秘密から始まる青い春
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インハイ予選
青葉城西に負けた
影山の言う様に、及川徹は強かった
だから仕方がない
ただ それだけ
三年生は残るのだろうか
ふと、数学の授業中、そんな事を考えた
負けた時の皆の顔が思い浮かぶ
・・・ま、僕には関係ないケド、と窓の外を見上げた
そんなことより、試合前に言っていた彼女の言葉の方が気になる
ーー落ち着いたら、ちゃんと話すから・・・
確かに彼女はそう言った
・・・何故、今更それを僕たちに言う気になったのだろう
ぼんやりと窓の外を見ていた視線を黒板の方へ向ける
そこにはいつもの華奢な後ろ姿が目に入って
そこだけ雰囲気が違う様に感じるのは、僕だけだろうか
・・・東京で、彼女に何があったのだろう
そしてそれをいつ話してくれるのか
誰にも気づかれないくらいの、小さなため息を僕は吐き出した
***
「ねぇ、ツッキー」
弁当を広げながら「なに、山口」と返事をすれば
「そろそろさ、誘ってもいいんじゃない?」
と少し小声で意味深な事を言ってくる
「誘うって、なにを?」
「苗字さん」
突然出たその名前に弁当箱の蓋を開けていた僕は、ピタッと動きを止めて、目の前で同じ様に弁当箱を広げる山口を見た
そんな山口は僕の顔を見ると、ん?とでも言う様に小首を傾げる
「・・・なんで?」
「え、なんでって・・・」
僕の言葉に山口は視線を泳がせ、言いにくそうに頬を掻いた
気になるんだったら、お昼くらい一緒に食べたら良いのに、とでも言いたいのだろう
山口とは苗字について、あれ以来喋った事はなかった
別に避けているつもりはないケド、今更特に向き合って言うことでもない気がして、そのままにしている
「・・・ほ、ほら、苗字さんマネージャーなんだしさ、お昼くらい一緒に食べても・・・」
「僕はいいよ、声掛けて迷惑になっても嫌だし」
今まで教室で彼女に声を掛けた事はない
音楽室で会うようになっても
部活のマネージャーになっても
一緒に帰った仲でも・・
それは教室に居る時の彼女と
そこから離れた彼女とではあからさまに雰囲気、態度が違っているからで
そう、教室に入ってしまえば
何とも形容し難い“壁“・・・とでも言うのか、とにかく他人を受け付けない空気が張り詰めている様に感じる
それを感じた僕は、無理に教室内で彼女に話しかける事はしなかった
・・・まぁそこから一歩でも出てしまえば、僕らに対しては他人に見せる事のない、優しい雰囲気で笑いかけてくれるんだから、別に気にしてないケド
だからクラスで僕と苗字が親しい仲だと言うことを知っているのは、山口だけ
ましてや、苗字がバレー部のマネージャーしてるなんて、クラスメイトは夢にも思わないだろう
他のヤツらはそんな彼女を知らないから
それだけで、少し優越感を感じる僕は相当なんだと思う
「うわっ!負けたー!」
突然後ろの方で声が上がる
山口とそっちの方を見ると、数人の男子連中が何やら騒いでいた
「なに騒いでるんだろーね、ツッキー」
「・・・僕に分かるワケないデショ」
ウザったそうにそれを眺めて、弁当に向き直った
チラッと苗字を盗み見る
相変わらず彼女はひとりで黙々と、お弁当の唐揚げを口に運んでいた
・・・部活の時、唐揚げ食べてたの言ったら、どんな顔するだろ
そんな事を思っていると、ヒョイっと山口の顔が横から現れ、「やっぱり、誘ってみる?」と上目遣いで聞いてくる
「ーーっうるさい、山口」
ゴメン、ツッキー!と謝る山口を余所に、僕はお弁当のおかずを頬張った