秘密から始まる青い春
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東京合宿には音駒のあのセッターも居る
それに他の学校もスゲェやつらが集まってるはず
そんなヤツらと毎日バレーが出来るんだ、日向と同じく興奮しないワケが無い
部室から出て、外でのランニングへ向かう足がいつもより若干軽い感じがする
でもふと違和感があって足元を見ると、靴紐が解けていた
しっかりと結び直し身体を起こせば、皆の姿はもう無い
追いつこうと駆け足で走り出して、角を曲がろうとしたその時
『わっ!』
「ーっ、苗字!」
バッタリと彼女に会った
『影山くん?ゴメンね、もう皆走りに行ったのかと思ってて』
ビックリしたぁ、と言いながら落としたドリンクを拾おうとする
見れば苗字は両手いっぱいにそれを持っていた
「悪ィ、大丈夫か?一緒に持ってくぞ」
『ええ!そんな、大丈夫だよ!』
「でもコレ全部だと重てェだろ?」
『あ、これ全部中身カラのヤツだから軽いよ!ありがとう。大丈夫、影山くんは練習に行って』
ニコッと笑って、ほら軽いでしょ、とでも言う様にドリンクを掲げる
でもその華奢な手を見て思い出した
あの時の月島にしっかり握られた苗字の手を
アイツはまた彼女に触れた
それも堂々とこれ見よがしに
オレなんかあの散歩の途中に会った時の一瞬、そん時にしか触れた事なんて無いのに
それだけでも嬉しくて、舞い上がって
寝付けなかった程だった
なのに月島はあんなにガッツリと…
ふつふつ、と怒りが思い出した映像と共に甦る
やっぱり納得いかねェし、アイツが触った所…オレも触って上書きしてやりてェ
「…なぁ、苗字」
『なに?』
すべて拾い終わった苗字が立ち上がってオレを見る
真っ直ぐに彼女を見返すオレに苗字は目をパチパチさせた
でも…その後の言葉がなかなか出て来ない
つーか、なんて言えばいいんだ?
オレと手を繋いで下さい?…んな、いきなり?それとも月島に近寄るな?いや、なんならヤツは悪魔だ、とか?でも、んなこと言って苗字が納得するはずねェし
黙るオレに苗字は首を傾げる
『影山くん?どうしたの?』
苗字が心配そうにオレを見つめる
それでも…何も言えない
どんどん自分の顔が歪むのが分かる
あーっ!苗字に触れる為の良い言い訳が思いつかねェっ
『影山くん、なんか苦しそうだよ?今日の坂道ダッシュ止めとく?』
思い悩んでいたオレはそこでハッとした
坂道ダッシュ!それだ!
「苗字!」
『は、はい!』
オレの声に背筋を伸ばす苗字
「もし…!もし月島っ…いや、全員に坂道ダッシュで勝ったら…!」
『か、勝ったら…?』
「オレとっ!手を繋いでくれ!!」
『ーーー!!………!?』
…………
………………
………………………
『あ…、えっと…よ、良く分からないけど……わ、私で良ければ……ハイ』
「よろしくお願いしますっ!!」
苗字の返事にお辞儀をしながら、右手をバッと差し出す
『こ、こちら、こそ…?』
おずおずと苗字も手を出してくれ、オレの手と重なった
それをガッシリと掴み、ブンブンと振る
その動きにまたバラバラとドリンクが落ちたので、素早く拾い彼女に持たせると
「じゃ、行ってくる」
そう言い残し、走った
コレで…コレで苗字の手に触れられる
自然に、月島みたいに無理矢理じゃなく
苗字の温もりを独り占め出来るっ…
思わず顔の筋肉が緩むのを感じた
「おい、影山遅いぞ!早く並べ!」
キャプテンが手を挙げて呼ぶ
日向の横に着くと「遅ぇーぞ!」と喚かれた
「何やってたんだよ、ウンコか?」
「は?お前と一緒にすんな」
「今日も負けねぇからな!」
「…………」
「影山?」
「…絶対に、今日は負けねェ」
前を見据え、そう呟いた
***
か、影山くん…一体何だったんだろう…
彼が走って行った方角を呆然と見つめた
いきなり手を繋いで下さい、なんて…
まるで告白でもするみたいな感じで言うから
ちょっと、ドキドキしちゃった…
そして握られた手を見つめる
と言うか、さっきのってもう繋いじゃってるよね…?
ギュッと強く掴まれた手はまだ温もりと影山くんのガッシリとした存在感が残っていて
それをキュッと握ると、先程の一生懸命な影山くんにふと、笑みが溢れた
可愛いなぁ、影山くん
…女の子の手が気になったのかな?
でも影山くんにあんな事を言われて、悪い気はしない
寧ろ嬉しかった
影山くんのあの真っ直ぐな所、本当に良いなぁ
…坂道ダッシュ頑張ってね
件の坂道がある方向へエールを送る
だけどそこで、影山くんにバッタリ会う前に考えていた、心の引っ掛かりを思い出した
それは武田先生が取り付けた東京合宿
まさか……音駒高校との合宿になるなんて…
いずれは、とは思っていたが…こんなにも早く彼らに会うきっかけが訪れるとは…思っていなかった
少し…気が重い
そんな事を思っていると「あ、居た」と声が掛かった
『清水先輩、スミマセン今行きます!』
「ううん、ありがとう。ドリンク全部任せちゃってゴメンね」
『これぐらい大丈夫です。こちらこそ、先輩に勧誘の仕事任せちゃって申し訳ないです』
「何言ってるの、新しいマネージャーの勧誘ぐらい先輩の私がしないとね」
そう言って笑う先輩はやっぱり頼もしい
少し前に清水先輩から話しがあると言われて聞けば、なんと新しいマネージャーを勧誘したいとのことだった
新しくマネが増えるなんて、出来る事も増えそうだし、何よりもっと楽しく仕事が出来そう
などと思っていた私はふと別の事に気付いて青ざめる
『……そ、それって私の仕事が出来無さ過ぎてってことじゃ…』
「まさか!名前ちゃんはしっかりやってくれてるよ、名前ちゃんが入ってくれて私も嬉しいし、仕事は捗るし…結構頼りにしてるんだよ」
優しくそう言われて不覚にも涙が出そうになる
『よ、良かったです…』
「でもね、私はもう来年には居ないし、しっかりと部員達を支えて、時には引っ張って行ってくれる力がもっと必要だなって思って」
先輩は外に視線を向け、遠くを見つめた
「私が今この時に、部の為に出来る事ってなんだろうって思った時に、もう一人マネが居たらって思ったの」
先輩の横顔がキラキラ輝いてみえる
「だから、マネを増やしたいって思ったんだけど、どうかな?」
視線を戻した先輩に、YESの言葉以外出てこない
『もちろん!私も賛成です』
そう笑顔で応えた
「ありがとう。きっと名前ちゃんの良い相方になってくれる人が居ると思うから、よろしくね」
『はいっ!』
先輩の決意を先輩の努力を無駄にだけはしないと、心に誓った