秘密から始まる青い春
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ぐいぐいと引っ張って歩いて行く月島くん
その背中が何故か楽しそうに感じるのは、何でなのだろう・・・
と言うか・・
月島くんの言っている意味がわからない
手を離すだけなのに、面倒くさいってどう言うことっ・・!?
やっぱり私、月島くんにからかわれてるんじゃ・・・
目の前で揺れる大きな背中を見つめる
少し前に私の視界を遮ったその背中
・・・ううん、違う
人をバカにした向こうの視線を、歪な空気を遮ってくれた、私と違う男らしくて、優しいその背中
月島くんはその背中で、私を守ってくれて
何も出来ない私の手を取って、自分の事は顧みず助けてくれた
たぶん、ああ言う事で目立つことはキライな人だと思う
それなのに私の事を庇って、それだけじゃない、本当はこんな事したくなかったはずなのに、人前で手を繋ぎ連れ去ってくれた
そして
“大切な“マネージャーって・・・言ってくれた
その言葉を聞いた瞬間、心臓の鼓動が
恥ずかしいのと 嬉しいので跳ねたのを感じた
くすぐったい・・・
でも・・・“私は“、勘違いしないようにしないと
月島くんはあくまで、マネージャーとして大切って言ってくれたんだから・・・
クラスメイトに向けて言った事も、たぶん彼にとっての冗談
私がバレー部のマネージャーだったから、助けてくれたんだ
そう自分に言い聞かす
それでも・・・月島くんが私を庇って言ってくれた事でも・・・大切って言ってくれて、すごく嬉しかった・・・
繋がれた月島くんの大きな手を見て
自然に緩む口許を隠す様に少し下を向いた
***
廊下の角で突然月島くんの足が止まった
危うく彼にぶつかりそうになって、慌てて私もつま先でブレーキをかける
危ない、危ない・・・そのまま月島くんの背中に突っ込むところだった
胸を撫で下ろして、何故急に立ち止ったのか理由を知ろうと顔を上げると、そこには月島くんと影山くんがお互いを嫌そうに見ていた
『あ、影山くんっ』
私の声に気付いて、視線が合い「苗字!」と嬉しそうに声を掛けてくれたのだけれど・・・
繋がれた私と月島くんの手を見て、固まった
そして、さっきのなんか非じゃないくらいに、顔を歪める
そうだった・・・!月島くんと手を繋いだままだったっ!どうしよう・・・
『え、えっと・・・わっ!』
弁明しようとした私の手を、月島くんはグイッと引き、自分の背中の方へと私の体ごと隠した
「ーーっおい!月島っ!」
「何?急いでるんだから、退いてくれる?」
影山くんの怒鳴り声に物怖じする事なく、月島くんは私の手を引いて、彼の横を通り過ぎようとした・・・んだけど・・・
ガッと勢いよく繋がっていない方の腕を、影山くんが掴んできた
「待てよっ!」
ギロッと月島くんを睨みつけながら、私の腕を引っ張る
月島くんもその様子に足を止める
そして影山くんを不機嫌そうに睨んだが、手は、やっぱり離してくれない
「なに勝手に掴んでんの、離しなよ」
「ああ“?テメェの方こそ離せよっ!」
私の頭上で睨み合う2人に、どうしたらいいのか分からず、キョロキョロと交互に頭を振る
え、ええー・・・これってどうしたら・・・
「ツ、ツッキー!苗字さん!」
あ、
『山口くんっ!』
たぶん様子を窺っていたのだろう、ナイスなタイミングで現れた山口くんは、近くまで来ると、私と同じ様に2人を交互に見た
山口くんの言葉なら、二人とも聞いてくれるはずっ・・・
「苗字さん困ってるよ、その・・手 離した方が・・」
「それは王様に言ってるんだよね、山口」
「あ?山口はお前のダチだろっ!だったらテメェに言ってんだろーがっ!」
ああ・・・ダメだ、山口くんでも聞いてくれない
山口くんと目が合うと、彼は申し訳無さそうに眉を下げて“ゴメン“と手を合わせた
私はフルフルっと頭を振る
山口くんは悪くない
逆に巻き込んでしまって、なんだか申し訳ない
未だに2人は睨みあって、グイグイとそれぞれが私の手を引っ張ってくる
どうしよう この状況
どうやったら二人とも落ち着いてくれるんだろう・・・
あわあわと山口くんと一緒に困り果てていると
「あっ、名前ちゃん!」
廊下の向こうから聞き慣れた綺麗な声が響いた
全員でそちらを振り向く
『清水先輩っ!』
そこには可憐な姿の清水先輩がコチラに向かって歩いて来ているところで
側まで来た清水先輩は「丁度良かった」と笑い掛けてくる
「名前ちゃんに話しておきたい事があって……で、大丈夫?」
と現在の私たちの状況を見て、瞳を少し鋭くする先輩
慌てて一斉に手を離すと、私は先輩に向き直った
『あ、はい、大丈夫ですっ』
苦笑いをする私に「…そう」と言いながらも、月島くんと影山くんに視線を動かしたのが見えた
あー…絶対に怪しんでる…
変な所見られちゃった…しかも清水先輩に…
でもこれには深いワケがあるんですっ…先輩
「…じゃあ行きながら話そっか」
『えっ…あ!はいっ』
グルグルと言い訳を考えていた私に、清水先輩はそれ以上何も聞かず、いつもの様に優しく促してくれた
足を進める先輩に付いて行こうとして、思い直し振り返った
『またっ、後で!』
3人に手を振る
山口くんだけ振り返してくれたけど、月島くんは表情を変えず、影山くんに至っては面白く無さそうな顔をしている
だ、大丈夫だろうか…
2人の事は気になるが、部活前に清水先輩から話があると言われれば、聞かない訳にはいかないし、それはきっと重要なことに違いない
頭を切り替えて先輩の後を追おうと踵を返す
だけど冷たい空気が久しぶりに触れる自分の掌に
視線を落とす
そこに少しだけ寂しさみたいなモノを感じながら、気付かれない様に掌を握り締めた
温もりを少しでも逃がさない様に…
「そんなに急がなくて良いよ」
駆け寄る私を気遣ってくれる先輩の顔を覗き込む
『大丈夫です!それで清水先輩、私に話って何ですか?』
「話し?んー、特に無いかな」
悪戯っぽく笑う清水先輩に、思わず目が点になる
『え、あっ…ど、どう言う、』
え、なんだろう…清水先輩式のジョーク?
狼狽える私とは正反対に先輩は更に続ける
「だってさっきの名前ちゃん、結構困ってる顔してたから」
さっきって…月島くんと影山くんに引っ張られていたあの状況の事ですよね
先程の光景を思い浮かべて顔が熱くなってきた
そしてふと、先輩の考えに気付いた
てことは清水先輩もしかして…
『もしかして、それで声掛けてくれたんですか?』
私の問いに
「名前ちゃん、クセの強そうな2人に気に入られちゃったみたいだね」
少し面白そうにそう言う清水先輩に、更に顔が熱くなる
それと同時に流石だなぁ、と感服した
だけど先輩の鶴の一声であの場を収めてくれたのは有難いが、それについては勘違いである
『あ、あれはそのっ…違うんですっ!』
と言い訳を探して口をパクパクさせるだけの自分に先輩は「慌て過ぎ」とまた微笑む
でもふと足を止めて振り返った清水先輩は、真面目な凛とした表情に変わっていて、思わずドキッとした
「さっきの話し。話す事が無いって言うのは冗談で…実は相談があるの。マネージャーの事でね」
『マネージャー…ですか?』
コクリと頷く先輩の表情は真剣そのもの
私はそれに応える様に先輩に向き直り、背筋を伸ばしたのである