僕と彼女と時々兄
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『蛍くん、水族館行こ』
ノックもせずに開けられた扉から顔を出し
僕の彼女は楽しそうに笑った
「・・・」
目の端でそれに気づいた僕は彼女を一瞥し、机のノートへと視線を戻した
『ねぇねぇ、蛍くん』
それでもお構い無しにそのまま部屋へ入ってくる
毎回言っているのに、いつになったらノックをすると言う礼儀を覚えてくれるのだろうか
『蛍くん聞いてる?』
ノートを見る僕を覗き込んでくるケド
ヘッドフォンをしているので聞こえないフリ
『ね!蛍くん、聞こえないのー?』
いつも名前には振り回されてばかりだから
少しのイジワル
怒ったところ見たことないケド
応えなかったら怒るのだろうか
『音楽聴いてるの?ねー、あのさ・・』
耳元に顔を寄せる気配がした
『今日、クラスの男子に・・告白されちゃった』
「ーーっ!」
バッと彼女の方を振り向く
まっすぐコッチを見る瞳とぶつかって
ニッコリと微笑まれた
・・あっ
『やっぱり聞こえてたんだ』
そう言いながら僕の耳からヘッドフォンを外す
『ウソつくのヘタだね蛍くん』
クスクス笑いながら自分の耳にヘッドフォンを当てる名前に
なんとも言えない敗北感がこみ上げてくる
「・・で、なんの用?」
『あれ?ホントに何も聞こえない』
「さっき止めたからね。で、なんの用ですか?名前さん」
『あ!そうそう、今度の休みの日、部活午前中だけの日があるって言ってたでしょ?その日水族館行こうよ』
「なんでまた突然、水族館なの?」
『入場チケット!もらったの』
ジャーンっと鞄から出して見せてくる
『ね!行こっ!デート』
僕のヘッドフォンを首に掛けたまま傾げて、無邪気に言ってくる彼女に
嬉しい反面、少し悔しい・・
ホントは僕の方が誘おうと思ってたのに
初デート
これ以上、名前にリードされるのなんてまっぴらだし
男としてのプライドとか
そんなのどうでも良いと思ってたのに
年が上で、小さい頃からそうだったから、と
言い訳は出来るケド
それでも、このまま彼女に着いて行く様なヤツにはなりたくない
しっかりした 男になったのを
名前に気づいて欲しい
『蛍くん?』
少し心配そうに顔を覗き込んでくる名前
「・・ん、ごめん」
顔を隠すようにメガネの位置を直した
「水族館!良いねー!」
突然の第三者の声にふたりして、扉の方を見る
『あっ!明光くん!』
「兄ちゃん!」
そこにはヨッ!と言いたげに片手を上げる兄の姿があった
『久しぶりー!元気だった?』
「おう!名前ー、久しぶりだな!お前も元気そうで何より」
「いつからソコに居たの?」
「水族館行こーってチケット出してたトコら辺から」
久しぶりに会う兄ちゃんに、名前は嬉しそうに駆け寄って、瞳を輝かせている
無理もない
僕でも会うのは1ヶ月振り
名前なんてたぶん、1年近く会ってないかもしれない
でも昔と同じように、懐っこく兄ちゃんに纏わりついて
彼女の頭をなんの抵抗も無く、ポンポンと撫でている様子を見ると
2人の距離感に 少し
納得のいかない感情が湧いてくる
「・・おかえり。でも名前にも言ってるケド、勝手に人の部屋入らないでよ」
憮然とした態度でイスから立ち上がって、2人に近寄る
「まぁ、そう言うなよー蛍。コレをお前に渡そうと思ってだな・・」
ゴソゴソと鞄を漁り、さっきの名前と同じように
ジャーンっ!と何かのチケットを出してきた
『コレって・・』
「そう!水族館のチケットー!」
・・なんだけど、と先ほどのテンションとは違う声色で自分のチケットを見る
「どうやら・・必要なかったみたいだな」
名前の手にあるチケットを横目で見て、苦笑いする兄ちゃん
『明光くん、蛍くんと一緒に行こうと思ったの?』
「いやいや、蛍が一緒に行きたいヤツと行けばいいと思って置いて帰ろうと思ったんだけど・・」
「・・タイミング、悪いね」
僕のセリフに兄ちゃんは肩を竦めた
「俺も別に行きたいヤツ居ないし、良かったら誰かにあげるか、2回行ってきなよ」
そう言って、机に置こうとするのを
名前の手が止めた
『ねっ!良かったら明光くんも一緒に行かない?』
「「えっ?」」
僕と兄ちゃんの声が重なった
『いいでしょー、チケットあるんだし!久しぶりに3人で行こう!』
ねっ!とワクワクするように僕たちの顔を見てくる
「いや、まぁそれは・・その、おじゃま、のような・・」
後ろ頭を掻きながら、チラッと僕の方を見る兄ちゃん
『邪魔じゃないよ!ねっ!蛍くん』
楽しそうな笑みを浮かべる名前に
断れるはずもなく
「・・わかった、兄ちゃんも一緒に行こう」
兄ちゃんの方を振り返り、これでもかと言うほど作り笑いをしてやった
「あー・・、うん、じゃあ行こうかなぁ・・」
困った様に笑う顔には 蛍、すまん と書いてある
『じゃあ決まり!土曜日午後に月島家に集合ね』
またね!蛍くん、明光くんと手を振り
鼻歌を歌いながら去って行った
「・・ホントに良かったのか?蛍」
「・・仕方ないデショ、名前が一緒に行きたいって言うんだから」
あんな顔されて・・断れるわけないじゃん
「・・ふーん、蛍も隅におけないねー!」
バシンッと背中を叩かれメガネがズレる
ニヤニヤ笑う兄ちゃんを横目にズレたメガネを直した
「お、そろそろ晩飯の時間じゃね?今日は母さんハンバーグだとか言ってたぞ」
「ん、僕も片付けたら降りる」
先行ってるぞー、と僕の部屋から出て行った
初デートなのに兄付きって言うのはどうかと思うケド
それを抜きにしても楽しみには違いなかった
土曜日、部活が終わったらさっさと帰らないと
まぁいつもすぐ帰るんだケドね
***
蛍の部屋のドアを閉めて
俺はため息をついた
まさかこんな事になるなんて
久しぶりの彼女の顔を見て
懐かしいのと同時に、当時の感情が蘇りそうになる
「・・俺も好きだったんだけどなぁ」
思わずポツリと零した言葉にハッとして
両手で頬を叩いた
「何言ってんだよ、兄がカワイイ弟の恋路を邪魔するなんて・・」
そんなバカなこと・・
「あっちゃいけないんだよ・・」