烏野高校
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【からっぽボトルにスキを注ぐ】
『あれ?ウソ、ないっ』
さっき結構残ってると思ってたのに
もう一度ボトルに口をつけ、天井まで仰いでみたが
結局一滴も出てこない
『えー…』
「どした?」
『ドリンクが出てこないっ』
何故か諦めきれない私は、片手にボトルを持って左右に振ってみる
ジャバジャバと言う水音も少しどころか全くしない
「全然入ってねーじゃん」
隣りに座った影山くんが、自分のドリンクをぐびぐび飲んでから、私を見た
『えー、でも残ってたんだよ、さっきまでは』
キュポンっと蓋を外して中を覗き込む
「いや、明らかに入ってねェだろ、ソレ」
いつまでしてんだ?とでも言いたげな声色の影山くん
『自分の目で確かめないと納得いかないんですー』
とは言ってみたが、影山くんの言う通り中は空っぽ
少し前に部員達のドリンクは作ってしまっている
ああ、今から自分のだけ作るには少し面倒くさいし
かと言って喉カラカラだし…
うーん、どうしたものか
色々と諦めの悪い私が空のボトルを前に、ぐるぐる逡巡していたら
横からスッと別のボトルが目の前に現れた
「ん、」
ボトルの先を追って隣りを見ると
影山くんが真っ直ぐにコチラを見ている
『え、何?』
「無いならやる」
『…え“?』
「なんだよ、要らねェのかよ」
『い、いや…欲しいけど』
「だったら飲め」
『いやいや、だってコレ影山くんっ…!』
コレは…
間接キスと言うものですよ
まさか天然だから知らないんですか?
それとも…知っててやってるんですか?
いくら疎い影山くんだろうが
好きな人にこんな事されたら
私の方がもちません
勘弁して下さい
「あ?」
『こ、コレって…ほら、くち…』
「ああ、オレそう言うの全然気にしねェから」
表情を変えず、あっけらかんと放たれた言葉に
私のハートは音を立ててひび割れた
わかってた…わかってたけどね
私なんか他の部員と同じ友達ぐらいの存在
唯のマネージャーなんだから
気にならないよね、女子としては…
…と言うか、そもそもそんな事
その言葉の意味そのまま
影山くんは気にしないのか
残念なキモチを引きずって
引きつろうとする顔をなんとか笑顔で保とうとしていたら
「…他のヤツだったら絶てェやらねーけど」
影山くんがポツリと漏らす
「苗字は気にならねェから」
飲めよ、と
少しだけ
少しだけ照れた様に見える彼は
もう一度、強引に私の前へドリンクを差し出す
……え、
な、何ですかその顔
私は、って…
そんな見た事も無い影山くんから、どうしようも無く視線を外せなくなった自分は
『…ありがとう』
と呟いてぎこちなく受け取るのが精一杯
そっと手に取ったのを見届けて
影山くんはニカッと笑った
「おうっ!」
瞬間、
胸いっぱいに広がる暖かいキモチ
こんなに眩しくて
爽やかな笑顔
初めて見た
心臓が
経験した事が無いくらい
ドキドキしてる
顔が…熱い
固まる私に反して、影山くんはすくっと立ち上がった
「飲み終わったらその辺に置いといてくれ」
『あっ…う、うん』
そして中へ向き直そうとして、思い出した様にまたコチラを見た
「今度オレのが無くなったら…」
彼は愉しげに言う
「お前の、くれよな」
勝ち気な笑みを浮かべて
それだけ言うと
彼は中へ入っていった
呆然としたまま、自分の手の中にある彼のドリンクに視線を落とす
コレは絶対的な
影山くんの…
王様の 命令
…ああ、ヤバい
死にそう
こんな逆らえない言葉
いや、逆らおうとすら思わない
身に余る幸せな言葉
絶対に破るわけにはいかない
…私のドリンク、少し多めに作っておこう
そう決意した午後のひととき
その後ーーー
結局私は畏れ多い彼のボトルに口をつける事は出来ず
口を開けボトルを押して絞り出した所
口元とTシャツがびちょびちょに汚れたのは言うまでもない
ああー、素直に口つければ良かったぁ…
もったいない…
2021.1.5