僕と彼女と時々兄
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『私は走った。息が切れようが、心臓がはちきれそうになろうが。あの子は誰?あんなに楽しそうな貴方の顔、初めて見た。私は、私は・・・。こんなにも、貴方の事が好きなのに』
「・・・ねぇ」
『この気持ち、』
どうしたら気付いてくれるの?と何かの本を片手に僕を上目遣いで見てくる彼女に
「人の部屋でなに勝手に遊んでんの」
呆れた様にため息をついた
『蛍くん、遅いよー』
文句を言う名前の横を通り過ぎ、鞄を置いて振り返る
「遅いも何も、約束なんてしてないし。そんな事より、勝手に人の部屋入らないでくれますか」
『勝手じゃないよ、ちゃんと蛍くんのお母様には許可を頂いております』
「・・部屋の主には許可取ってないデショ」
『その主が帰って来ないんだから仕方がない』
ああ言えばこう言う・・
昔からそう言った所変わらない
またひとつため息をついて
「で、なんの用ですか?」
机に腰を預けて彼女を見下ろした
『なにって・・蛍くんに会いに来たんだけど』
「・・またそれ?そう言うのいいんで」
『えー、まだ信じてくれないの?蛍くんの事が好きで好きで仕方ないから会いに来たんですよー』
先程から開いたまま持っている本で、どうせニヤつかせている口元を隠しながら軽口を言う彼女
白々しい
「・・兄ちゃんは、今日は来ないと思うよ」
『ん?そうなんだ。なかなか会えないね明光くん』
元気にしてるのかなぁ、と少し遠くを見ながら呟く彼女の
その横顔を直視出来なくて
視線を逸らせた
名前は小学校からの付き合いで
1つ上の幼なじみ
兄ちゃんが家に初めて連れて来た時から
気になってて
バレーを兄ちゃんから教えてもらったり
面倒見も良くて
僕とも良く遊んでくれた
いつかは兄ちゃんの様にバレーも上手くなって
彼女の事を振り向かせることが出来たら
なんて 思ってた
でも名前が好きなのは
兄 明光
偶然聞いてしまったソレは
紛れもない真実で
そんなの 僕にはどうしようもない
『ね!』
「ーー!!」
突然、視界に現れた彼女の顔に
思わず両手を反対方向に振りながら、体を逃した
「な、なにっ」
『なんで、隣りに座らないのって聞いてるの!』
ずっと立ったまんまじゃん、と僕の足を指差す
ワザと距離を取ってるんだケド・・
「隣りに座ったりなんかしたら、何されるかわかんないデショ」
『何それ、急に取って食べたりしないよ。・・たぶん』
たぶん・・?
『いいから、一緒に座ろ』
グイッと引っ張られ、隣りに座らせられた
ホントいつも強引に振り回してくる
『蛍くん、コッチ向いて』
「今度はなに、」
僕が言い終わる前に名前の手が伸びてきて
カチャッと眼鏡を奪われた
「ーーちょっ・・!」
『わぁ・・』
慌てる僕を余所に
眼鏡が無くても見える距離で、彼女のキラキラ輝いている瞳が見える
そして不意打ちに
『初めて見たけど、眼鏡取った蛍くんも好きだなぁ』
ニッコリと悪戯っぽく笑う名前
この人が見ているのは
僕の兄
僕を通して兄を見ているんだ
それがわかっているから
貴女の言葉がとても
重く 苦しい
ガッと眼鏡を持っている彼女の手首を掴んだ
『蛍くん・・?』
掴んだ手に無意識に力が籠る
「・・そんなに、僕の事好きなら」
もう片方の手で彼女の肩を押して
その場に押し倒した
僕を見つめる名前の瞳は大きく見開いていて
微かに歪んだ僕が映っているように見える
「僕の好きな様にしてもイイってこと、だよね」
冷めた目で彼女を見て
これで完全に彼女に嫌われるんだと
諦める覚悟のキスを
ゆっくりと目を閉じ
名前の唇に重ねる
ちゅっ・・と小さな音を立てて唇を離した
彼女はいつの間にか瞳を閉じていて
少し顔を赤らめながら、目蓋を開け僕を見つめてくる
「ーー・・っなんで抵抗しないわけ!」
絶対にビンタの1つや2つは飛んでくると思っていたのに
彼女は僕のキスを受け入れて
しっかりと僕を見据えてくる
『だから・・前からいつも言ってるじゃん』
スッと奪いとった眼鏡を元の場所に掛け直しながら
『私が好きなのは蛍くん。その好きな人にキスされてなんで抵抗なんてするの』
滲む世界から現実に戻された先で優しく微笑む
「・・キミがっ、好きなのは・・兄ちゃんデショ」
名前の言葉を未だ信じれない
「前に友達に言ってたの、僕は自分の耳で聞いたケド・・あれはウソだってこと?」
『好きだよ、明光くん』
まっすぐ僕を見て、当然のように言ってのける
「ーーじゃあなん、・・!」
『バレーしてる明光くんが』
好きだったの、と不満気な表情を浮かべる
「・・は?バレーしてるって・・」
『そのままだよ、明光くんのプレースタイルが好きだなって。もちろん本人さんも好きだけど、それは人として』
だから・・と、そっと僕の頬に手を伸ばして
『そんな苦しそうな顔しないでよ』
切なそうに瞳を揺らした
「・・ハッ!何ソレ、そんなの・・」
どれだけバカなの
何年も悩んできて
自分の気持ちに蓋をしてきたのに・・
今更こんなのって
『明光くんはカッコいいよ。明光くんを見て初めてバレーってスポーツのカッコ良さがわかったぐらいだし』
指先で何かを確かめる様に頬を撫でる名前
『だけどね、気付いちゃったんだもん。それよりももっとカッコ良くて可愛いくて、愛しい存在に』
ねぇ・・と彼女は少し首を傾げて
『こんなにも貴方の事が好きなのに・・・この気持ち、どうしたら気付いてくれるの?』
さっき呟いていた本のセリフを
少し恥ずかしそうに繰り返した
ああ・・そっか
彼女も必死に
気付かない僕に伝えていたんだ
こんなに 何度も
「・・ゴメン」
気持ちが溢れてくる
僕は彼女の首元に顔を埋めた
初めてこんなにも近くで名前の匂いをかいだ
何年も一緒に居て初めて
なのに
とても懐かしいように心が安らぐのは何故だろう
『やっと分かってくれた?私の気持ち』
そっと顔を埋める僕の頭を優しく抱きしめて
『蛍くん、好きだよ・・蛍くんだけが大好き』
耳元で囁かれるウソじゃないその言葉に
「僕も・・ずっと名前のこと好きだった。ずっとずっと前から、今も・・これからも」
離したくないと
僕に似つかわしくない素直な言葉を呟いた
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