秘密から始まる青い春
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「だいぶ日が落ちたのに暑いな」
「そうっスか?」
あちぃー、とスガさんが手で顔を仰いでいる
「影山暑くないの?」
「そこまでじゃないっス」
「暑いの感じないんじゃないの」
バカだから、と言った月島のセリフは聞こえなかったが、山口が慌てるのを見て、どーせまた良くないことを言っているのだろうと、ムッとする
部活が終わり、帰り道が一緒のメンバーと下校していた
空は大分暮れている
「あ、じゃあ俺こっちなんで」
「おう!また明日なー」
月島以外が手を振る中、うっス!と返事をし角を曲がった
ここからは家まで10分
腹が減って足の速度が自然と上がる
晩飯、なんだろ・・
そう思っていた時だ
ひとつ先の曲がり角から人影が出てきた
瞬間 心臓が飛び跳ねる
「苗字!」
突然の呼びかけにその人影はビクッと体を揺らし、ゆっくりとこちらを振り向いた
『あっ・・!影山くん』
俺の顔を見て安心したように笑う
笑った顔もやっぱキレイだ
『どうしたの?こんな所で』
「苗字こそ、何やって・・」
全て言い切る前に足元がモゾモゾして下を見た
『あ、ダメだよ!ぶっちぃ』
「ぶっ・・ちぃ?」
俺の靴を小さいイヌが一生懸命、フガフガと匂っていた
「散歩か?」
『うん、そう!影山くんは?部活帰り?』
おう、と返事をした俺に、お疲れ様!と癒しオーラ全開で言ってくれる
何故か顔を逸らしてしまった
音楽室以外で会ったのは初めてで
そして彼女は制服じゃなくて、私服
いつもの苗字なのに、いつもと違う雰囲気のようで、少し心臓がうるさい
『影山くん?』
その声に顔を戻せば
下から覗きこむ苗字の顔
『お腹、空いてるでしょ?』
はい、と手を握られその中にこの前もらったチョコを入れられた
『影山くん、お腹空いてると怖い顔になるから』
ふふっとイタズラっぽく彼女は笑った
ダメだ
直視できねぇー・・
くるっと苗字に背を向け
必死に自分の顔を悟られないようにした
「さ、散歩はもう終わりか!」
『うん、もう家に帰るよ』
「なら送ってく」
『えっ!いいよ、すぐそこだし』
「送る!」
『えー、悪いよ・・』
しぶる苗字に手の中のチョコを見せる
「これの礼な」
『・・ありがとう』
俺の言葉に折れた苗字は眉尻を下げて笑う
『お腹は大丈夫なの?』
「チョコ食う」
歩きながらバリッと袋を開け、口に全て放り込んだ
『この前もそうやって食べてたね』
「見てたのか?」
『うん、可愛いなぁと思って』
へへっと笑う苗字に驚く俺
そんな素振りなど微塵も感じなかった
嬉しい感情がブワッと湧き上がる
苗字が俺のことを見てくれてた
しかも自分でも気付かない間に
「・・そう言えば近くって言ったけど、苗字ん家この辺なのか?」
『そうだよ、って言っても今日は少し遠出したからもう少し先の公園の向こう側』
「公園の向こう側って結構あんぞ、んなとこからあんま遅くに1人で出歩くと危ねぇって」
『心配してくれてありがとう、実は高校進学前に家の都合で東京から引っ越して来てるから、この辺のことよくわからなくて・・』
「じゃあこの辺知り合い居ねぇのか?」
『うん、散歩も本当はお姉ちゃんが行くことになってたんだけど・・ゼミの飲み会で帰らないから行っといてって』
「苗字、姉ちゃんがいんの?」
『うん、2人姉妹。影山くんは?』
「俺は兄弟はいねぇ」
意外〜、とまた顔を覗きこまれた
「なんでだ?」
『ん〜なんか負けず嫌いな感じするから、良く兄弟喧嘩とかしてるのかと思ってた』
苗字の言葉に月島のことが浮かんだ
「・・確かに、負けるのは嫌だ」
『バレー、好きなんだね・・』
「ん?」
『ううん、でも影山くんの言うように今日はダイエットを兼ねてあっちまで行ってみたけど、少し張り切り過ぎて迷惑かけちゃったね』
「迷惑・・」
『でも・・、影山くんに会えて、』
『嬉しかった』
彼女はそう言って
俺だけに
満面の笑みを向けた
「・・っ!」
呼吸を忘れるぐらいそれは眩しかった
『あ、私の家、この先曲がった所だから』
もう、大丈夫だよー、ありがとうと手を振って走り去ろうとする
「俺もっ!」
そんな彼女の背中に叫ぶ
「俺も・・苗字に会えて、嬉しかった」
これだけは
どうしても
伝えたかった
遠目でもわかるくらい彼女はまたニコッと笑って
『またね!』
と手を振り、今度こそ帰って行った
自分でもわかるくらい顔が
体中が熱い
苗字の姿が見えなくなるまで見送り
触れられた自分の手を眺めた
本当はもっと一緒にいたかった
もっと話したかった
ダッシュで家に帰る
汗が吹き出てきたけど
そんなこと気に留めない
家について顔を見た母親から、どうしたの?と聞かれたが、なんでもねーと自分の部屋に上がる
湧き上がる感情に
興奮が治らない
こんなに彼女と喋ったのは初めてだ
試合をしている最中でもこんなに心臓がバクバクしたことはない
スガさんが言ってたように、
「あちぃー・・」
誰もいない部屋でポツリと呟いた