秘密から始まる青い春
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それはホームルームが終わり
部活に行く準備をしていると、先に支度が整った山口が、「ツッキー!部活行こう」と駆け寄って来たところだった
「あのー・・月島くん」
聞き慣れないその声に顔を上げる
そこにはクラスの女子が目の前に立っていて、視線が合うとニコッと笑った
彼女の後ろにはもう二人、たぶん友達か何かだろう、一緒になって笑っている
その笑顔に何故か嫌な予感が走った
「・・・なに?」
「月島くん、バレー部なんだよね?」
「そうだけど・・・」
「私、バレーってテレビでしか見た事なくて・・・」
照れ隠しなのか、何なのか分からないケド
彼女は片手で自分の頬に触れたまま、少し俯き、それから上目遣いで僕を見た
ああ・・ この自分可愛いでしょっ、て顔に書いてある感じ・・・
凄く苦手
「良かったら・・・月島くんがバレーしてる所、見学させてくれないかなぁって」
少し身体をくねらせ、「ダメ、かなぁ・・」と瞼をパチパチさせる彼女を冷めた目で見ていた時だ
「ね、苗字さん、いいっしょ?」
突然聞こえてきた苗字と言うワードに、反射的に顔を上げて、声のした方を見た
『あの・・・私、遠慮します』
小さくそう話す苗字に、さっきの声の主である男が「えー!」と声を上げた
あいつ・・・昼に騒いでた連中のひとり
「何で!いいーじゃん、どうせこの後予定なんてないっしょ?」
だから、俺とカラオケでも行こうよー!そう言いながら、苗字に近寄る
『予定、あるので・・』
「そんなのないっしょ、強情だなぁ・・・」
ハァ・・とソイツがため息をついた所で背後からヤジが飛んだ
「おいおい、全然ダメじゃん!負け犬ー!」
「うるせーな!クソッ・・・!ゲームで負けさえしなけりゃこんなっ・・」
ソイツは悔しそうに奥歯を噛み締め呟いた
「ツッキー、あれって・・・」
隣りで山口が声を漏らす
たぶん、同じことを思っているのだろう
・・・ふーん
お昼に騒いでたのはそう言う事・・・
ゲームか何か知らないケド、それに負けたらバツとして苗字にアプローチ掛けるとか
そんな事に彼女を利用して、くだらないことに巻き込んで
このクラスって、こんなバカばっかりだったワケ
ふつふつと、腹の底から酷い不快感がして顔を歪めた
「な!いいから一回付き合えよっ」
後に引けなくなったソイツは、イラついた様子で、一歩足を引き、後退りする苗字に、今にも掴みかかる勢いで詰め寄った
・・・いや、近すぎデショ
「何アイツら、苗字さんみたいな地味な人からかって、何が楽しいワケ?」
僕の前で腕を組んで忌々しそうにそう呟く、自分大好き女子の横を通り過ぎ、目の前で好き放題やってくれてるソイツの所に向かった
「つ、月島くん?」
後ろから少し驚いた様にその女子が声をかけるケド、そんなのは無視
ただ、いい加減に、彼女の周りを取り巻く汚れた空気から
苗字を連れ去りたかった
***
「苗字さんっ!頼むって、毎日暇でしょ?」
しつこいその男子はまだ懲りない
まるで“どうせお前は暇だろ、さっさと俺の要求を飲め“、とでも言う様に顔を引きつらせながら私にそう言った
でもね、さすがに 頭に来た
人が反抗しないのを良いことに、好き勝手言いたい放題
大体さっきのヤジと言い、人を罰ゲームに使うなんて・・・
流石にこのまま大人しく引き下がることは、もう出来ない
そう思って口を開きかけた所だった
横からズイッと大きな影が、突然現れて
私を庇う様にそれは佇んだ
ーーえっ・・・
思わず後退りして見上げると、ヘッドフォンを首に掛けた月島くんの横顔が、そこにはあって
な、なんでっ・・・
驚いて声も出ない私を余所に、月島くんは相手を睨んだ
「・・・ウチのマネージャーに何か用?」
月島くんの言葉に教室の空気が変わった
表情は分からないけど、あからさまなその声に機嫌が悪いことを感じる
チラッと覗くと、からかって来た男子はその空気にたじろいでいる様子で
「つ、月島・・!何だよ、お前には関係ねー・・・ん?マネージャー?」
「苗字さんは大切なバレー部のマネージャーだケド、なに?」
ドスを効かせたその声色は、明らかに怒っている
月島くんの雰囲気に周りもざわつき始めた
「え、苗字さんってバレー部のマネージャーだったの?」
ウソっ全然知らなかったぁ、と女子のコソコソ話しが聞こえてくる
そりゃそうだよね、私がまさかバレー部のマネージャーしてるなんて誰も思わない
いつも教室で独りぼっちの根暗そうな私がーー
タタっと誰かが近寄ってくる足音がして、振り向いた
「苗字さん、大丈夫?」
心配そうに山口くんが駆け寄ってくれる
『うん、大丈夫』
そう返事をした所で月島くんがハァー、と呆れたように長いため息を漏らした
「・・・ホント、くだらない」
冷たい空気を纏いながら吐き出すように彼は言う
「こんな子供じみた事して、恥ずかしくないの?」
ダサっ、と刺々しく相手を見下ろした
男子は言葉を失って、それでも月島くんを悔しそうに睨んでいる
「悪いケド、苗字さんも僕も暇じゃないんだよ、キミらみたいに」
月島くんはそう言って相手を一瞥し、「苗字さん」とコチラを振り向いた
「行こ」
さっきとは打って変わって、優しい声で微笑む月島くんに思わず見惚れていた私の手を、少し強引に取って歩き出す
『わっ、』
え、えっ・・・て、手っ・・!
うそっ!とか何でっ!とか周りからも女の子の悲鳴が上がって
月島くんてやっぱりモテるんだな、と頭の片隅で思っていると
「あ、」
出入り口で月島くんが思い出した様に足を止めた
「見学、別に来ても良いケド、僕らの邪魔だけは・・・しないでよね」
その言い方はまるで脅迫
ダメ押しに、それだけ言うと、また手を引いて歩き出した
私たちが出た後の教室から、キャーっ!と女子の叫び声が上がっている
後ろを振り向くと、山口くんが「ツッキー!」と後を追う様に教室から出て来た
ああ・・・私がちゃんと対処出来ていれば、月島くんは普段通りで居られたのに
月島くんの日常を壊してしまった
彼の席の近くで佇んでいた彼女の顔が思い浮かぶ
教室を出る一瞬に見えたその瞳
私はあの目を良く知っている
アレは・・・憎悪の目
私のこと 憎んでる目だった
過去の残像が脳裏に浮かんで
私は無意識に
彼の手をギュッと握り返していた