秘密から始まる青い春
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それにしても……面白い展開だ
あの王様が僕に頭を下げるなんて
ここまでさせておいて、拒否したらどんな顔するだろう
足を進めながらそんな事を企んだ
烏養コーチに怒鳴られた後、僕たちは取り敢えず帰路を進んだ
でも影山達にまだ返事はしていない
だってこんな事、もう二度と起こる事じゃないし
悪ふざけついでに更に条件を足してみようか
例えばそうだな……必要以上に苗字に近づくのは禁止、なんて言えば「ふざけんなっ!」と怒って帰るだろうか?
それともこれ以上ないくらいに顔を歪めて悩むのだろうか?
そんな影山を想像して、心の中でほくそ笑む
でもふとそこで思い留まった
もし……もしここで僕が影山達に勉強を教えるのを拒否すれば
絶対に彼女が出てくるはず
さっきの阿鼻叫喚の中、真っ白になった影山を心配そうに見ていた苗字だ
影山が路頭に迷っていれば必ず彼女は手を差し伸べるだろう
そして影山はここぞとばかりに彼女に甘えると言うのは想像に容易い
……それは絶対に避けなければならない
「なぁ!月島!いいだろ、こんだけ頭下げてんだからっ!」
「…分かった。但し、死ぬ気で勉強しなよ。同じ事何度も言うの疲れるし嫌いだから」
と言えば、多分“分かった”の部分しか聞いていない日向が「よっしゃぁぁっ!」とまた大きな声で叫びだす
いや、だから後半聞いて無いデショ
この天然バカ
喜ぶ日向の影で王様は複雑そうな顔をしていた
あーあ、全部顔に出ちゃってる
僕に貸しを作っちゃったんだもんね
ホント、ご愁傷様
…と言うか、影山も苗字に勉強を教えてもらおうとは思い付かなかったのだろうか
王様のクセに遠慮した訳じゃあるまいし
…まぁ、どちらにせよ、彼女じゃなく僕に頭を下げに来る単細胞で良かった
そうやって嘲笑して、余裕に構えていた僕だったケド…
早くも後悔の波が押し寄せていた
部活終了後の部室
「影山も人の事言えないんだけど!全体的に日向より出来てないんじゃないの?英単語ぐらい自分でどうにかしなよ!」
“鬼の目にも金棒”と書いた日向に向かって偉そうに言う影山に、答案用紙を床に叩きつけると「オレは日本人だっ!」とか訳分からない言い訳を始めたから
「なら合宿は諦めるんだねっ」
とそっぽを向いた
この前の一件以来、部活前後にこうやって2人の面倒を見る羽目になった僕は、早くも後悔していた
2人ともここまでどうしようも無い馬鹿だったなんて…
ある程度は分かっていたしその覚悟はしていたケド、これは酷い
答案用紙を見て溜め息をついた
これからの事を考えると頭が痛くなる
それでもこの馬鹿2人組を何とかして、教えて行かなければならない
何故なら僕の予感が、的中していたからだ
この前の部活終了後、苗字は影山では無く、僕に声をかけてきた
『影山くん達、どう?』
「絶望的だね、馬鹿過ぎて話しにならない」
深い溜め息をついて頭を振る僕に苗字は苦笑いしながら『お疲れ様』と労ってくれる
「まぁ、もう少し頑張ってみるよ」
それじゃ気をつけて、と部室に向かおうとする僕の背中に『月島くんっ』と彼女が呼ぶ
振り返れば思っていた通り、心配そうな顔をして何かを言いにくそうに佇む彼女の姿
…やっぱり、気になるよね
自分もチカラになりたいって、そう思ってる
でもそれが僕にじゃなく、主に影山に向いているのだから
素直に肯定なんて、出来るはず無い
『良かったら、私も一緒に…』
「大丈夫だよ、苗字さんの手を煩わせる程じゃないから。…もし必要になったら、僕から声かけるよ。でもまぁその時にはもうお手上げ状態だろうケド」
『……うん、分かった』
彼女の言葉を遮って発した言葉を、僕の優しさだと勘違いした苗字は寂しそうに笑った
それに気付かないフリをして、踵を返す
苗字はたぶん、僕が迷惑を掛けたくないから大丈夫だと答えたと思っている
…悪いね苗字さん、そんなに出来た男じゃなくて
薄暗い感情に自分でも呆れるケド
本心なんだから仕方がない
そして賑やかな部室の前で足を止めると、深呼吸をしてドアノブを握った
***
「あのちょっといいかな?」
清水先輩が体育館の入り口で顔を覗かす
あ、もしかして…!
ちょっと用事があるから遅れるけどよろしくね、と部活前に言っていた先輩の少し緊張した様子に胸が高鳴る
ヒョイっと先輩の後ろから顔を覗かせたのは、ショートカットの女の子
ああっ!女子だっ!
「新しい人!見つかったんすね!」
日向くんが、嬉しそうに駆け寄った
日向くん、知ってたんだ。清水先輩がマネ探してたの
自分しか知らないと思っていたので、少し驚いた
皆んなそれぞれ彼女に近寄って、興味津々に声を掛けている
谷地仁花さんはそんな部員の勢いに明らかに怯えていた
今は少しオドオドしていて挙動不審だけど、可愛らしくて明るい感じの人だなぁ
……良かった、怖そうな人じゃなくて
私はそっと近寄ると、軽く自己紹介をした
隣りで見ていた清水先輩が
「同じ一年のマネージャーだから、もし入部する事になったら心強いと思うよ」
と声をかけてくれた
私も先輩が卒業した後ひとりになるのを想像すると、新マネージャーとして谷地さんの存在はとても心強くある
よろしくね!と笑えば、ギコチないながらに笑い返してくれた
「今日は急遽来てもらったから、委員会前に顔見せだけ」
と言う先輩の言葉に全員で
「「しゃーっす!!」」
と挨拶すれば、余計に怯える谷地さんを気にして
「慣れるまでは取り囲んでの挨拶はやめて」
と清水先輩は気遣う
そう言う所、やっぱり凄いなぁ
谷地さんが去って行った後、澤村主将が清水先輩に話し掛ける
「新しいマネージャー勧誘してくれたのか」
「うん、烏野がこれからもっと強くなる為にマネの仕事もこれからちゃんと引き継いで行かなくちゃと思って」
ねっ!と笑いかけられ、はいっ!と返事を返した
今は仮だけど、谷地さんが本当に入ってくれれば嬉しいなぁ…
……でもほんのちょっとだけ、女子が集まるのはまだ少し……怖い……
無意識に唇を噛み締めた