秘密から始まる青い春
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ボールが弧を描いて
相手のコートに吸い込まれていく
だけど…
「おっしゃぁ!」
それは容易く西谷さんに受けられ、ボールはまた弧を描く
あーっ、正面に打っちゃったしちょっと弱かった
練習しているジャンプフローターサーブはまだまだ未完成
肩を落とす暇も無く、コートの中に入った
試合形式でのチーム戦
これで2試合目
ツッキーがスパイクを打とうとして、フェイントを入れる
それに引っかかってブロックに飛んだ影山と日向を「ホント面白いくらいに引っかかるね」とツッキーがおちょくれば、影山は思った通りに憤慨していた
それを見ていたらさっきの光景を思い出す
苗字さんと清水先輩が去って行った後
ツッキーは「行くよ、山口」と俺に声を掛け、何事も無かった様に立ち去ろうとしたんだけど
「おいっ!」
影山はそれを許さなかった
…だけで無く、面倒くさそうに振り返るツッキーの手首を突然掴んだ
「ーーなっ!!」
驚愕した顔のままフリーズしているツッキーを無視し、ツッキーの手のひらを自分の袖でゴシゴシと拭う影山
「ちょっ…!何すんの!汚いじゃん!」
バッと腕を振り解き、もの凄くイヤそうな顔をするツッキーは汚いモノでも付いたかの様に手をペッペッと振った
それに満足そうにニヤリと笑い返した影山は足早に部室へと向かって行った
「…ねぇ、ツッキー今のって」
「行くよっ、山口」
「え、あっ…」
語気を少し強めて呼ばれた声は明らかに不機嫌で
部室に向かおうとするツッキーに遅れまいと慌てて駆け寄った
さっきまでの愉しげだったツッキーの様子が反転して悪くなっている
理由はさっきの影山とのイザコザで明白だ
まさかツッキーと影山がそんな事になってるなんて
でも、あんなに楽しそう…と言うか嬉しそうなツッキーは本当に珍しい
それはやっぱり……
「ツッキー!」
少し大きい声で呼ぶと、ツッキーは足を止めてくれた
俺は励ます、と言うよりは応援するキモチの昂りで言う
「苗字さん、ツッキーに助けてもらって、とっても嬉しそうだったよ!」
興奮する自分とは反対にツッキーは少し驚いた表情をしたが、直ぐにいつもの顔に戻った
「そ、なら良かった」
いつもの声のトーンでそれだけ言うと前を向いて歩き出す
「早く来ないと置いてくよ」
あ…ツッキー今、絶対笑ってる
顔は見えないけど、雰囲気が背中が、さっき苗字さんと手を繋いで歩いていた時と同じ様に
柔らかな空気にまた包まれたのを感じて
何故か俺まで嬉しくなった
コートにボールが落ちた
「ああ、クソっ!」
日向が「あともうちょっとだったのに!」と叫ぶ
俺はそれを横目にフゥっと息を吐いて、コート脇にいる彼女を見た
苗字さんは清水先輩と何やら話しこんでいる
その清水先輩の横に居ると……やっぱり申し訳ないが、どうしても少し地味に見えて
どうやってツッキーや影山が彼女と仲良くなって
そしてどうして2人が恋敵みたいな事になっているのか
そこがどうしても分からなかった
だって彼女はいつも教室で大人しく、パッとしない
それからいつもひとりでお弁当を食べ、そして誰とも関わらずに帰って行く様なひと
ツッキーとは小学校からの付き合いの中で、告白された話しは数えきれない程あるけど、それで付き合ったと言う話、はたまたツッキーの方から気になる子が居るなんて話は今まで一度も無かった
そう、苗字さんを除いて
確信的な話はされてないけど、教室で彼女を庇った行為といい、その後の人目を憚らず手を繋いだ行為といい、明らかに好意を寄せているのは明白だ
あんなに分かり易いツッキーは本当に珍しい
でも何故彼女に惹かれたのかは分からない
ツッキーの事だから外見で惹かれるって言うのもあまり無さそうだけど……
そもそも苗字さん、前髪伸ばしてて、あまり顔とかわからないんだもんなぁ……
そして最大の謎は影山だ
クラスも違うし、接点も全く無さそうな影山と彼女が、どうやったらそんなに親密になるものなのだろうか
影山の性格も相まって、全く想像がつかない…
と、3人についてグルグルと考えていた時だった
バーンっ!と勢いよく開いた扉から先生が倒れ込んできた
「先生!?」
「武ちゃんっ!?」
その様子に皆わらわらと集まってきた
「皆さんっ、全員揃ってますか!?」
顔を上げた先生の鼻から血が滲む
先生、どんだけ勢い良く転けたんですか…
「鼻血、出てます!」
影山が冷静に突っ込む
しかし先生はその勢いのまま、口を開いた
「東京!行きますよね!?」
「「東京??」」
「はい!東京合宿!」
興奮した先生は続けた
なんでも東京の梟谷学園グループの合宿に参加させてもらえるらしく、皆んなの意見を聞きに来たと言う事だったが
「…聞く必要も無かったですね!」
皆んなの顔を見回して、満足そうに笑う先生
「では、これから職員会議なのでまた連絡をしておきます!」
そして来た時と同様、バタバタと体育館を後にした
いきなりの東京合宿……スゴく楽しみだけど、んー…不安だ
こうなったら、ガムシャラにもっともっと頑張らないと
ひとり自分に気合を入れていると、先輩達が話しているのが聞こえた
「清水達も初の合宿だな、忙しくなるべ」
菅原さんが清水先輩達にそう言うと
「うん、私達も頑張る。ね、名前ちゃん」
『………』
「名前ちゃん?」
『…あっ!はい、頑張ります!』
一瞬何かを考え込んでいた苗字さんは清水先輩の声に顔を上げた
そして2人して頷きながら両手をグッと握り締める姿に
先輩達と同じく、俺も首を捻った