秘密から始まる青い春
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手を握るなんて
そこまでするつもりは無かった
ただ、苗字をあそこから、出来るだけ早く引き離したかっただけ
でも彼女の反応と、あの場の雰囲気に
咄嗟に出た僕の手は、小さな彼女の手を取って、連れ去っていた
そしてそれが 間違っていなかったと
握り返してくる小さな温もりに
感じとっていた
***
『つ、月島くんっ』
遠慮気味に発せられた声に、やっと僕の足は止まった
振り返って彼女を見下ろす
『あっ・・・』
目が合うとサッと視線を下げて、申し訳なさそうに呟いた
『その・・・ゴメンね』
「何で苗字さんが謝るの?」
間髪入れずに言った僕の言葉に、顔を上げた彼女へ更にこう言った
「悪いのは向こうデショ、苗字さんは巻き込まれただけで」
『そうだけど・・・月島くんに、迷惑かけちゃったから』
「迷惑・・?そんな事、僕がいつ言ったの?」
彼女の考えている事は大体分かる
どうせ、彼女を庇った事でクラスでの立場が悪くなるとか、やっかまれるとか、そんなこと考えているのだろう
「勝手に僕が間に入って、勝手に連れて出ただけ。それ以上も以下も無いよ」
眉を下げて、何も言えずに僕を見つめる苗字にそう言った
こんな時まで他人の心配するぐらいなら、自分の心配すれば良いのに
それでも彼女は『でも・・・』と口を開く
『あ、あんな言い方したら、勘違いされちゃうよ?』
あんなって・・・最後に言った“僕らの邪魔をするな”と言ったことだろうか
“僕ら”の意味は部活の事もそうだケド、苗字との間を邪魔するな、と言う意味も勿論、含まれている
だからそう
「勘違い、させてやればいいじゃん」
澄ました顔で、大きく見開いた瞳を見た
「僕はそれでも構わないケド」
苗字さんは、嫌?
少し首を傾げながら、そう告げると、苗字は頬を染めて、狼狽えた様にまた視線を逸らせた
思った通りの反応をする彼女
ホント、面白いくらいに素直で 愛らしい
そんな風に思っていると、苗字はふて腐れたように少しだけ上目遣いで睨んできた
予想外の表情に、今度は僕の方が不意を突かれる
『月島くん・・・からかってる?』
その言葉と表情に、苗字のキモチを察した
・・ああ、そう言うこと
彼女は僕がまた、冗談を言ってると思ってるんだ
それもまぁ仕方がないか
苗字の反応が可愛くて、毎回つい、からかってしまうから
でも、からかってるだけで、苗字に対してはいつも
本気だけどね
「・・・さぁ、どうだろう」
ニヤッと、明らかに含みを持たせた笑みを彼女に向けた
苗字はそんな僕の顔を見て、まるで“困ったひとだな“っと言いたげに、笑って
『ありがとう・・・月島くん』
そう呟いた
彼女の言葉に満足した僕は、もう一度笑って言う
「じゃあコレで貸し2つ目ね」
『それって、この前のっ・・!』
やっぱり月島くん、ズルいっ!としかめっ面をする苗字の様子に、安心した
良かった、いつもの苗字だ
教室の中の無表情なんかじゃなく、僕に見せるコロコロ変わる表情が愛くるしい
『あと、その・・・コレ、』
僕がホッとしていると、苗字は握られた手を見つめ、恥ずかしそうにポツリと零す
たぶんもう大丈夫だから、手を離してくれと言っているのだろう
「・・・ああ、ゴメン」
一応カタチだけ謝ってみたものの、当然離す気なんてサラサラない
「面倒くさいし、このままでイイデショ?」
『えっ・・!面倒くさいって・・』
「行くよ」
まだ何か言いたそうにしている苗字の手を、少し力を入れて引っ張る
『ちょっ・・・!』
そのせいで身体が前のめりになり、慌てた様にタタっと駆け足で着いてくる苗字
その慌てぶりも、足音さえも
愛おしく感じて
距離を取り、僕らを見ている山口の事も忘れ、僕は苗字の手を引く
本当にこのまま
彼女とふたり
何処かへ行ってしまいたい衝動に駆られながら
緩む顔を見られない様に歩いた