烏野高校
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【恋のから騒ぎ5秒前】
「はい、影山くん!ズバリあなたの好みは?」
タオルで額の汗を拭いていた影山は先輩の田中にそう声をかけられ
明らかにその言葉の意味を理解していない表情で首を傾げた
「何だよー、ノリ悪ィなー!好みだよ、好み!」
「なんのっスか?」
「何のって…そりゃ女子の好みに決まってるだろー」
「はぁ…」
「反応うっす!お前もしかして女子に興味ねェのか?」
塩対応の後輩に西谷も横から会話に入ってくる
「バレー以外に興味ないから仕方ないんスよー!だから女子にモテない」
ニシシと馬鹿にした笑いを向ける日向に
「あ”あ”!?」
と睨み付ける影山
「で?どんなのが好みなんだ?お前の場合全然想像つかねぇけど」
「好み…スか?そんなにオレ気にして見た事ないんで…」
「は?」
「…あっ、甘いモン、チョコレートとか好きっスよね?…たぶん」
「お前…、何の話ししてんだ?」
話の噛み合わない後輩に田中は腕を組みながら頭を捻る
「え、何って…女子の好み」
「…いや、好みは好みでも…お前のは女子が好きな物を言ってるだけだろっ!」
「え、違うんスか?」
大真面目な顔で驚く影山に脱力する田中たち
「お前なぁ…、女子の好みっつーのは、お前はどんなタイプの女子が好きなのか、それが聞きてぇってことだろっ!」
前のめりに怒鳴る田中に日向がやれやれと、頭を振る
「そもそも…影山にそんな事聞くのが間違いなんスよ」
日向がポツリと零す
「うっ…、うるせェぞ日向ボゲェー!」
自分が的外れな事を言ってしまったことを感じとった影山が憤慨する
「じゃあ、影山くん言えんの?好み」
どうせ分かるまい、と言いた気に横目で聞く日向の態度に挑発されて、影山は口を開いた
「んなもん、言えるに決まってんだろ!」
「じゃあどーぞ」
嘲ける様な笑みを向け余裕の日向
その顔にグッと奥歯を噛み締めた影山は
「好みだろっ!女子の…好み」
自分の知っている女子、誰でも良いからあげてしまおうかと一瞬考えた時
脳裏に浮かんだ、ひとりの女子の姿
「…髪…が、肩ぐらいの、長さ、で…」
ポツリと口を開きながら、視線を泳がせる
「ロングじゃねーのか!それでそれで?」
西谷がワクワクしながら続きを促す
「えーっと…耳たぶにホクロがあって…」
「ホクロ?」
「で、いつも笑ってて……あ、変なクシャミをする」
ぐひょんっ!と遠くで変な声が聞こえる
「…つーか、お前さ」
田中の声に向こうを見ていた影山は視線を合わせる
「なんで答える時、いちいち苗字の方見てんだ」
その言葉に一斉に影山へと皆んなの視線が集まった
「え、なんでって…」
そこから先の続きは出てくる事はなく、影山は止まった
「は?え?それって…」
「いやいやいや、お前…!」
「おいおいマジかよっ!」
「変な…くしゃみ…」
「お前…まさか…」
きょとん、とした顔をしていた影山自身も
段々と眉間に皺を寄せ険しい表情を浮かべると同時に、顎へ手をやり何かを思案しだした
ぐるぐると彼なりに何かを必死に考えている様子に、田中たちも固唾を飲んで影山を見守る
その時だった
「…ごー」
と、どこからとも無く聞こえて来る声が…
「…4」
「な、何だ?この声…」
ざわつくその場の全員が謎の声の方へ顔を向ける
「月島っ!」
そこには澄ました顔の月島が、悩む影山に向かって何故かカウントしている
「…3」
何がなんだか分からない周りは、月島と真剣な表情の影山の顔をキョロキョロと交互に見遣る
「おい、一体何だよ!」
「何で月島カウントダウンなんかしてるんだ」
「知らねェよ!」
「…2」
ヒソヒソと交わされる会話なぞ無視して月島は少し気怠そうに放った
「…1」
ゼロっ、とクイッと顎を上げて影山を見下ろす
全員の良く分からない期待の眼差しが影山に集まった瞬間
ボフンっ…!と影山の顔が真っ赤に染まった
「…は?」
「ど、どうした?影山」
「オレ…苗字先輩のこと」
信じられないと言った顔で、影山は両眼を見開いて固まった
感情の整理が追いついていないその頭から蒸気が上がっている
「やっと気付いたの?」
月島が呆れ顔で言う
「信じられないくらい鈍感だね」
それだけ言うと去って行く後ろ姿
そして残された者達が一斉に影山へと押し寄せた
「マジか!影山!」
「お前そうだったのか!」
「だから耳たぶのホクロの事とか知ってたんだな!普通わかんねーし」
「俺も知らなかった!」
「そうか苗字かー!確かにアイツ変なクシャミするもんなぁ!」
『変ってどんなクシャミなの?』
「こう、なんつーのかな、馬みたいな…」
そこまで言って周りの雰囲気に気付く西谷
田中や日向達が凍りついている
「あ?どうした、お前ら」
視線が自分の背後に注がれているのに気付き、振り向けば
「げっ!苗字…!」
そこにはマネージャーの苗字がいつの間にか立っていた
「な、何でお前…!」
『皆んなが楽しそうにしてたから、何話してるんだろうと思って』
で、と彼女は笑顔のまま口を開く
『馬みたいな変なクシャミ、一体誰がしてるって?』
ニコッと笑っている筈の顔からドス黒いオーラを感じとった面々は
「い、いえ!勘違いでーっす」
スミマセン!失礼しますっ!と早口で言い放つと、これまた足早に散り散りとその場から去って行った
そんな中ただ1人、田中だけがくるりと身を翻し、影山の肩をグイッと組んで耳元に口を寄せる
「チャンスだ!影山!ここで男をみせろ!」
「は?」
ヒソヒソとそれだけ伝え、グッと親指を立てて影山にエールを送ると、逃げる様に去って行った
『もぅ、人のクシャミ笑うなんてサイテー』
田中達の後ろ姿を呆れる様に見送る苗字
影山はその横顔に見える耳のホクロを凝視しして唇を噛み締めた
大人びて見えるその横顔のラインに
やっぱキレイだな、と心の中で呟く
そしてゆっくりと星野へ近づいた
「あの!」
『ん?何?影山くん』
「オレ…」
両手を握り締め、自分を写した瞳に怯んで一瞬視線を泳がせた影山だったが、意を決して向き直った
「オレ……好きです」
『え…』
頬を紅潮させた影山は真っ直ぐに苗字を見て言う
突然のその告白に苗字は両眼を見開いて、自分より大分上にある影山の瞳を見つめた
周りで様子を窺っていた田中達も耳を澄ます
しかし次の彼のセリフにその場の雰囲気がガラリと変わった
「オレ…オレは…全然変じゃないと思うっス」
『…へ?』
「オレは!…先輩のクシャミ、好きですっ!」
…え、そっちぃーーっ!?
と、心の中で叫ぶチームメイト
田中はガックリと肩を落とした
「違ェだろ!影山!」
西谷が今にも飛び出しそうな雰囲気で、それでも小声で様子を見守る
苗字は驚いた表情をした後、顔を緩めクスクスと笑った
『ありがとう、影山くん』
その表情に伝えたかった言葉が間違っていた事に気付いた影山
「あ、その…違って」
慌てて言い直そうとしていると、『私も、』と、苗字が口を開く
『私も、影山くんの笑顔好きだよ』
「えっ」
『皆んな怖いって言ってるけど、自信に満ち溢れたあの笑顔は、影山くんだからこそ出来る顔だもん、すごく…』
素敵だなって
そう、苗字は満面の笑みで応える
その笑顔は影山の心臓を鷲掴みするには充分で
呆気に取られた様に固まる
ドクドクと早まる鼓動に背中を押されるかの様に影山の口から言葉が滑り出す
「オレ…好きです」
『うん、私も好きだよ』
「ち、違ェっす!そのっ、く、クシャミとかじゃなくてっ…!」
ん?と首を傾げる苗字へ、伝わらないもどかしい気持ちに焦る影山が口を開きかけた時
入り口の方から派手な音が鳴り響いた
2人してそちらに顔を向けると、マネージャーの谷地が床に尻餅を着き、辺りにボトルが散乱していた
どうやら谷地がすっ転び、持っていたボトルをぶちまけたらしい
「谷地さんっ!」と日向が駆け寄る
『やっちゃん!』
苗字も心配そうに瞳を揺らし、走り出す
「あっ…」
引き留めようとして伸ばしかけた手を影山は止めた
今腕を掴んで引き留めたとしても、どうにもならない事だけは影山にも分かったからだ
あんなに早く動けるひとだったんだ、とあっという間に谷地の所まで行ってしまった苗字の後ろ姿を見て影山は感心する
そしてどうしようもなくなった自分の手を見つめて、キュッと握った
自分の事を好きだと言ってくれた
それが堪らなく嬉しい
次こそは必ず、本当の好きの想いを伝えよう
そう思いながら振り返る
と、いつの間に居たのか田中と西谷がそこに立ち影山を見て、ニヤニヤと笑っている
「………」
影山は何も言わず、踵を返した
「ちょっ!おいおいおい!何も言わねーのかよ!最後まで見届けてやったってーのによ!」
「惜しかったな影山!次こそはちゃんと伝えろよ!」
ギャーギャー騒ぎ立てる2人に、影山は立ち止まって後ろを振り返りギロッと睨みつけた
その視線にピタリと動きを止めた先輩達に向かい影山は言う
「…次は、もうちょっと強引にいきます」
それだけ言い、にやりと口の端を上げ笑う影山
影山にとってはただ、微笑んだつもりなのだが
「「ーー〜〜!!」」
ぞくりっ、とその不気味な笑顔に田中達は背筋を凍らせる
そんな2人の事はお構い無しに影山はまたくるりと向きを変え、マイペースに去っていった
その後、ヤバそうな雰囲気と言動を放った後輩に苗字の身を案じた田中達は度々安否確認をする様になったのは、言うまでもない
2021.1.2