秘密から始まる青い春
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「部活前後だけって話しだったよね?」
ね?と日向を見るヤツの目にはハッキリと迷惑だと書いてある
「だっ、だって…!英語の吉田先生居なかっ…」
「営業時間に出直してきて下さーい」
日向の言葉を遮りダルそうにヘッドフォンをする月島
その態度にイライラして腹が立ってくる
…チッ!昼休みにコッチがワザワザ教室まで来てやったっつーのに
月島のヤロウ…
教室を出てブツブツ言う日向の横で、オレも心の中で悪態をつく
大体アイツちゃんと教える気あんのか?
オレに頭まで下げさせておいて、それで文句ばっかり言いやがって
クソッ!それもこれも合宿に行く為であって、それが叶わねェなら、これ以上月島に教えてもらう意味はねェ!
ギリギリと奥歯を噛み締めていた時だった
「日向ー!」
その声に振り向くと山口が手を振りながら走って来た
「え、山口が教えてくれんの?」
「ゴメン、俺英語は無理だ」
苦笑いをする山口に日向がショックを受けている
そんな日向に山口は続けた
「昨日さマネ候補で来てた子居るじゃん?あの子5組って言ってたから勉強得意かもよ、頼んでみたら?」
「谷地さんっ!」
うん、と日向の答えに山口が頷く
「サンキュー山口!行ってみるっ!」
日向が親指を立ててそう言うと、山口は満足そうな顔をして去って行った
「行くぞ、影山!」
早速5組へと走り出した日向に着いて行こうとしたが、そのオレンジ頭の後方に
見知った後ろ姿が歩いているのを見つけて、思わず視線を奪われる
「影山?」
着いて来ないオレを不審に思ったのだろう、立ち止まった日向の気配が声をかける
「……悪ィ、5組にはお前ひとりで行ってくれ」
「はぁ!?ひとりって…どうすんだよ、お前!」
ギャーギャー喚く日向を無視して、歩き出す
「ちょ、おいっ!影山!」
日向の声に一度も振り返る事なく、ただ前だけ見据えて進む
あれは…遠くに見えるあの後ろ姿は、間違い無く彼女だ
他の生徒に紛れてしまう程、気配を消して歩いているが、あの独特の空気を纏っている女子はオレの知る限り、ひとりしか居ねェ
もう少しで追いつく、そう思った時だった
廊下でふざけていたヤツが彼女にぶつかり、その衝撃に小さな身体がバランスを崩し足元がふらついた
「苗字!」
壁にぶち当たりそうになった身体を背後からガッと左手で支える
「大丈夫か?」
覗き込むオレの声にゆっくりと振り返った
『影山くん…』
その目でオレを捉えた彼女は驚いた後、ふわりと優しく微笑んだ
『ありがとう』
その顔に胸の中が暖かくなる
クラスが違う苗字とはこうやって廊下で会う事さえ珍しい
その苗字を見つけた時、素直に嬉しかった
体制を整え向き合えば、両手で重そうな段ボールを抱えているのに気づく
『影山くん、どうしたの?お昼休みなのに』
「苗字の方こそ、どうしたんだ、この段ボール」
『あ、これは職員室に用事があって行ったんだけど…その帰りに先生が…』
“苗字、悪いがコレついでに理科準備室に運んどいてくれ”
『…って、頼まれちゃって』
眉を八の字に下げて苦笑いする
その表情にもう一度段ボールに視線をやるが、中はパンパンで、二段に重なりどう見ても苗字には重たそうに見える
だからさっき、ふらついてたのか…
「……準備室ってどっちだ?」
『えっ』
「場所」
『あ、こっち』
手が塞がっている為、顔をその方向に向ける苗字
その隙に段ボールを小さな手から奪って歩き出す
『え、あっ!影山くんっ』
慌てる苗字に足を止め振り返った
「悪ィ苗字、道案内頼む」
それ以上苗字に押し問答させない為、彼女にそう言えば、前髪に隠れている両眼を見開いて止まった後、少し恥ずかしそうに俯いた
『…何で影山くんが謝るの』
とボソッと呟き顔を上げた彼女は
『ありがとうっ!助かるっ』
少し大きな声でそう言って、くしゃっと笑う
「…おうっ!」
釣られて表情が緩んだ
それから苗字とふたり、並んで歩き出す
『影山くん、重たくないの?』
「全然」
『やっぱり鍛えてるから?』
苗字の問いに一瞬考える
いや、そもそもオレにはこれぐらい、そんなに重たいとは感じねェ
「…関係ねェと思うけど」
『そうかなぁ。…でもやっぱり男子だね、頼もしいよ』
そんな事を言うから、無意識に少しだけ胸を張った
久しぶりに彼女とこんな他愛も無い話しをしている気がする
バレー漬けの毎日に合宿の話
それからテストの話し……
目まぐるしい毎日に苗字との時間が取れなくて
それだけが唯一、不満となって心に溜まっていた
……あとなんか…大事な事を忘れてる気がする
『影山くん、ここだよ』
鍵を開けて扉を開き、『どうぞ』と中へ誘導する苗字
そのまま中へ入ってみたものの、カーテンも全て閉め切っているせいか、そこは昼間なのに真っ暗だ
なんか…カビくせェ
『えっと、今電気つけるね』
と苗字の声がしたが、中々灯は点かない
「どした?」
『んー…っと、この辺の筈なんだけどスイッチが見つからなくて』
あれ?とどうやら手探りで探している様子だ
オレは段ボールを適当にその辺へ置き、苗字がいるであろう付近に近寄る
『おかしいなぁ、この辺のはずなのに…』
「もうちょい上の方とかか?」
動く気配のするその上辺りの壁をなぞってみた
手に当たる冷たい突起
「コレか?」
グッと押せばパチッと言う音と共に、辺りが一気に明るくなる
少し暗闇に慣れてきていた眼がその明るさに反射的に閉じて
まぶしっ…
薄っすらと刺激に慣らそうと瞼を開ければ
目の前に浮かび上がった苗字の頸
眩しさなんか一気に吹っ飛んだオレは両目を見開いた
いつも髪を括っている苗字の頸は、電気を点けた瞬間の明るさと同じくらい眩しく白い
キレイに纏めてある髪から少しだけ垂れた黒髪が、更にその白さと…形容し難いその空気を強調していた
うッ…ヤベ…
何故か見てはいけないモノを見てしまった気がして
視線を逸らそうとしたした時、苗字が振り返った
『もう少し上の方だったん…』
だね、と言い切らない内に、苗字は口をつぐんだ
伸ばしていた片手はスイッチに触れたままで、オレの身体は前傾姿勢
その距離、お互いに吐息が掛かる程の僅かな距離
オレも多分、苗字と同じ表情をしているはずだ
彼女はオレなんかよりも何倍もありそうな目を目一杯開いて
唇を少し開けて固まる
「……ッ」
どう反応すれば良いのか分からないオレも身体が動かない
そして先に動いたのは苗字だった
『あっ…!ゴメンなさっ…!』
急に我に返った苗字が慌てて後ろへと逃げる
だけどそこは壁
でも彼女は壁に当たる前に、足を滑らせて視界の端へと崩れた
『あっ…』
反射神経は良い方だ
だが、さっきまでの突然過ぎる状況のせいで反応が遅れて、体勢を崩してしまった苗字の身体を引っ張り上げる余裕は無かった
崩れ落ちる彼女の頭だけでも守ろうと、腕を差し込んで衝撃を柔らげようとする
落ちて行くオレたちの身体
ギュッと密着して頭を抱え込む
床に倒れるその瞬間、苗字も呼応するかの様に身体を丸めて
柔らかい身体をオレに重ねた
ドサッ、と崩れて引っ付くカラダ
さっきまでのカビ臭さがウソの様に
心地良い匂いに包まれた
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