは出来上がり、俺は2人が待つ場所へ急いだ
水族館の中といっても、敷地は広く辿り着くまで結構かかったと思う
角を曲がって、人通りの少ない陰になる場所に居る2人を見つけて
おーい、と声をかけようとした まさにその時だった
蛍が 彼女に顔を近づけ
口づける
それを名前は驚いた顔で迎えて
そしてそっと 受け入れた・・
まるで恋人同士がするみたいなキス
いや、2人は恋人なんだ
そんなのわかってる
わかってるんだよっ
顔を離した2人は見つめあって
幸せそうに笑った
頭をトンカチで殴られたような衝撃
なんだよソレ
誘ったのはそっちだろ
なんで俺はこんなにもショックなんだろうか
自分でもわからないけど
まだ名前のことが・・
悲しみ・・いや、怒りにも似た、激しいその気持ちに
このまま2人を見守っていくなんて
今の俺には 到底出来るはずもなかった