秘密から始まる青い春
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ツッキー!今日もいいん、、」
「分かったって、うるさい山口」
この前も聞いたセリフに嫌気がさし、今日は自分から会話を遮った
ゴメン、ツッキー!と何故か少し照れたように笑い、ツッキー!後でねー!とダッシュで行ってしまった
教室を見回すともう彼女の姿はない
少しゆっくりと帰り支度をして教室を出た
はやる気持ちを抑えながら、いつもの場所へ向かう
***
「ん?」
部室に向かおうとしていた俺の目に入ったのは、ヒョロヒョロな長身の姿
あれはどう見たって月島以外の何者でもない
「あんな所で何やってんだ、あいつ・・」
そう言えば最近、部活に遅れて来ることが多い
「・・チッ」
少し考えた後、俺の足は部室と反対に進んでいた
「この辺のはず・・」
キョロキョロと辺りを見回すが月島の姿はない
つーか、なんでわざわざ俺があいつを探してるんだ
なんかイライラしてきた・・
「あー!どこ行ったんだ、あのクソボケェ!」
グシャグシャと頭を掻き毟った時
ポロンっと楽器の音がどこからか聴こえた
音の先を見るとひとつの教室から月島の頭が見える
「あのヤロウ・・あんなとこで何してやがる」
勇足で教室の前まで進む
「オイ!月し・・!」
声を掛けようとした瞬間、音の正体と、夕陽を浴びてオレンジ色に輝くそのひとに
目を奪われた
***
今日もこうして
誰もいないここで
たった十数分の時を
彼女と過ごしている
今、ここには彼女と僕しかいない
彼女の声を独り占め出来ている優越感を存分に噛み締めていた
でも・・
それは突然
視界の端に現れた
か、影山・・!!
思わず椅子から立ち上がりそうになったのをなんとか留まり、何故あいつが今ここに居るのか、、
いや、それより・・
影山の視線がある一点で止まっていることの方が僕の何かを焦らせた
「・・何してんの」
口を半開きにしていた影山が僕の声に反応して振り向く
「あっ?それはこっちのセリフだろ」
ムッとした表情でこちらを睨む
「・・いつからそこに居たわけ」
演奏に集中している彼女を横目で見ながら突然の訪問者に聞く
「て言うか、何でここに居んの?部活は?」
「はぁ?ふざけんなよ!お前こそ部活に行かずにこんなトコでなにしてんだよ」
「・・王様には関係ない」
早く部活行きなよ、と目で威圧する
この空間から
一刻も早く
コイツに出て行って欲しかった
数秒の間睨み合っていたが、また苗字の方へ視線をやる影山
「・・お前、ここにアレ聴きに来てるのかよ」
「・・言ったよね?キミには関係ないって」
一向に出て行く気配を見せない影山にとてつもなくイライラする
「いつまでここに居る気なの?バレー馬鹿は早く部活に・・!」
僕が言い終わる前に影山は演奏中の彼女に近寄った
「ちょっ・・!」
僕の制止なんか全く聞いてない
これだから・・!天然バカはキライだっ!
そのまま影山は彼女の横に立った
さすがに気配を感じたのか、苗字が驚いた様に演奏を止め、影山を見上げている
「っす!」
ペコっと頭を下げた影山に固まったままの苗字
「あの!」
すぅーっと息を吸い込む影山が次に放った言葉は予想外すぎて目眩がした
「俺も、ここに聴きに来ていいっスか!」
***
『えっ!あのっ・・』
一体・・どう言う状況・・?
「影山!」
後ろから月島くんの珍しく大きな声が聞こえて振り返る
「なんだよ」
「・・いい加減にしなよ、迷惑なのわかんないの?」
「あ?じゃあお前はどうなんだよ!」
「僕はキミとは違う」
「は?意味わかんねーし」
言い合いを始めた2人にどうしたらいいのか分からず、オロオロと交互に2人を見遣ることしか出来ない
と言うか
月島くん 怒ってる?
「・・とにかく、ここから出よう・・ 話はそれから、、」
「俺、影山!バレー部所属、あんたは?2年?」
突然くるりとこちらを向いて質問をしてくる影山くん
月島くんの声はまるで聞こえていないかのようだ
バレー部ってことは、月島くんと一緒なんだ
『あ・・えと、1年だよ』
「ふーん、同い年か。名前は?」
真剣な眼差しに口が勝手に動く
『苗字・・名前』
「苗字、さん」
ボソッと繰り返す影山くん
「もう一度聞くけど、聴きに来てもいいっスか?あんなに音楽で衝撃を受けたのは初めてで、また聴きたいって思いました」
キラキラした瞳で
「よろしくお願いしまっス!」
勢いよく頭を下げられ
『よ、よろしく・・』
そんなことを言われたら、拒否も何も出来ない
「サンキューな!」
顔を上げて、綻んだ顔で握手を求められ、思わず手をだそうとしたけど、、
ハァー、と盛大なため息に月島くんを見ると
とっても不機嫌そうにコチラを見ている
「バッカじゃないの・・、王様・・馴れ馴れしいよ」
くいっと眼鏡を直した奥の瞳が鋭い
「苗字さん、やめといた方がいいよ」
バカがうつる
その言葉に影山くんが声を荒げた
「ああ?月島!テメェなんつった!」
「本当のことを言ったまでですー」
ヒートアップしていく2人に
このままだと納まりがつかないと感じた
『ケ、ケンカをするなら、私弾かないです!』
私の言葉に月島くんににじり寄っていた影山くんが止まった
2人の視線が私に向く
『こ、こんな雰囲気で、音楽は奏でられない・・から、仲良く聴いて・・欲しいです』
せっかく・・
せっかく私の演奏を聴きたいって言ってくれた2人がいがみ合う姿
見たくない・・
2人は顔を見合わせ、その後しばらく睨みあっていたけど、、
「・・苗字さんがそう言うなら、仕方ないね」
月島くんが全く、と言うように小さくため息をついた
「っシ!」
「・・ナニ喜んでるの」
ガッツポーズをする影山くんを冷めた目で見ている
「なぁ!苗字はいつもここでピアノ弾いてんのか?」
『う、うん・・週2回ほど。いつも、聴きに来てくれるんだ、月島くんが』
ニコッと月島くんに笑いかける
少し驚いた表情の後、口もとを手で隠して視線を逸らされた
あれ?また、変なこと言っちゃったかな・・
「ふーん・・月島が・・」
「ナニ?その顔」
「べぇつにぃー」
「・・ホント、イラつく」
『あっ・・!も、もうこんな時間!2人共部活行かないと!』
いつもより時間が過ぎてしまっている
このまま放っておくとまたケンカが始まりそうだし、、
「おう!じゃあまたな」
「・・またが来ればいいけど」
「あぁ?」
結局2人は言い合いをしながら扉へ
でもそこで月島くんがこちらを振り返った
「・・また、明日」
じゃあ、と遠慮気味に片手をあげ扉を閉めた
嵐が過ぎ去った後の静けさに
大丈夫なんだろうか・・
とひとり肩を落とした